調査シリーズ No.108
最低賃金と企業行動に関する調査
―結果の概要と雇用への影響に関する分析―
概要
研究の目的
厚生労働省からの要請を受けて、近年、大幅な引上げが続いている地域別最低賃金について、これが地域の雇用にどう影響しているかを明らかにするため、当機構では下記のようにアンケート調査を実施した。本報告書では、この調査結果の概要を紹介するとともに、データ結果を詳しく分析し、雇用量への影響についてわかった事実を公表している。
研究の方法
全国22,000の中小企業に対してアンケート調査を実施した。(実施時期は2012年9月下旬で、有効回答率は20.3%であった。)
主な事実発見
- 企業に働く労働者で最も低い賃金額を正社員、パート・アルバイト別に尋ねたところ、図表1、2のような結果を得た。これを平成22年度地域別最低賃金と比較したところ、正社員については、同最低賃金額より200円以上高い企業が最も多く(56.5%)、最低賃金額に近い企業の割合は低いが、パート・アルバイトの場合には、最も多いのは「50~99円高い」(22.1%)で、次いで「200円以上高い」(21.9%)となっており、乖離幅が10円未満とする企業は13.5%となっている。(図表3)
- 企業が所在する都道府県の地域別最低賃金の額を尋ねたところ、73.0%の企業は「金額を知っている」と回答した。
- 労働者の賃金決定に当たって、企業は経験年数や仕事の困難度、同一職種の従業員の賃金相場などを重視しており、最低賃金を重視する割合は低くなっている。ただし、パート・アルバイトの賃金決定の場合には、地域別最低賃金を重視する割合が相対的に高くなっている(図表4、5)。さらに、企業のうち従業員の最も低い賃金水準が平成22年度地域別最低賃金額に近い企業では、正社員についても地域別最低賃金を重視する企業の割合が相対的に高くなっている(図表6)。
- 平成22年4月から24年4月にかけての雇用量の変動状況を、中央最低賃金審議会が地域別最低賃金の引上げ額の目安を公表する際に設けられている、地域別の4ランク区分別に見たところ、いずれのランクも 、雇用量の増減率別の企業分布はほぼ同じとなっており、企業の雇用量の増減にランク区分による差は見られない(図表7)。
図表1 正社員で最も低い賃金額(時給換算)
(注)正社員が1人以上いる企業(4,031社)の集計。
図表2 パート・アルバイトの最も低い賃金額(時給換算)
(注)パート・アルバイトが1人以上いる企業(2,781社)の集計。
図表3 正社員とパート・アルバイト別、企業の最も低い賃金(時給換算)の平成22年度地域別最低賃金額との比較
(注)調査結果から得られる、企業における最も低い賃金水準(平成24年9月時点)と平成22年度地域別最低賃金額を利用。
図表4 正社員の賃金決定時に最も重視する考慮事項
(注)正社員が1人以上いる企業(4,031社)の集計。
図表5 パート・アルバイトの賃金決定時に最も重視する考慮事項
(注)パート・アルバイトが1人以上いる企業(2,781社)の集計。
図表6 平成22年度地域別最低賃金との乖離度別、賃金決定時に最も重視する考慮事項(正社員)
(注)回答企業(3,714社)について集計。「5%未満上回る」には、最低賃金を下回る企業も含めて集計した。 Pearson chi2(16) = 252.6510 Pr = 0.000
図表7 地域ランク別雇用量の変化(総従業員)
※リンク先で拡大しない場合はもう一度クリックしてください。
(注)平成22年と平成24年の従業員数の質問に両方回答した企業について集計
Pearson chi2(21) = 17.9466 Pr = 0.652
政策的インプリケーション
企業において最も低い賃金の実態、企業による最低賃金の認識及び重視度、最低賃金引上げへの対応、企業経営上の課題とそれに対する取組等について、アンケート調査の結果を紹介するとともに、企業で最も低い賃金と平成22年度地域別最低賃金額との乖離幅に着目した独自の分析等も行っており、最低賃金に関する検討に資する情報を提供している。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆者・目次(PDF:839KB)
- 序章 はじめに(調査の概要)
第1章 回答企業の主な属性
第2章 企業における最も低い賃金の実態と企業による最低賃金の認識および重視度
第3章 最低賃金の引上げと企業の対応および雇用量への影響
第4章 企業経営上の課題と企業の取組み(PDF:1.2MB) - 資料編
資料1 調査票(『最低賃金と企業行動に関する調査』)
資料2 付属統計表 (PDF:1.4MB)
研究の区分
課題研究「最低賃金引き上げが地域の雇用・経済に与える影響の実証研究」
研究期間
平成24年度
調査実施担当者
- 梅澤 眞一
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 何 芳
- 労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
なお調査票作成は、堀春彦(労働政策研究・研修機構副主任研究員)が担当した。
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.114)。
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