労働政策研究報告書No.132
非正規雇用に関する調査研究報告書
―非正規雇用の動向と均衡処遇、正社員転換を中心として―

平成23年4月22日

概要

研究の目的と方法

この研究は、非正規雇用に関する総合的な分析として、平成20年9月のリーマン・ショックを契機とした世界的な経済変動の時期を含んだ最近における非正規雇用の動向分析を行うとともに、近年において非正規雇用をめぐる重要な課題となっている正規・非正規間の均衡・均等処遇及び非正規から正社員への転換に関する分析結果とその政策的示唆をとりまとめることを目的とした。このため、アンケート調査「多様な就業形態の従業員の実態調査(事業所調査・従業員調査)」(以下「JILPT多様化調査」という。)を実施した。

調査は、全国10人以上規模の事業所10,000所及びそこで働く正規及び非正規の従業員(派遣労働者、業務請負会社社員を含む。1所当たり10名)を対象に、平成22年8月に実施した。

主な事実発見

  • 売上高の変動に応じて雇用も増減するが、正社員については今後の見通しが良好であれば正社員雇用をより維持・増加させる傾向がある。一方、非正規の雇用については、そのような今後の見通しとの関連はみられない。これと関連して、雇用調整助成金を活用した雇用調整の実施に関しては、近い将来において回復が見込まれるような場合により効果的な雇用維持機能を発揮することが示唆された。ただし、そのような効果は正社員にのみみられており、非正規には雇用維持効果は析出されていない。
  • 非正規雇用者が「より高度な業務」に従事している場合は、「定型・補助的業務」に従事している場合に比べて、賃金制度や能力開発、正社員への登用制度、そして賃金水準なども総じてより整備されたものとなっている。
  • 同じ仕事をしている正規・非正規間に賃金格差がある場合、その格差を妥当とする背景要因として「責任の重さ」の違いなどがある(図参考)。一方、無期よりも有期の方が、パートよりもフルタイムの方が、賃金格差に敏感である。
  • 「転換社員」は「転換希望者」に比べて仕事に満足する傾向が強い。この傾向は「内部転換」により顕著に現れている。一方、「内部転換」は主に賃金に、「外部転換」は賃金と教育訓練に不満を抱く可能性が高い。

図表1 事業所が考える正規・非正規間の賃金の違いの要因(複数回答) ―非正規の方が正社員より賃金水準が低い事業所―

図表1 事業所が考える正規・非正規間の賃金の違いの要因(複数回答) ―非正規の方が正社員より賃金水準が低い事業所―/労働政策研究報告書No.132

図表2 非正規からみた対照正社員との条件の違い(格差の妥当性判断別)―自身の方が賃金が低いとする非正規―

図表2 非正規からみた対照正社員との条件の違い(格差の妥当性判断別)―自身の方が賃金が低いとする非正規―/労働政策研究報告書No.132

(注)賃金格差を「妥当」と思うかどうか別に、就業条件の違いをみたものである。「対照正社員」とは、職場で同じ仕事をしていると非正規雇用者が考える正社員である。

政策的含意

  • 登用制度のさらなる普及促進に向けて政策的努力が重要。単に「点」としてではなく、事前の能力開発、事後の処遇整備といった「線」としての登用制度の導入促進が肝要。
  • 処遇格差への対応については、「責任」の違いを踏まえた均等・均衡処遇をめざす「パート労働法」のような考え方を他の形態の非正規にも拡張することは、検討されてよいであろう。
  • 雇用政策にとっては、不可避的に(忘れた頃に)やってくる大きな経済変動への対応が重要である。この面での、経済政策との連携を含めた対応策の検討が望まれる。

政策への貢献

正規・非正規間の均衡・均等処遇、非正規から正社員への転換促進といった非正規雇用をめぐる政策課題への対応の検討に当たって、基礎的なデータと示唆の提示ができた。

本文

研究期間

平成22年度

執筆担当者

浅尾 裕
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長/主席統括研究員
高橋康二
労働政策研究・研修機構 研究員
前浦穂高
労働政策研究・研修機構 研究員
李 青雅
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー

入手方法等

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