調査シリーズNo.138
大学等中退者の就労と意識に関する研究

平成27年 5月27日

概要

研究の目的

これまで把握されてこなかった大学等中退者の就労状況と意識について明らかにする。

研究の方法

厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」(「14年調査」・「24年調査」の2つの調査時点が異なるデータを活用しており、調査方法その他については厚生労働省のHPを参照)および「サポステ調査」(若者自立支援中央センターが2014年2月~3月に実施し、当機構は調査票の作成および分析を担当。全国の全てのサポステにおいて、登録時が2012年10月から12月であったすべての利用者について、サポステの支援者が回答)の二次分析・ハローワーク調査(ハローワークに来所した全国の大学等中退者に対して、ハローワークの相談員から質問紙調査への協力を依頼。1,095名の有効票を得た)・インタビュー調査(大学等3校)。

主な事実発見

  1. 厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」の「24年調査」の二次分析によると、大学等中退者は卒業者に比べて離学してから就業するまでの期間が長く、近年さらに長くなる傾向が見られる。正社員までの期間はさらに長く、20代では中退者の6割前後が一度も正社員経験がない。さらに20代では無業や失業のリスクが高く、就業している場合も非正規雇用比率は同じ教育段階の者の2倍となっていた。調査対象者が30代から40代前半に達している「14年調査」からみると、30代後半から40代にかけて、失業率はかなり改善されるが、非正規雇用比率の差異は男性では残り続けていた。
  2. 「ハローワーク調査」から中退時までを分析すると、中退時の学年については、専門・短大・高専では1年生が5割以上、大学では2年生と4年生がともに3割前後と高い。全体の4割以上が中退を考え始めてから、3ヶ月未満で実際に中退するに至っており、1年以上の期間を要した者は15%程度であった。大学中退者で、中退決定までの期間が長くなる傾向があり、中退を決めるまで半年以上が約4割となっている。中退を決めるまでの相談相手(M.A.)としては、親・保護者が79.3%と最も高く、学校の教職員・カウンセラーや学校内外の友人が2割台でそれに続いている。誰にも相談しなかった者は全体の12.5%で、大学中退者でその割合は高い。次に中退理由(M.A.)を見ると、「勉強に興味・関心が持てなかったから」が49.5%と最も高く、「経済的に苦しかったから」は3割弱となっている。また、最も重要な中退理由としては(図表1)、「学業不振・無関心」を挙げる者が4割以上と高く、「家庭・経済的理由(妊娠・出産含む)」と「進路変更」がそれに続いている。特に「家庭・経済的理由」は、大学中退者の女性で4分の1程度と高い。また、進路意識と中退理由には関係が見られ、「学業不振・無関心」で大学を中退した者の7割以上が目的を持たずに進学した層であることが確認された。

    図表1 最も重要な中退理由

    図表2画像

  3. 「ハローワーク調査」から中退後の就職活動の状況を見ると、ハローワーク利用の経緯は、「親」「友人」で6割近くを占め、特に「親」という回答が多かった。また中退理由によって活動開始時期にはばらつきがあり、「進路変更」は活動開始が早く、「病気・ケガ・休養」「人間関係・大学生活不適応」がやや遅かった。就職活動開始時期とハローワーク利用開始時期はほぼ重なっており、ハローワーク利用者については就職活動の手段としてハローワークが最初の選択肢として認識されている。さらに図表2によると、中退時には「正社員として就職したい」と半数近くの中退者が考えているが、実際に正社員として就職するための準備をした者は3割にとどまり、アルバイトを探したり、在学中から行っていたアルバイトを継続するなどの行動が多く見られた。この理由として自由回答からは、中退者が正社員になるための就職活動の方法が分からないという点や、アルバイトとは言っても中退後はフルタイムに近い労働時間で働くために就職活動の時間を確保することが難しいという理由が挙げられた。また調査時点では「非典型一貫」キャリアが6割あまりを占める。

    図表2 中退した直後にしたいと思ったことと実際にしていたこと(複数回答)

    図表2画像

  4. 「サポステ調査」を基に、サポステの利用者における卒業者と中退者を比較すると、大学等中退者は卒業者に比べて、就職や進路決定に達するまでに長い時間がかかると見なされるタイプが多く含まれており、学校時代に困難な経験をした者が少なくない。また専門学校・短大・高専中退者では職場での孤立や退職につながる失敗体験、大学中退者では就職活動での失敗体験やメンタルでの課題が見出される。利用の経緯は、「家族や知人の紹介」、「サポステのチラシやHPで」、「ハローワーク以外の機関の紹介(医療福祉含む)」、「ハローワークからの紹介」が上位に位置しており、卒業者に比べると「学校」という割合は少ない。またサポステ利用者については、大学等中退者は卒業者に比べて進路決定率はやや低いものの、いったん決定した後にはその進路が継続される傾向がある。

政策的インプリケーション

  1. 大学等の中退は年齢を重ねてもなお職業生活に影響を及ぼしており、労働政策における重要な支援対象とする必要がある。
  2. 大学等と連携した中退時の支援を確立していくことは重要である。大学等中退者は「学校」を経由して公的支援機関に来所していない。中退時における学校と公的支援機関の連携は当事者のニーズも高くかつ現実的な選択肢として進める必要がある。
  3. 大学等の中退理由においては「学業不振・無関心」が最も割合が高いため、大学等での学業継続を支える基礎学力や大学等による学習支援が重要である。
  4. 中退後の就職支援への要望として、「相談・サポート体制の充実」、「職業訓練・インターン・トライアル雇用」、「支援機関や相談機関の周知や拡充」が上位を占めており、更なる情報発信と若者向けの職業訓練等の充実が求められる。
  5. 公的支援機関の役割分担として、現在のようにハローワークとサポステの双方が中退者を受け止めていくことが包括的な中退者支援にとって効果的である。ハローワークの大学等中退者は他の支援機関を経ずに来所しているが、サポステの大学等中退者は生活・コミュニケーション・自己イメージの領域で卒業者よりもかなり大きな課題を抱えており、利用の経緯もハローワークやハローワーク以外の支援機関の紹介という割合が高い。中退者と一言で言っても多様であり、個々のニーズに応じた支援が求められる。

政策への貢献

若年者雇用施策の立案に活用されている。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」

研究期間

平成26年度~27年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 主任研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー
喜始 照宣
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

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