調査シリーズNo.154
離職者訓練(委託訓練)に関する調査研究
―訓練施設・訓練受講者のアンケート調査結果―

平成28年5月31日

概要

研究の目的

ハローワークの求職者を対象とする離職者訓練は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が全国各地に設けているポリテクセンターや、主に都道府県が運営する職業能力開発校で行われる「施設内訓練」と、業務委託を受けた民間の企業・法人などによって行われる「委託訓練」からなる。委託訓練の受講者は、離職者訓練受講者の約7割を占め、とりわけ事務、情報、介護といった分野では、ほぼすべての受講者が委託訓練の受講者である。こうした委託訓練の占める比重を踏まえると、公共職業訓練の効率的・効果的な実施を図るには、民間の訓練施設における訓練運営の実態や課題を踏まえたうえで、対策や、訓練施設と国・地方自治体との役割分担などについて検討を重ねていく必要がある。この検討に資することを目的として、労働政策研究・研修機構では離職者訓練(委託訓練)に関する調査研究プロジェクトを発足させ、実態の把握・分析を行ってきた。

研究の方法

訓練を実施している施設および訓練受講者を対象としたアンケート調査

主な事実発見

(1)訓練施設調査

  1. 組織形態と教職員数

    訓練施設を運営する組織の形態は、「株式会社」が約半数を占め、次いで「株式会社以外の事業主(有限会社、個人事業主など)」が14.1%、「専修学校・各種学校」が13.8%となっている。教職員数規模は、10~19人の施設が28.1%、5~9人の施設が25.5%となっており、教職員30人以上の施設は2割弱であった。

    教員・講師・インストラクターについて正社員以外の比率を算出してみたところ、15.8%の回答施設は、教員・講師・インストラクターの全員が、正社員以外の雇用・就業形態で働いており、こうした施設も含めて、教員・講師・インストラクターの半分以上が正社員以外で占められているという施設の比率は、59.2%に達している。

  2. コースの立案・作成に際しての情報収集

    コースの立案・作成にあたって、企業や産業界のニーズに関する情報を収集する取組みを、「すべてのコースについて実施」しているのは56.1%、「一部のコースについて実施」しているのは15.6%であった。「ハローワーク・労働局から収集」、「企業での就業経験があるなどで、業界の事情に詳しい事業所の講師やスタッフから収集」が、主な情報収集手段となっており、収集した情報は、「訓練内容(カリキュラム)の決定」、「訓練目標(仕上がり像)の決定」、「就職支援の進め方の決定」に用いるという施設が多数を占める。

  3. 就職支援のための効果的な取組み

    受講者に対する就職支援の取組みについて、就職に効果的なものがあると答えたのは全回答施設の89.5%にあたる538施設であった。この538施設に効果的な取組みを2つまで挙げてもらった。最も多くの施設が効果的な取組みとして挙げたのは「求人情報の収集・提供」(55.2%)で、「仕事に就く事や働く事に関する考え方の指導」が約4割でこれに続き、以下、「企業等を呼んでの業界・企業説明会」(25.8%)、「職場見学」(19.5%)、「地域や業界の労働市場に関する説明・情報の提供」(15.6%)となっている。

  4. 訓練運営に関する評価

    各施設で実施している委託訓練について、訓練そのものについては、87.7%がうまくいっている(「非常にうまくいっている」+「うまくいっている」)と評価している。また、受講者に対する就職支援についてうまくいっていると回答したところも75.7%で、さらに地域の企業や産業界のニーズに見合った人材の育成・能力開発についてできている(「できている」+「ある程度できている」)と答えた施設も7割を超えている。

    ただ、これらの項目とは対照的に収支状況については、順調である(「非常に順調である」+「順調である」)とする施設は26.3%にとどまっており、苦しい(「やや苦しい」+「非常に苦しい」)と答えた施設(38.6%)のほうが多い(図表1)。

図表1 実施している委託訓練についての評価

図表1画像

(2)受講者・受講中調査

  1. 受講者のプロフィール

    受講者受講中調査の回答者6,846人のうち、約8割を女性が占めている。男性、女性のそれぞれについて年齢別構成を見てみると、女性は30歳台が最も多く32.5%、次いで40歳台26.6%である。男性も30歳台が最も多く、20歳台、40歳台が2割程度ずつ受講しており、女性に比べて50歳台、60歳台の受講者の割合が高い。

    回答者自身が家計の主な担い手であるか否かを尋ねたところ、最も回答が多かったのは、「あなた以外の生計の主な担い手と同居」で、回答者の約3分の2(65.5%)を占めた。生計の主な担い手(一人暮らしを含む)であるという回答者の比率は30.5%であった。

  2. 受講のきっかけと受講しているコース分野

    訓練受講の理由で最も多いのは、「新しい分野の仕事にチャレンジしたいから」というもので58.8%、次いで「資格が取れるから」が54.9%、「今持っている知識、スキルをよりいっそう向上させたいから」が39.2%、「費用がかからないから」が37.5%であった。

    受講する人が最も多かったコース分野は「ОA・パソコン関連」(39.0%)で、以下「介護・福祉関連」、「経理・財務関連」、「医療・看護関連」、「IT関連」の順に多かった。

(3)受講者・受講後調査

  1. 伸びたスキル・知識、役に立った就職支援

    訓練を修了あるいは訓練中に就職した受講者(4,234人)に、訓練の受講により身に付いた能力・知識・スキルについて尋ねたところ、9割超は「基礎的なレベルの専門知識・スキル」を挙げ、次いで「達成意欲・チャレンジ精神」(37.7%)、「働く意欲・態度」(35.8%)といった、意欲や態度の面を挙げる回答者がそれぞれ4割弱いた。これらに続いて回答が多かったのは、「コミュニケーション能力」(27.7%)や「チーム・グループで働く能力」(20.9%)といった対人スキル・能力であった。

    また訓練中に受けた支援や指導の中で、就職にあたって役に立ったと比較的多くの回答者が考えているのは、「履歴書、エントリーシートの作成指導」(68.7%)、「面接指導」(49.7%)、「求人情報の提供」(33.4%)「キャリア・コンサルティング」(33.3%)、「地域や業界の労働事情に関する情報提供」(22.4%)などである。

  2. 現在の勤務先での仕事内容、雇用・就業形態

    訓練受講後就職をし、現在も就業し続けている3,430人のうち、最も多くの人が従事していたのは、「事務の仕事」(36.3%)であり、次いで「介護関係の仕事」(19.0%)となっている。現在自分が従事している仕事は受講したコースの内容に関連したものであるかを尋ねたところ、約6割は関連があると回答した。

    現在の雇用・就業形態は「パート・アルバイト」であるという回答者が34.0%と最も多い。次いで「正社員」が30.1%、「契約・嘱託社員」・17.8%、「派遣・請負社員」・11.4%となっている。「パート・アルバイト」の比率は男性では18.5%、女性では37.2%で、女性における比率が男性における比率の約2倍となっている。

  3. 訓練受講前と比べての仕事の変化

    訓練受講をはさんで仕事に関わる状況の変化について、賃金・収入は高くなった(「高くなった」+「やや高くなった」)と考える回答者は約4分の1で、仕事のレベルと求められる責任については、いずれも半数弱の回答者が高くなったと答えた。長期的なキャリアの見通しは、43.0%が受講前に比べて立つようになった(「立つようになった」+「やや立つようになった」)と考えており、仕事と家庭の両立は46.8%がやりやすくなった(「やりやすくなった」+「やややりやすくなった」)と感じている(図表2)。

図表2 訓練直前に働いていたときと比べての仕事に関する状況の変化

図表2画像

政策的インプリケーション

  1. 訓練施設調査では、多くの施設が訓練そのものや就職支援の取組みについてはうまくいっていると評価しているのに対し、収支状況については順調と考える施設が少数にとどまることが明らかとなった。こうした課題は、どのような訓練施設に生じやすく、また課題の有無と関連している取組みは何かについて、分析による知見を得ることで、訓練施設が訓練の改善を図りやすくするための取組みや環境整備についての検討が可能になるものと思われる。
  2. 受講者の受講後調査から、多くの受講者が訓練によって新たに身に付いた能力やスキルがあると感じていること、また、受講前と比べて仕事のレベルやキャリアの見通しの点で好転したと感じる受講者が比較的多かった。こうした、受講者の能力やスキルの向上、訓練受講後の仕事に関する状況の好転をもたらすのは、訓練施設のどのような取組みかといった点について分析を進めることで、受講者にとってより有意義な委託訓練のあり方について示唆が得られるものと思われる。

政策への貢献

公共職業訓練の見直しにあたって基礎資料として活用される。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「能力開発施策のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成26年4月~平成29年3月

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 主任研究員
高橋 陽子
労働政策研究・研修機構 経済社会と労働部門 研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.109-110)。

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