調査シリーズNo.141
中小企業の「採用と定着」調査結果―速報版―
概要
研究の目的
経済のグローバル化と競争激化が絶え間なく続く中で、今後のわが国経済を考える際、安定的な雇用をいかに維持・増加させるのかは最重要課題の一つである。従業員数の大半を雇用する中小企業が活性化するか否かはきわめて重要である。その効果的な支援を検討するために、人事管理を中心に中小企業の経営の現状を調査する。「中小企業における人事管理」の領域はきわめて広い。本研究では、今後の労働市場の流動化も鑑み、中途採用を念頭におきながら、人材確保・採用管理を中心に実態を探る。
研究の方法
アンケート調査の実施
主な事実発見
(1)アンケート調査からは、以下のような知見が得られた。
〈企業調査〉
- 中小企業では、厳しい経営環境の中で、経営戦略を定めて経営を行おうとしている。
業界の現状をいかに捉えているのかという問いに対して回答率が高かったのは、「競合が激しい」、「顧客ニーズが多様化している」一方で、「商品・サービスの価格が下がっている」であった。
- その中での経営戦略は、コスト面で優位に立つよりは「高付加価値製品・サービスで競争力を強化し」、営業・販売の強化よりは「製品・サービスの品質向上に力を入れる」ことで対処しようとしている。
- 経営に関わる取り組みとしては、「人材・人手不足、育成」が共通課題としてあげられる一方で、「社員への教育訓練が奏功」しているという認識も過半数となっている。
- 小規模企業ほど、「中途採用、欠員補充、性別重視、学歴不問」という方針で採用を行っている。
- 実際の採用者数は増加傾向(5年前と比べて)にある。
- 実際に採用された中途採用者のプロファイル:一般職(採用者全体の約8割)、「即戦力として」採用、「やる気がある人」が重視され、経路としてはハローワーク経由が最も多い。
- 採用については、「難しくなかった」が約3/4を占めている。
- 採用後は、計画的OJTにより育成している。将来は、経営に近い部分での能力発揮より、「各分野の専門スタッフとして活躍」してくれることを期待している。
- 定着度合いへの満足度として、新規採用が5割弱、中途採用では6割が「満足」と回答している。
- 今後は、「定年まで」(約4割)、「できるだけ長く」(約5割)勤めてほしいと思っている。
〈従業員調査〉
- 従業員側からみると、今の勤務先を探したのはハローワーク経由が約1/3と最も多い。年齢が高い場合には「前職や今の職場の同僚の紹介」、「同じ業界で働いていた人の紹介」の比率が高まる。
- 今の勤務先への就職の際には、「特に準備をしなかった」が半数弱でもっとも多い。
- 就職の際、「役立つ資格があった」と約4割が回答している。
- 入社直後につまずいたこと・困ったことに関しては、1/3が「これまでの勤務先と仕事の進め方が大きく異なり戸惑った」と答える一方で、つまずいたこと・困ったことは「なし」も3割程度となっている。
- 勤務先になじむまでの期間は、約4割が「1ヶ月以上3ヶ月未満」が多い。「1年以内」で、ほぼ8割がなじんだと回答している。
- 多くの従業員が入社前に描いていた今の勤務先へのイメージと入社後の実態におけるギャップを感じていないこと、また、ギャップを感じているとしても、イメージよりも「働きやすい」などの“良いギャップ”を感じていることも明らかになった。
- 今後に関しては、半数以上は、現在の勤務先継続を希望している。
政策的インプリケーション
厳しい競争環境の下、業績の向上と共に働きがいある職場を築こうとする中小企業を、雇用・労働、人事管理の側面から支援する方策について検討するための基礎資料を提供する。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「企業の雇用システム・人事戦略と雇用ルールの整備等を通じた雇用の質の向上、ディーセント・ワークの実現についての調査研究」
サブテーマ「企業経営と人事戦略に関する調査研究」
研究期間
平成26年4月~平成27年3月
執筆担当者
- 田中 秀樹
- 青森公立大学専任講師
- 中村 良二
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 藤本 真
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 西村 純
- 労働政策研究・研修機構 研究員