労働政策研究報告書 No.154
大都市における30代の働き方と意識
―「ワークスタイル調査」による20代との比較から―

平成25年3月21日

概要

研究の目的

「就職氷河期世代」といわれる現在の30代の現在の仕事と生活について明らかにする。

研究の方法

  • エリアサンプリングにて、東京都の30代2千人に対して、質問紙調査を実施。(2011年7月~10月)

主な事実発見

  1. 離学直後の就業状況は、学歴および離学時期(就職活動時期)の景気の影響を強く受ける。
  2. 離学直後に無業や非典型雇用であった場合、30歳代には男性の7割程度、女性の約半数が少なくとも一旦は正社員になっていた。正社員への移行の時期は離学から3年以内の者が半数を占める。不況時に離学した男性では後の景気回復期に正社員への移行が起こり易いが、離学からの時間が長いと起こりにくい。また学歴が高いほど移行する比率は高い。
  3. 「正社員定着」と「他形態から正社員」を比較すると、前者は大企業勤務が多く、平均月収が高く、また社会保険や労働組合への加入率が高い。収入差は20歳代の頃より広がっていた。20歳代の調査では「他形態から正社員」型において非典型雇用経験を評価する傾向がみられたが、本調査で「生活への満足感」の違いをみると「他形態から正社員」のほうが有意に低かった。一旦正社員になってもまた非典型雇用に戻るなどこの間を行き来するケースも少なくなく、非典型雇用と正社員との間の壁はそれほど高くはないが、生活への満足感の得られる正社員との間には壁があると推測される。
  4. 過去の「ワークスタイル調査」と接続して疑似パネルとし、現在30歳代後半であるA世代、同前半であるB世代の職業キャリアが、現在20歳代後半であるC世代、同前半であるD世代にも踏襲されるのかを検討すると、無業・非典型雇用から正社員への移行については、C世代、D世代のほうが20歳代前半での移行が進んでいないが、B世代が30歳代にかかるときに景気拡大があり移行率が高まっている。
  5. 仕事上の「強み」については、もともとスキル・資格志向が高い世代であったが、現在の20代に比べて年齢や経験を重ね「自負」を持つ割合が高くなっている。特に正社員転職経験があるもので、スキル・資格についての自信がうかがえる。
  6. 「フリーター」から正社員への移行が進んでおり、正社員の「質」という点では課題があるものの、全体としては30代をむかえて社会の中でそれぞれ居場所を確保しつつある。しかし全体として大勢を占めるわけではないが、正社員を希望しているが非典型雇用者の状況にある者も存在している。
  7. 過去の「フリーター」から正社員への移行経路を見ると、若いときには周囲の紹介や非典型雇用からの登用、学校からの紹介が多かったが、近年移行した者については、数は少ないものの公的機関利用の割合が高い。
  8. 現在の20代世代は、「就職氷河期」と呼ばれた30代世代よりも、フリーター率が高い。
  9. 20代の時にはフリーター共感度が高い世代であったが、全体としては、30代になって安定を好みかつ現状を肯定する方向の変化を捉えることできる。他方でかつてはフリーターと非フリーターの意識はそれほど大きく異ならなかったが、特に男性無業者や男性非典型雇用者においては自らの仕事や生活に対して否定的になっており、30代における意識の差異の拡大が見出される。20代ではあまり明確ではなかった就業形態による差異が明確になっている。
  10. 過去の相談経験、具体的には学卒(中退)前に卒業(中退)後のことについて相談した経験は、それから時間が経過した、現時点の相談ネットワークのあり方にも影響を与えている可能性が見出された(図表参照)。そして、部分的ないし間接的なつながりにすぎない可能性は残るものの、特に学卒時に正社員・公務員になれなかった人に関して、学卒前の相談経験が、その後のキャリアにおける正社員化に、何らかの形でつながっている可能性も確認された。人に自分のこれからについて相談するという経験は、その時点にだけ意味をもつものではなく、時間の経過を経ても一定の効果を持続的に及ぼす可能性を有している(図表参照)。

図表1 学卒前の相談経験と、今の自分の仕事や働き方についての悩みの相談チャンネル数の関連(30~39歳、相談相手=学校の先生)

図表1の画像

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図表2 学卒前の相談経験と、これから生き方や働き方についての悩みの相談チャンネル数の関連(30~39歳、相談相手=学校の先生)

図表2の画像

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  1. 雇用問題が「個人の問題」として認知される状態よりも、「社会の問題」として認知されるようになる要因として、第1に、「当事者性」が挙げられる。第2に、自分自身が仕事をする上での何らかの「強み」を持っていると自認している場合、社会全般の雇用問題についても、自身が実際に仕事をする中での問題についても、問題認知は高まる。逆に「強み」の自認がなく、「努力主義」に対しても否定的である場合、問題認知は弱まる。第3に、社会全般の雇用問題に関する認知と、自分自身の仕事経験上の問題認知との間には、プラスの相関が見られる。第4に、現在の仕事上の問題を構成する主たる要素として、職場の【労働条件】の劣悪さ、【権力構造】の不合理さ、【ルール】の不明確さという3点が見出され、これらは相互に悪循環を形成している。

政策的インプリケーション

  • (1)「取り残された」30代と、より狭隘化した労働市場を生きる20代に対する、政策的支援の拡充
  • (2)ハローワークと高校・大学の連携を通じて、多様な移行経路の明示と、企業情報の開示の拡大をはかる(特に就業環境や早期離職について)
  • (3)在学中における相談機会を充実させる(特に卒業時に非典型雇用になる場合)
  • (4)定点観測調査の必要性

政策への貢献

若者就業支援政策の基礎的データとして活用が期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」

研究期間

平成24年度

執筆担当者

小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
喜始 照宣
労働政策研究・研修機構 臨時協力研究員
久木元 真吾
公益財団法人 家計経済研究所 次席研究員
本田 由紀
東京大学大学院教育学研究科 教授

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