調査シリーズNo.249
人への投資と企業戦略に関するパネル調査
(JILPT 企業パネル調査)(第2回)

2025年2月14日

概要

研究の目的

企業における「人への投資」をはじめとする人材戦略の変化が経営や労働市場に及ぼしていく影響について継続的に把握することを目的とした企業パネル調査(同一の企業を対象に連続して行う調査)であり、2022年から毎年度1回実施している。今後、本調査によるパネルデータの蓄積を待って更なる分析を進めることを想定しているが、本調査シリーズは、その第2回調査の集計結果を公表するもの。

研究の方法

中小企業を対象としたウェブモニター調査及び大企業を対象とした郵送調査による企業パネル調査(同一企業に対して連続して行う調査)。中小企業調査は2023年9月1日~13日に実査。大企業調査は2023年9月29日~10月20日に実査。有効回収数は、中小企業調査で2,518社(有効回収率20.9%)、大企業調査で806社(有効回収率16.1%)。

主な事実発見

パネル調査であることを生かして第2回調査の結果と第1回調査の結果とを比較したところ、次のことが分かった。

1.人材育成・教育訓練

  • 人材育成のための研修の受講者の割合については、引き続き大企業の方が高く、企業規模による取組格差はみられるものの、この1年間において中小企業、大企業ともに全体として受講者割合は概ね拡充傾向。

図表1-1 人材育成のための研修の受講者の割合(中小企業)

中小企業調査では、前回よりも「研修は実施していない」、「20%未満」の割合が低下し、20%以上の選択肢の割合が上昇。遷移表をみると、個々の企業の動きは様々だが、全体としては受講者割合の分布は上昇方向にシフトし、概ね拡充傾向にあることがうかがえる。

図表1-2 人材育成のための研修の受講者の割合(中小企業)遷移表

 第2回調査 
  研修は実施していない ~20%未満 20~40%未満 40~60%未満 60~80%未満 80%以上 合計(n)
第1回調査 研修は実施
していない
64.6% 23.2% 4.8% 2.6% 1.3% 3.5% 604
~20%未満 14.9% 55.0% 16.5% 5.7% 2.1% 5.9% 680
20~40%未満 7.1% 35.3% 35.9% 11.5% 5.1% 5.1% 156
40~60%未満 4.3% 18.8% 26.1% 27.5% 13.0% 10.1% 69
60~80%未満 10.5% 10.5% 28.9% 2.6% 21.1% 26.3% 38
80%以上 5.8% 24.8% 9.1% 6.6% 12.4% 41.3% 121

図表1-3 人材育成のための研修の受講者の割合(大企業)

大企業調査では、前回よりも「研修は実施していない」、「20%未満」のほか、「60~80%未満」の割合が低下し、20~60%未満、80%以上の選択肢の割合が上昇。遷移表をみると、個々の企業の動きは様々であるが、全体としては受講者割合の分布は上昇方向へのシフトし、概ね拡充傾向にあることがうかがえる。

図表1-4 人材育成のための研修の受講者の割合(大企業)遷移表

 第2回調査 
  研修は実施していない ~20%未満 20~40%未満 40~60%未満 60~80%未満 80%以上 合計(n)
第1回調査 研修は実施
していない
9.1% 72.7% 18.2% 0.0% 0.0% 0.0% 11
~20%未満 1.8% 48.2% 32.1% 7.1% 0.0% 10.7% 56
20~40%未満 0.0% 20.0% 30.0% 17.5% 7.5% 25.0% 40
40~60%未満 16.7% 16.7% 16.7% 33.3% 0.0% 16.7% 6
60~80%未満 0.0% 0.0% 26.7% 13.3% 40.0% 20.0% 15
80%以上 4.0% 16.0% 16.0% 16.0% 12.0% 36.0% 25
  • 研修の受講者一人当たり受講時間に関しても、引き続き大企業の方が充実しており、企業規模による取組格差はみられるものの、この1年間において、中小企業、大企業ともに、全体として受講時間は概ね拡充傾向。

図表2-1 人材育成のための研修の受講者一人当たりの年間研修時間(中小企業)

中小企業調査では、未実施の割合が低下し、1日未満~4日未満の選択肢の割合が微増している。遷移表をみると個々の企業の動きは様々であるが、全体としては受講時間が増加する方向への分布のシフトがみられ、概ね拡充傾向にあることがうかがえる。

図表2-2 人材育成のための研修の受講者一人当たりの年間研修時間(中小企業)遷移表

 第2回調査 
  研修は実施していない ~1日未満 1~2日未満 2~4日未満 4~6日未満 6~10日未満 10日以上 合計(n)
第1回調査 研修は実施
していない
63.9% 8.2% 13.9% 7.8% 2.0% 0.8% 3.3% 599
~1日未満 21.9% 25.5% 37.0% 10.4% 2.6% 0.5% 2.1% 192
1~2日未満 10.6% 17.3% 37.1% 22.9% 5.7% 4.1% 2.3% 388
2~4日未満 10.0% 10.0% 33.0% 31.0% 8.4% 4.2% 3.4% 261
4~6日未満 3.4% 5.6% 22.5% 31.5% 24.7% 5.6% 6.7% 89
6~10日未満 6.8% 9.1% 11.4% 34.1% 20.5% 6.8% 11.4% 44
10日以上 10.6% 10.6% 13.6% 6.1% 9.1% 13.6% 36.4% 66

図表2-3 人材育成のための研修の受講者一人当たりの年間研修時間(大企業)

大企業調査では、未実施や「1~2日未満」の割合が低下し、「1日未満」は変わらず、「2~4日未満」、「6~10日未満」などで割合が上昇している。ただし、「10日以上」も低下している。遷移表をみると、個々の企業の動きは様々であるものの、研修を実施していなかった企業が比較的短期間の研修を行う動きや、1日未満や2日未満など比較的短期間の研修を行っていた企業が受講日数を増加させる動きなどが確認でき、全体としては概ね拡充傾向にあることがうかがえる。

図表2-4 人材育成のための研修の受講者一人当たりの年間研修時間(大企業)遷移表

第2回調査 
  研修は実施していない ~1日未満 1~2日未満 2~4日未満 4~6日未満 6~10日未満 10日以上 合計(n)
第1回調査 研修は実施
していない
10.0% 30.0% 30.0% 0.0% 20.0% 0.0% 10.0% 10
~1日未満 0.0% 28.6% 52.4% 14.3% 0.0% 4.8% 0.0% 21
1~2日未満 1.9% 14.8% 50.0% 27.8% 3.7% 1.9% 0.0% 54
2~4日未満 4.0% 16.0% 20.0% 40.0% 12.0% 8.0% 0.0% 25
4~6日未満 0.0% 0.0% 30.0% 20.0% 10.0% 30.0% 10.0% 10
6~10日未満 0.0% 0.0% 12.5% 25.0% 12.5% 50.0% 0.0% 8
10日以上 0.0% 0.0% 28.6% 14.3% 14.3% 28.6% 14.3% 7
  • 能力開発費の状況について、現金給与総額(全従業員分の総計)に対する能力開発費の比率は、中小企業調査では、「0.1超~0.5%」が4割近くと最多。「0超~0.1%」と合わせると6割程度を占める。「0.5超~1%」まで合わせると8割程度、「1超~2%」まで加えると9割程度を占める。

    大企業調査でも、「0.1超~0.5%」が4割程度と最多。「0超~0.1%」と合わせると7割程度を占める。「0.5超~1%」まで合わせると8割程度、「1超~2%」まで加えると9割程度を占める。能力開発費を支出している企業に限れば、中小企業調査と大企業調査とで概ね同様の傾向。

2.企業の人材マネジメントについて

(1) 人材マネジメント・人員の過不足状況

  • 人員の過不足状況については、中小企業では正社員を中心に人手不足感が強い状況が続いており、大企業では、正社員、非正社員ともに人手不足感が強まっている。職種・人材別には、中小企業、大企業を通じて、デジタル化を担う人材や現場の技能職・サービス職・販売職などで引き続き人手不足感が強い状況。
  • 人材マネジメントの取組については、「従業員間の不合理な格差の解消」などの雇用管理に関する項目などでは、ここ1年間においても、中小企業、大企業ともに、多くの項目で着実な進展がみられた。他方で、人材育成に関する項目については、大企業において非正社員を中心に取組の進展が顕著であったが、それに比べると中小企業での取組の進展は小幅なものにとどまった。
  • 働き方や人材育成に関する具体的な制度については、柔軟な働き方や育児中の社員への支援に関する制度では、大企業の方が元々の実施割合が高いが、中小企業においても、この1年間に着実な進展がみられた。他方で、健康経営や従業員のインセンティブを高めるための制度に関しては、大企業での取組の進展が目立った。

(2) 従業員の満足度・ワークエンゲージメント、健康経営

  • 従業員の満足度やワークエンゲージメントの調査については、前回調査でも、総じて大企業の方が取組に積極的であったが、この1年間を経て、大企業と中小企業における取組の格差が拡大していることがうかがえる。
  • 従業員の健康に関するデータの把握状況については、中小企業、大企業ともに、この1年間に健康状況の把握の取組に関して着実な進展がみられたが、特に大企業の方で積極的であり、取組格差は拡大していることがうかがえる。

3.デジタル技術(AI等)の活用、在宅勤務(テレワーク)について

(1) デジタル技術(AI等)の活用

  • デジタル技術に関しては、前回調査においても総じて大企業の方で活用割合が高かったが、この1年間のデジタル技術の活用状況の進展をみても、大企業の方が中小企業よりも活用に積極的であり、大企業と中小企業との取組格差が拡大していることがうかがえる。
  • AI(人工知能)を活用したデジタル技術の導入に関しては、大企業と中小企業とで、導入状況だけでなく、将来的な認識にも格差が拡大していることがうかがえる。

(2) 在宅勤務(テレワーク)制度

  • 制度の導入状況については、調査対象の中小企業では変化が小さかった一方、調査対象の大企業ではコロナ禍の期間において一旦導入していた在宅勤務制度が廃止されている可能性がある。
  • 在宅勤務(テレワーク)を実際に活用した従業員の割合をみると、調査対象の中小企業では制度活用の着実な進展がみられた一方、大企業では、より限定的な利用となっている傾向がうかがえる。
  • 最適と考える活用頻度については、調査対象企業では中小企業、大企業ともに低下傾向がみられ、特に大企業で顕著であった。また、実際の活用頻度は、制度導入企業に限定すれば、中小企業では拡大と縮小の双方の動きがみられたのに対し、大企業では縮小傾向がみられた。

図表3-1 在宅勤務制度の活用の頻度(中小企業)

在宅勤務(テレワーク)について、最適な活用頻度は、中小企業調査、大企業調査ともに週2~3日などの割合が低下し、0~週1日の割合が上昇するなど、全体として低下傾向がみられ、特に大企業で顕著であった。
実際の活用頻度は、中小企業調査では、0日の割合が上昇した一方、週2~4日の選択肢で割合が低下しており、全体として低下傾向にみえる。しかしながら、遷移表をみると、個々の企業の動きは様々である中で、前回調査で「週5日以上」とした企業の多くが「0日」や「週1日」となる動きがある一方で、前回調査で0日~週4日とした企業の多くで日数が増加した動きも確認でき、単に多くの企業で活用頻度が低下している訳ではないことが分かる。

※調査時点現在で、在宅勤務(テレワーク)制度の導入について、「全社員に対して導入している」「職種別など、一部の従業員に対して導入している」と回答した企業を対象に集計。

図表3-2 在宅勤務制度の活用の頻度・現在(中小企業)遷移表

第2回調査
  0日 週1日 週2日 週3日 週4日 週5日以上 合計(n)
第1回調査 0日 16.7% 54.0% 19.8% 2.4% 1.6% 5.6% 126
週1日 13.9% 28.7% 39.8% 8.3% 3.7% 5.6% 108
週2日 7.3% 11.0% 29.3% 28.0% 12.2% 12.2% 82
週3日 4.0% 6.0% 4.0% 22.0% 34.0% 30.0% 50
週4日 7.2% 4.3% 7.2% 11.6% 13.0% 56.5% 69
週5日以上 61.2% 30.6% 2.0% 2.0% 0.0% 4.1% 49

図表3-3 在宅勤務制度の活用の頻度(大企業)

大企業調査では、「週1日」が最頻値であり、割合が上昇した一方で、週2日以上の選択肢の割合は低下し、「0日」も1割程度を占めた。遷移表をみると、日数が減る動きはみられるものの、日数が増える動きは顕著ではなく、全体として活用頻度の低下傾向がみられた。以上のように、制度導入企業における実際の活用頻度は、中小企業では拡大と縮小の双方の動きがみられたのに対し、大企業では縮小傾向がみられた。

※調査時点現在で、在宅勤務(テレワーク)制度の導入について、「全社員に対して導入している」「職種別など、一部の従業員に対して導入している」と回答した企業を対象に集計。「現在」の頻度の「0日」は第2回調査でのみ尋ねられた項目

図表3-4 在宅勤務制度の活用の頻度・現在(大企業)遷移表

第2回調査
  0日 週1日 週2日 週3日 週4日 週5日以上 合計(n)
第1回調査 週1日 15.4% 56.4% 17.9% 7.7% 0.0% 2.6% 39
週2日 6.1% 39.4% 45.5% 9.1% 0.0% 0.0% 33
週3日 0.0% 30.8% 53.8% 15.4% 0.0% 0.0% 13
週4日 0.0% 0.0% 33.3% 33.3% 33.3% 0.0% 3
週5日以上 33.3% 16.7% 0.0% 0.0% 16.7% 33.3% 6

4.新型コロナウイルス感染症の影響について

  • 調査時点は、新型コロナウイルス感染症の5類移行(2023年5月)後の2023年8月時点であったものの、調査対象の中小企業、大企業ともに4割程度の企業で、何らかの影響が残っていた。

5.2023年度の賃上げの状況について

  • 中小企業調査では、9割方の企業で何らかの賃上げの取組がなされた。特に「ベースアップ」は調査対象企業の5割程度で、「新卒者の初任給の増額」も2割程度で実施され、実施割合が比較的大きく上昇。また、「非正規雇用・パート労働者の昇給」も2割程度の企業で実施。

    大企業調査では、大半の企業で何らかの賃上げの取組がなされた。特に「ベースアップ」は調査対象企業の6割程度で、「新卒者の初任給の増額」も5割程度で実施され、実施割合が25%ポイント程上昇。また、「非正規雇用・パート労働者の昇給」も5割程度の企業で実施。

本文

分割版

研究の区分

プロジェクト研究「労働市場とセーフティネットに関する研究」
サブテーマ「企業の人材戦略の変化とその影響に関する研究」

研究期間

令和5~6年度

執筆担当者

髙松 利光
労働政策研究・研修機構 統括研究員
山口 哲司
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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内容について
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