調査シリーズNo.223
グローバル人材の採用と育成
―日本企業のグローバル戦略に関する研究(3)―

2022年3月31日

概要

研究の目的

本研究の目的は、わが国企業が現在、どのような認識からいかなるグローバル戦略を選択し、その際、どういった課題を抱えているのかを探ることにある。

周知のとおり、AIやITを中心とした技術革新が仕事の進め方そのものが根本から変え、さらに、わが国国内と国外との関係も急速に変えつつある中で、現在から今後にわたり、海外関係、とりわけアジア地域との関係緊密化がいっそう進展することは確実であろう。その際、わが国の雇用や労働、そして、経済社会全体の発展に寄与するような方向性を検討するためには、グローバル化の中でのわが国企業の戦略と、海外、とりわけ、アジアの国々の経済・労働社会に関する適確な状況把握がぜひとも必要である。

わが国企業がグローバルに事業展開をする中で、現在から今後、短期的、中長期的にどういった戦略を採用し遂行しようとしていくのかを検討することが非常に重要となってきている。中でも、ダイバーシティが進む中、現在から今後に向けて必要となる人材を以下に確保・育成し、将来の経営人材へとつなげるのかは、企業により最重要課題の一つである。こうした点を中心として、今後の雇用システムの中で重要な一つの要素となるわが国企業のグローバル戦略を検討することが本書の目的である。

研究の方法

アンケート調査結果の分析

期間:
2020年6月29日~8月6日
対象:
自社営業所、または何らかの資本・人的関係があると判断できる企業が海外に存在する企業10,000社
回収数(率):
776票(7.8%)

主な事実発見

調査結果概要

① 今回調査した企業は、海外に拠点を持つ、もしくは、海外での事業展開をしている企業であるが、その全体の中では、きわめて規模が小さな企業となっている。そのため、基本的な雇用制度をはじめそこからみえる企業像は、まさに中小規模企業の特徴と重なっている。

② 育成に関しては、コア人材を選抜する範囲は、本社内か日本国内の従業員が想定されている。求める能力は、主体性・積極性、責任感・使命感、リーダーシップである。

③ 採用に関して特徴的と思われるのは、基幹社員を主として中途市場から採用しようとしている企業が多いことである。そうした状況からも、選抜の時期は定めないという企業が多数を占める。

④ ダイバーシティ人材に関しては、積極性の有無はともあれ、「取り組んでいる」との回答が過半数となっている。一方で、取り組んでいないとの回答も半数近くある。対象としては、女性、外国人が多い。

⑤ 外国人正社員を雇用する企業は4割強であり、その理由は、「新たな視点からのイノベーション」が過半数で第1位である。第2、3位は「人手不足の解消」、「顧客の多様化対応」が続く。働きぶりに関する評価は概ね肯定的であり、「定着は重要」で、そのために「企業のシステムを変えていく必要がある」と考えているものの、「管理職への登用」することまでは至っていない。

図表1 ダイバーシティ人材・外国人正社員を雇用する理由

図表1画像

図表2 外国人人材についての考え

図表2画像

⑥ コロナと経営に関しては、コロナ禍で経営方針が「変化した」が約2/3と多数を占めるが、どちらかといえば「安定している」が6割ほどとなっている。人事施策、組織構造、経営戦略への影響については、大多数は「変わっていない」。気温的には「変える必要がない」と考えているためである。

⑦ 事業の海外展開に関しては、実施しているのが4割という回答であった。その期間は相対的に長くはない。拠点の雇用者数も小規模で、「10人以下」が4割強を占める。一方で、業績は好調な企業が全体の約半数となっている。

海外展開をしている国・地域、拠点の数は1国・1箇所が5割超と、もっとも多い。拠点の経営管理体制に関しては、意思決定のイニシアティブは本社が取るほうが6割と多く、経営資源の配置では、本社と拠点とがほぼ同じ水準にある。経営戦略の方向性としては、大多数がその拠点の状況に合わせるという結果になっていた。

決定権限の所在に関しては、現地側が同時に判断・決定できるのは、部材・サービスの「購入先、販売先の変更」に留まっている。

拠点の経営人材に関しては、日本本社からの派遣が半数弱と最も多いが、現地従業員からの内部登用も全体の1/4ほどとなっている。本社-現地間の意思疎通は、大多数がうまくいっていると考え、使用言語は日本語が多い。重要案件については、コロナ禍以前では本社からの出張が最も多かったが、コロナ以降はウェブ会議が多くなっている。

⑧ 海外拠点は、国・都市共に、中国、東南アジア地域が多い。そうした展開によるメリットは、市場規模の大きさと発展性、低廉な労働力である。デメリットとしては、人件費の高騰、従業員の教育・訓練の不足が上げられている。

今後の展望に関しては、現状維持が1/3でもっとも多い。拡大・縮小が1割ほどである。事業を行っている場合には、拡大志向が4割、現状維持が5割ほどである。今後の人事施策、組織構造、経営戦略については、「変える必要がない」が最も多く、「変える必要があるが、まだ変えていない」が続いている。

また、コア人材・ダイバーシティ人材の捉え方、外国人雇用について明らかとなった諸点は、以下のとおりである。

① コア人材の区分について、それぞれの属性変数と有意になったのは創業年数(有意水準10%。カッコ内の数値は有意水準。以下同様)と業種(1%)であった。また、どこまでの範囲で所属する人材をコア人材とみなすのかについては、創業年数(5%)、業種(5%)、従業員数(1%)、売上高(1%)、海外拠点の有無(1%)がそれぞれ統計的に有意であった。

② コア人材に対して求める能力について、創業年数の新しい企業ほど英語力(1%)、英語以外の語学力(10%)を求める一方、リーダーシップ(5%)は求めない傾向がみられた。非製造業に比べて製造業の企業は状況把握能力(10%)を求める一方、英語以外の語学力(10%)は求めない傾向があった。従業員数に関しては、企業規模が大きいほどコミュニケーション能力(5%)、チャレンジ精神(10%)、リーダーシップ(1%)を求めていた。売上高に関しても、売上高の多い企業ほどコミュニケーション能力(準1%)やチャレンジ精神(1%)、課題遂行能力(1%)、状況把握能力(5%)、リーダーシップ(1%)を求め、主体性・積極性(5%)や英語以外の語学力(5%)を求めない。海外拠点のある企業の方が、異文化理解能力(1%)を求めるが、リーダーシップ(10%)は求めない傾向があった。

③ コア人材の採用方法が有意に異なるのは、創業年数(1%)、従業員数(1%)、売上高(1%)であった。またキャリアの選抜時点に関して有意な関連がみられたのは、創業年数(1%)と売上高(10%)であった。

④ コア人材の育成で重視する点について、いくつかの国内拠点での経験を積むことが重要だと有意に回答したのは、非製造業(1%)と売上高の多い企業(1%)であった。いくつかの海外拠点で経験を積むことが重要だという質問に有意差がみられたのは、売上高(1%)と海外拠点の有無(1%)であった。本社内での部署異動をともなう経験を重要だという質問に有意差がみられたのは、創業年数(5%)、製造業(1%)、従業員数(1%)、売上高(1%)であった。本社内の特定部署での経験を重視する傾向は、従業員数(5%)、売上高(1%)、海外拠点の有無(10%)に有意な差がみられた。

⑤ ダイバーシティ人材の採用に対する積極性については、創業年数、従業員数、売上高、海外拠点の有無が、それぞれ1%水準で統計的に有意だった。今後のダイバーシティ人材に対する必要性という点においては、従業員数、売上高、海外拠点の有無という3つの変数が1%水準で統計的な有意を示していた。

⑥ 外国人正社員の有無は、業種(5%)、企業規模(1%)、売上高(1%)、海外拠点の有無(1%)がそれぞれ統計的に有意であった。

⑦ 外国人材の雇用理由について、イノベーションの喚起と答える傾向があったのは海外拠点のある企業(1%)であり、顧客の多様化に対応するためと答える傾向があったのは非製造業(1%)や海外拠点のある企業(10%)であった。社会的な評価を上げると答える傾向があったのは非製造業(10%)であり、特に理由なく外国人を雇用すると答えたのは海外拠点のない企業(10%)であった。

⑧ 自社で働く外国人正社員に対する意識として、製造業に比べて非製造業の方が、自社では優秀な外国人を雇っている(5%)、日本人とは異なる役割を果たしている(1%)、本社のなかで中核的な役割を担う外国人を雇っている(5%)と肯定的に回答する有意な傾向があった。売上高に関しては、日本人とは異なる役割を果たしている(5%)、外国人雇用は自社にとって必要不可欠だ(5%)という回答項目に有意な差が見られた。海外拠点の有無に関しても、自社では優秀な外国人を雇っている(5%)という回答項目に有意な差が見られた。

⑨ 今後の外国人雇用に関する意識については、創業年数の少ない企業に、「外国人を多く採用していきたい」(1%)、「外国人を多く管理職に登用していきたい」(1%)、「このような外国人を雇用したいという明確なイメージをもっている」(1%)、「優秀な外国人を定着させることは企業にとって重要な要素だと思う」(5%)、「外国人を雇用するための積極的な理由がある」(5%)と回答する傾向があった。業種に関しては、製造業の方が管理職への登用に対して肯定的に捉える傾向(5%)があった。従業員数でみると、従業員の多い企業のほうが外国人を多く採用したい(10%)と考えるが、管理職化にはやや否定的(5%)な傾向が確認された。売上高、海外拠点の有無は、今後の外国人雇用に関する質問すべてにおいて統計的に有意な関連がみられた。

政策的インプリケーション

わが国企業のグローバル展開に関する情報を収集し、政策立案のための基礎的データを提供する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「日本企業のグローバル戦略に関する研究」

研究期間

平成29年~令和3年度

執筆担当者

中村 良二
労働政策研究・研修機構 特任研究員
園田 薫
日本学術振興会 特別研究員

関連の研究成果

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