調査シリーズNo.190
日本企業のグローバル戦略に関する研究
概要
研究の目的
本研究の目的は、わが国企業が現在、どのような認識からいかなるグローバル戦略を選択し、その際、どういった課題を抱えているのかを探ることにある。
周知のとおり、AIやITを中心とした技術革新が仕事の進め方そのものを根本から変え、さらに、わが国国内と国外との関係も急速に変えつつある中で、現在から今後にわたり、海外関係、とりわけアジア地域との関係緊密化がいっそう進展することは確実であろう。その際、わが国の雇用や労働、そして、経済社会全体の発展に寄与するような方向性を検討するためには、グローバル化の中でのわが国企業の戦略と、海外、とりわけ、アジアの国々の経済・労働社会に関する適確な状況把握がぜひとも必要である。
わが国企業がグローバルに事業展開をする中で、現在から今後、短期的、中長期的にどういった戦略を採用し遂行しようとしているのであろうか。今後の雇用システムの中で重要な一つの要素となるわが国企業のグローバル戦略を検討することが本書の目的である。
研究の方法
アンケート調査結果の分析
- 期間:
- 2018年9月18日~10月12日
- 対象:
- 東京証券取引所一部・二部に上場する2,608社
- 回収数(率):
- 171票(6.6%)
主な事実発見
Ⅰ 本社と現地法人との関係性
- 決定権限に関しては、おおまかに言えば、「基本的には本社が決定」という企業が、約6割を占める。その中で、「現地側の裁量が大きい」のが、約1/3となっている。この「現地側の裁量が大きい」のは、社歴の長い企業、非製造業よりも製造業企業で多い。
- 本社と現地側のコミュニケーション全般に関しては、「うまくいっている」との認識が、約7割でみられる。製造業の大多数が「うまくいっている」と認識しているのに対し、非製造業では、半数を超える水準に留まっている。
- 本社の承認を受けずに現地で決定できるのは、「部材・サービスの主な購入先の変更」、「製品・サービス・商品の主な販売先の変更」の2点と考えられる。
- 中国でのビジネスを展開する際の経営上のメリットは、現地市場の規模が大きく、今後の市場の発展が見込めるためである。非製造業に比べ、製造業の指摘率が高い。
- その際、経営課題としては、人件費の高騰、競合企業の台頭があげられる。非製造業においては、「優秀な人材の確保」、「新規顧客の開拓」が製造業に比して高い。
- 人材の採用については、製造業ではホワイトカラーに関して人材確保競争が問題であり、非製造業ではホワイトカラーでは、優秀な人材の応募がないことがあげられる。
- 人材の流出に関しては、かつて取りざたされたほどの緊急課題とはみられていない。ただ、先ほどの人材採用の問題とも関連して、より社歴の短い企業、今後拡大を目指す企業では、部長層、中堅層などの流出が問題となっている。
- 現地化の状況の現地人材の採用・育成、現地従業員との円滑な関係などについて、製造業では肯定的な回答が全般的にみられる一方で、非製造業では否定的な回答が多くみられた。
- 今後の発展のために重要な要素としては、やはり、ヒトに関して、現地人材の採用・育成、現地従業員への権限委譲・管理職化があげられる。
Ⅱ 内なるグローバル化
「内なるグローバル化」志向を示す変数は、互いに強く相関していた。一例を挙げると、グローバル化の推進に前向きな企業ほどグローバル人材の確保・育成には満足していない傾向や、実際にグローバル人材や中核的役割を担う外国人を雇用している企業ほど外国人雇用に明確なビジョンをもっており、また外国人に対する偏見や雇用の困難を感じていない傾向がみられた。
(企業の属性を説明変数とする重回帰分析の結果)
- 創業年数が短いほど、グローバル化は必要だと考えていた。
- 従業員数が多い企業は、 (1) 同じ能力ならば外国人よりも日本人を採用したい、 (2) 外国人労働者は今後増えていくだろうと考える傾向があった。
- 売上高が多い企業には、 (1) 同じ能力ならば日本人を採用するとは限らない、 (2) グローバル化対応は早急に行うべき、 (3) 外国人労働者の増加は望ましい、 (4) 外国人雇用のために企業のシステムを変える必要があるなどと「内なるグローバル化」への肯定的な傾向がみられた一方で、 (5) 外国人雇用は難しいことであるとも感じていた。
- 外国人社員を雇う企業は、 (1) よりグローバル化の必要性を感じており、 (2) グローバル化対策を早急に行うべきだという意識や、 (3) 中核的な役割を担う外国人を現在雇っており、 (4) 将来的にも中核的な役割を担う外国人を雇いたいとする態度、さらには (5) 外国人雇用の積極的な理由があり、 (6) 優秀な留学生を労働力としたいなどの「内なるグローバル化」に対する積極的な姿勢がみられた。その一方で、こうした企業には、 (7) 外国人を異なる存在として扱うべきではない、 (8) 外国人は日本人より離職しやすいとみなしていた。
- 海外現地法人のある企業には、そうでない企業に比べて (1) グローバル化の必要性を感じ、 (2) グローバル化対策を早急に行うべきだと考える傾向が見出された。
- 広範囲に海外展開している企業は、 (1) グローバル化の必要性を感じ、 (2) グローバル人材を育成・確保できていると感じていた。また (3) 外国人を管理職に登用する必要があるとも考えており、 (4) 外国人に企業内の新たな役割を期待していた。ほかにも (5) 優秀な留学生を労働力としたい、 (6) 同じ能力ならば日本人を採用するとは限らないなどの「内なるグローバル化」志向がみられた。
- 非製造業に比べると、製造業は (1) グローバル化対策を早急に行うべきだと考える一方で、 (2) 外国人を採用する必要性を感じていないことが明らかになった。
- 新入社員にグローバルな能力を求めるほど、 (1) グローバル化の必要性、 (2) 外国人の採用・管理職化の必要性を感じており、 (3) 優秀な留学生を労働力としたい、さらには (4) 同じ能力ならば日本人を採用するとは限らないと考える傾向があった。
政策的インプリケーション
わが国企業のグローバル展開に関する情報を収集し、政策立案のための基礎的データを提供する。
本文
全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:453KB)
- 第1章 はじめに(PDF:807KB)
- 第2章 調査結果概要(PDF:874KB)
- 第3章 本社と現地法人との関係性(PDF:799KB)
- 第4章 日本企業の「内なるグローバル化」志向について(PDF:1.9MB)
- 第5章 むすびにかえて(PDF:586KB)
- 付属資料(PDF:2.6MB)
研究の区分
プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「産業構造と人口構造の変化に対応した雇用システムのあり方に関する研究」
研究期間
平成29~30年度
研究担当者
- 中村 良二
- 労働政策研究・研修機構 副統括研究員
- 園田 薫
- 東京大学大学院人文社会系研究科