調査シリーズNo.233
ものづくり産業のデジタル技術活用と
人材確保・育成に関する調査結果
概要
研究の目的
近年、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、デジタル技術の活用が加速している。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ビッグデータなど、多様なデジタル技術が多くの産業や社会の様々な場面で幅広く取り入れられるようになっている。製造業においては、デジタル技術は企業の生産性向上や作業・品質の高度化・安定化、競争力の強化等につながると考えられるが、そのためにはデジタル化に対応できる人材の確保や育成が重要であり、企業にとって喫緊の課題となっている。
デジタル化を進めるために、実際にものづくりを行う現場では、どのようなデジタル技術の活用が進んでおり、活用の結果、どのような効果がもたらされているのだろうか。また、デジタル化に対応できる人材の確保・育成として、企業はどのような取り組みを行っているのだろうか。デジタル化の浸透とそれに対応する働き方およびデジタル化に伴う人材確保、育成に向けた状況を把握するとともに、今後に向けた課題等を探るため、企業アンケート調査を行った。
研究の方法
全国の日本標準産業分類(平成25年10月改訂)による項目「E 製造業」に分類される企業のうち、〔プラスチック製品製造業〕〔鉄鋼業〕〔非鉄金属製造業〕〔金属製品製造業〕〔はん用機械器具製造業〕〔生産用機械器具製造業〕〔業務用機械器具製造業〕〔電子部品・デバイス・電子回路製造業〕〔電気機械器具製造業〕〔情報通信機械器具製造業〕〔輸送用機械器具製造業〕の従業員数30人以上の企業2万社。
総務省の経済センサス活動調査(平成28年版)の確報集計での企業分布に従い、民間信用調査機関所有の企業データベースから業種・規模別に層化無作為抽出した。
調査期間は、2021年12月13日から12月24日。有効回収数は3,677社(有効回収率18.4%)。
主な事実発見
- ものづくりの工程・活動において、1つの工程・活動でもデジタル技術を活用している企業の割合は67.2%と6割を超える。同割合は企業規模が大きくなるほど高くなり、「300人以上」では8割以上(83.2%)にのぼる(図表1)。
- デジタル技術を活用する狙い(複数回答)としては、「生産性の向上」(74.4%)が最も割合が高く、次いで「開発・製造等のリードタイムの削減」(59.0%)、「作業負担の軽減や作業効率の改善」(52.9%)、「在庫管理の効率化」(51.2%)、「高品質のものの製造」(45.2%)、「製造経費の削減」(45.1%)などの順で高くなっている。
- 活用による効果(複数回答)についても、活用する狙いの回答順位とおおむね同様であり、「生産性の向上」(55.6%)、「開発・製造等のリードタイムの削減」(41.5%)、「作業負担の軽減や作業効率の改善」(37.3%)、「在庫管理の効率化」(33.9%)、「高品質のものの製造」(31.4%)、「過去と同じような作業がやりやすくなる(仕事の再現率向上)」(30.0%)などの順となっている。
- デジタル技術を活用している企業が、活用を進めるために強化した人材育成・能力開発の取り組み(複数回答)では、「作業標準書や作業手順書の整備」(40.0%)、「OFF-JTの実施」(36.0%)などの回答割合が高い。8割以上(84.7%)が何らかの強化策を実施している。
- デジタル技術を活用している企業が、活用に向けたものづくり人材の確保に向けて実施していること(複数回答)では、「自社の既存の人材に対してデジタル技術に関連した研修・教育訓練を行う」が48.5%で最も高く、「デジタル技術に精通した人材を新卒採用する」が9.9%、「デジタル技術に精通した人材を中途採用する」が26.6%、「出向・派遣等により外部人材を受け入れる」が5.4%となっている。これら4項目のいずれかをあげた企業に、確保したい人材が精通するデジタル技術の分野(複数回答)を聞くと、「IoT(モノのインターネット化)」、「AI(人工知能:画像・言語認識技術含む)」などの回答割合は、「300人以上」ではそれぞれ5割前後に及ぶ(それぞれ54.7%、48.0%)(図表2)。
n | ICT(情報通信技術) | IoT(モノのインターネット化) | AI(人工知能:画像・言語認識技術含む) | RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション) | CAD/CAM | VR/AR/MR/SR(仮想現実等) | ロボット | クラウド | プログラミング | ビッグデータ | 生産管理システム | 制御技術 | その他 | 無回答 | ||
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計 | 1,812 | 33.7 | 30.8 | 19.4 | 19.6 | 50.7 | 2.4 | 21.3 | 20.4 | 31.2 | 5.4 | 46.6 | 21.8 | 0.9 | 7.1 | |
従業員規模別 | 49人以下 | 596 | 25.0 | 24.3 | 12.4 | 13.1 | 58.6 | 0.8 | 19.0 | 16.1 | 27.5 | 3.4 | 43.3 | 18.6 | 0.8 | 8.9 |
50人~99人 | 572 | 32.2 | 26.2 | 16.1 | 16.8 | 48.3 | 2.4 | 19.6 | 19.4 | 27.6 | 3.0 | 49.1 | 20.6 | 0.7 | 7.7 | |
100人~299人 | 484 | 40.7 | 36.8 | 23.3 | 23.1 | 47.7 | 2.5 | 23.8 | 23.8 | 34.7 | 5.2 | 49.2 | 23.6 | 0.8 | 5.8 | |
300人以上 | 150 | 50.7 | 54.7 | 48.0 | 45.3 | 38.7 | 8.7 | 30.7 | 30.7 | 50.0 | 23.3 | 40.7 | 33.3 | 2.7 | 2.0 |
- すべての回答企業にデジタル技術を活用していく上での課題(複数回答)を聞くと、「デジタル技術導入にかかるノウハウの不足」(58.6%)、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」(41.8%)、「デジタル技術導入にかかる予算の不足」(40.2%)などの回答割合が高くなっている。
政策への貢献
「令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2022年版ものづくり白書)及び「令和4年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2023年版ものづくり調査)に活用。また、人材開発行政にかかる政策立案のための基礎資料として活用される。
本文
研究の区分
情報収集
研究期間
令和3~4年度
執筆担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部 リサーチフェロー
- 藤本 真
- 労働政策研究・研修機構 人材開発部門 主任研究員
- 荒川 創太
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員
- 田中 瑞穂
- 労働政策研究・研修機構 調査部 調査員
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.167)。
関連の研究成果
- 調査シリーズNo.218『ものづくり産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査結果』(2022年)
- 調査シリーズNo.204『デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査結果』(2020年)
- 調査シリーズNo.194『ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果』(2020年)
- 調査シリーズNo.183『ものづくり産業における労働生産性向上に向けた人材育成と能力開発に関する調査結果』(2018年)
- 調査シリーズNo.177『ものづくり産業を支える企業の労働生産性向上に向けた人材確保、育成に関する調査結果』(2017年)
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