労働政策研究報告書 No.143
「JILPT多様就業実態調査」データ二次分析結果報告書
―ニュー・フロンティア論点とオールド・フロンティア論点―
概要
研究の目的と方法
この研究は、労働政策研究・研修機構(JILPT)が平成22年8月から9月にかけて実施した「多様な就業形態に関する実態調査(事業所調査・従業員調査)」(以下「JILPT多様化調査」という。)の再分析を実施したものである。
(注)「JILPT多様化調査」については、労働政策研究報告書No.132「非正規雇用に関する調査研究報告書」(平成23年4月公表)及び調査シリーズNo.86「JILPT『多様な就業形態に関する実態調査』」(同年8月公表)を参照。
「JILPT多様化調査」は総合的な調査であり、収集されたデータをさらに活用できる余地が多く残されていた。そこで、2名のJILPT外部の研究者の参加も得て、平成23年度において新たに研究会を組織し、それぞれの問題関心をベースにして当該データの再分析を行った。
取り扱った論点は、(1)有期の正社員、(2)雇用形態と能力開発、(3)教育訓練と非正規雇用者の定着、(4)非正規就業の継続と職場コミットメント、(5)二重労働市場と賃金格差、(6)非正規雇用者の組織化、(7)非正規雇用者への社会保険の適用の7つである。また、以上の論点分析のほか、処遇格差や正社員転換などの論点を踏まえた基礎的な集計結果を併せて提示している。
主な事実発見(分析結果)
- 仕事に必要とされる能力水準が高まるほど、教育訓練機会も増える傾向にあり、正規・非正規間の能力開発機会格差の大きな要因となっている。企業が従業員の能力、努力、希望等によってキャリアコースに差をつけることはよいとしても、現在の雇用形態による区別が本人の能力、努力、希望等とうまく対応しているかどうかである。少なくとも本人の努力や希望と企業が提供する教育訓練機会の間には、非正社員でより大きなギャップが存在することは指摘してよい(図表参照)。
- 企業が提供する一般訓練(例えば、Off-JTや自己啓発支援)は、コア人材(例えば正規雇用者)や能力開発への需要が高い者(例えば、自己啓発を行う者)の定着を促す働きを持つ。非正規雇用者についても、OJTには職場定着を促す効果がみられた。
- 事業所調査と従業員調査とのマッチング・データの集計結果から、「同じ仕事をしているかどうか」や担当している「業務レベル」など就業環境整備の基礎となる事項に関して、両者の認識に少なくない齟齬・乖離がみられた。
- 初職が非正規であった場合にその後正社員に転換する場合には相対的に多くが中小企業で正社員となっていることがあらためて確認された。
自身の職業能力開発に積極的に取り組んでいる人の中で、企業からの教育訓練は受けていない人が正社員では5.2%でしかないのに対して、非正規雇用者では17.1%に達する。
政策的含意
- 正規・非正規間における能力開発格差の背景には仕事に必要とされる能力そのものに違いがあることがある。能力開発がなされていないために正規雇用に就けず、正規雇用に就けないために企業が提供する能力開発の機会にめぐまれない。この関係を打破するためには、例えば訓練大国フランスのように、もう少し非正規への能力開発を政策的に後押しする必要がある。
- できる限り正社員就業を希望する人々の転換を進める一方で、非正規形態で就業を継続するための環境整備を進めることも重要な政策方向である。
政策への貢献
非正規雇用者をめぐる政策課題に関して様々な論点を提示するとともに、その政策課題への対応の検討に当たって基礎となるデータの提示ができた。
本文
- 労働政策研究報告書No.143 サマリー (PDF:433KB)
- 労働政策研究報告書No.143 本文 (PDF:2.8MB)
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- 表紙・まえがき・執筆者・目次(PDF:584KB)
- 序章 この報告書のねらいと概要(PDF:794KB)
- 第Ⅰ部 非正規雇用等をめぐる論点分析(PDF:1.8MB)
- 第Ⅱ部 非正規雇用等をめぐる論点に関する集計結果(PDF:1.3MB)
研究期間
平成23年度
執筆担当者
- 浅尾 裕
- JILPT労働政策研究所所長
- 脇坂 明
- 学習院大学経済学部教授
- 奥西好夫
- 法政大学経営学部教授
- 李青雅
- JILPTアシスタント・フェロー
- 藤本隆史
- JILPTアシスタント・フェロー
- 堀 春彦
- JILPT副主任研究員