ディスカッションペーパー 21-07
失業の地域差の要因分析
―市町村の産業・人口構造と個人属性の影響

2021年3月26日

概要

研究の目的

本研究の目的は、地域の産業構造や人口構成を所与としたとき、どのような属性を持つ個人の失業リスクがより高いのかを明らかにすることである。具体的には、個人レベルでは性別、年齢、学歴、初職、地域レベルでは市町村の第3次産業比率と55歳以上の労働者比率に注目して、レベル間の交互作用が失業に与える効果を分析する。

研究の方法

2017年『就業構造基本調査』の個票データに、『国勢調査』(2015年)と『経済センサス』(2016年)から集計された市町村別のデータを統合して、二次分析を実施。

主な事実発見

分析(混合効果二項ロジスティックモデル)の結果、地域の産業構造の違いや高年齢化の程度によって、性別や年齢が失業リスクに与える影響が異なることがわかった。推計結果をもとに、第三次産業比率や55歳以上の労働者比率と失業確率の関係をプロットしたものが図表1〜3である。図表1は男女別、図表2は男性の年齢層別、図表3は女性の年齢層別の結果を表している。

図表1 性別、第3次産業比率、55歳以上の労働者比率と失業の予測確率との関係

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図表2 年齢、第3次産業比率、55歳以上の労働者比率と失業予測確率との関係(男性)

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図表3 年齢、第3次産業比率、55歳以上の労働者比率と失業予測確率との関係(女性)

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産業構造の違いから見ると、第3次産業比率が高い市町村ほど男性の失業確率が低いのに対して女性は高い。また、このような市町村では、高年齢層の男性や、壮年層と高年齢層の女性の失業確率が高い。反対に、第3次産業比率が低い市町村では、男女ともに若年層の失業確率が高い。つまり、第1次産業や第2次産業への依存度が高い市町村では、失業問題の中心は若年問題である。他方、第3次産業への依存が高い市町村では、それは女性の労働問題であり、またいずれかの年齢層に特化した問題ではないと言えるだろう。

高年齢化の程度から見ると、男女ともに、55歳以上の労働者比率が高い市町村ほど失業確率は低い。ただし、男性に関しては地域差があまりないのに対して、女性は地域の高年齢化が失業確率を大きく左右している。また、高年齢化が進んでいる市町村ほど失業確率が低い傾向は、概ね年齢を問わず同様だが、若年男性のカーブはほぼ横ばいで、若年女性のカーブは他の年齢層に比べて緩やかである。つまり、高年齢化が進んだ地域ほど、若年層の失業確率が壮年層や高年齢層に比べて相対的に高い。労働力の高年齢化が進んだ地域ほど市場が硬直的だとすると、不安定な周辺市場には女性や市場に参入して間もない若年層が位置することになる。そのため、女性や若者の自発的、非自発的離職が生じやすく、失業確率が高いものと考えられる。

政策的インプリケーション

以上より、第3次産業比率が高い市町村において失業リスクが高い層は、女性や高年齢者など移動コストが高い人々であることがわかった。そのため、このような地域では、内発的な雇用創出に重きを置いた政策が期待される。現在は、地方分権化の流れを受け、公共事業に頼らない雇用創出に向けたビジョンの自発的な作成が都道府県のみならず市町村レベルでも求められている。したがって、各市町村が企図する雇用の創出規模や速度、比較優位を持つ産業や特産品、都道府県との協力体制等に応じた雇用創出ビジョンの作成が必要だと考えられる。

他方、第1次産業や第2次産業への依存度が高い市町村、及び高年齢化が進んでいる市町村は、若年層の失業リスクが高い。若者は、移動コストが比較的小さいことから、地域間の移動障壁を引き下げる政策による失業の是正が期待できる。しかし、実際には若者の地元志向が高まりを見せていることに加え、失業の抑制だけを目的としてしまうと、若者の更なる地方離れを促進しかねない。したがって、上記の雇用創出策と並行して、地域の特産品等を活かした独自の公共職業訓練や、リスクの高い周辺市場の待遇の確保など、地域の労働市場に適合した施策の推進による失業の抑制を重視することが効率的であり、効果的だろう。

政策への貢献

市町村レベルの雇用政策ビジョンの作成にあたって、基礎資料となることが期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新等に伴う雇用・労働の今後のあり方に関する研究」
サブテーマ「地域における雇用機会と働き方に関する研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

森山 智彦
労働政策研究・研修機構 研究員

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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