調査シリーズ No.79
派遣社員のキャリアと働き方に関する調査(派遣先調査)

平成22年11月 19日

概要

研究の目的と方法

  • 派遣労働でキャリアは形成できるのか。その実態を探るべく、JILPTでは、派遣労働者のキャリア形成や働き方に注目し、派遣元、派遣先、派遣労働者の三者に向けて調査を行った。三者に対し同時に調査することで、キャリア形成の行われ方、働き方の状況を多面的にとらえ、派遣労働におけるキャリア形成の現状と問題点を明らかにしている。
  • 本研究は、その一環として派遣先に対してアンケート調査を行った。対象は、全国事業所のうち、6業種(製造業、情報・通信業、金融・保険業、サービス業、卸売・小売業、運輸業)に該当する従業員30人以上の事業所で、帝国データバンクより10,000事業所を無作為抽出、郵送法により実施。有効回収数は3,085件、回収率は30.9%。
  • 派遣先調査では、派遣先事業所が職場においてどのように派遣労働者を活用し、能力開発を行っているのか、派遣労働者はどのような仕事を担っているのか、派遣料金とその引き上げ理由、正社員へ転換する人はどのくらいいるのか、などについて調査を行った。

主な事実発見

  1. 派遣先の業務で最も割合が大きいのは「一般・営業事務・データ入力等」51.4%。「一般・営業事務等(自由化業務)」10.2%、「情報処理システム開発」10.2%、「その他製造」15.7%が続く。

    仕事の難易度では、「一般・営業事務・データ入力等」、「金融事務」、製造業務や軽作業系は「ほとんど指示に従い行う、定型的な仕事」の割合が高い。一方、自身の判断が求められる仕事は「情報処理システム開発」、「機械設計」など。

  2. 派遣社員の勤続時間が長くなるにつれて仕事内容が高度化するかという問いに、全体の16.7%が「よくある」、46.0%が「ときどきある」と回答。各業務の中で高度化する比率が突出して高いのは「IT技術・専門職系」で、8割強が「ある」(「よくある」、「ときどきある」)と答えている。製造業務系でも67.3%の事業所で「ある」と回答しており、作業内容が変化のない単純作業の繰り返しと捉えられがちだが、「IT技術・専門職系」の次に高度化する傾向にある(図表1)。
  3. 派遣料金の幅をみてみると、「情報処理システム開発」(料金幅2,782.3~4,687.9円)及び「機械設計」(同2,234.1~4,285.4円)でおよそ2,000円の開きがある。他方、「オフィスワーク系」の業務では、最高額が2,000円強、最低額が1,500円~1,700円と、その差は大きくても500円ほどである。また、派遣料金引上げの最も多い理由は「派遣元企業から料金の交渉があったから」(58.8%)であった。その他「習熟(熟練化)したから」や「仕事ぶりが評価されたから」も半数前後を占めている。
  4. 派遣労働者の年齢分布では、最も多い年齢層を「30~34歳」とする事業所は29.1%と最も高く、「40歳以上」は、22.2%。「40歳以上」の比率が顕著に高いのは「金融・保険業」(43.8%)、「医療・福祉」(36.2%)、「運輸業」(31.8%)である。
  5. 派遣先において過去3年で1人でも派遣社員から正社員へ登用した実績がある事業所は、33.3%(404事業所)。中でも、「通常派遣を経て正社員へと転換」したことがある事業所が24.9%と、紹介予定派遣などに比べて多い。正社員登用の年齢は20歳代後半~30歳代前半、平均月収は22万5,000円(図表2)。

政策的含意

  1. 派遣業務の中で、「IT技術、専門職」は、仕事が高度化し、派遣料金もそれに応じて上がっているものと考えられる。それ以外は、仕事が高度化しても、派遣料金の上昇幅は小さい。
  2. 派遣社員が最も多い年齢層は30歳代前半だが、「金融・保険業」、「医療・福祉」、「運輸業」には比較的高年齢者が携わっている。
  3. 過去3年間で、約3割の派遣先事業所で正社員転換の実績がある。転換時の年齢の中心層は20歳代後半から30歳代前半で、正社員との賃金の乖離が小さい時期と想定される。

図表1 仕事の変化の有無:派遣社員の勤続期間が長くなるにつれて仕事内容が高度になる

図表1 仕事の変化の有無:仕事内容が高度になる/調査シリーズNo.79

図表2 業務別正社員転換の実績の有無

図表2 業務別正社員転換の実績の有無/調査シリーズNo.79

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

奥田栄二
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
小野晶子
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
郡司正人
労働政策研究・研修機構 主任調査員
福田直人
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員(東京大学大学院経済学研究科博士課程後期)
森山智彦
同志社大学社会学部助教

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.51)。

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