ディスカッションペーパー 21-01
緊急事態宣言(2020年4~5月)下の在宅勤務の検証

2021年2月8日

概要

研究の目的

新型コロナウイルス感染症による雇用・労働への影響に関し、JILPTが実施した個人アンケート調査データをもとに、在宅勤務の動向を考察するものである。とりわけ、新型コロナ感染拡大の第一波を受けて発令された緊急事態宣言(2020年4~5月)下での在宅勤務の適用・実施拡大、労働時間の状況、同宣言解除後の適用・実施継続状況を検討することにより、同宣言下の在宅勤務の効果と課題を検証する。

研究の方法

労働政策研究・研修機構が実施した「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(5月調査、8月調査)の個票データ分析

主な事実発見

(1)緊急事態宣言下の在宅勤務適用状況

フルタイム就業者においては、コロナ下で在宅勤務の適用割合が大幅に拡大し、実施日数も増加した。緊急事態宣言下の適用割合は、全体としてみると、特定の業種・職種、大企業、首都圏、高所得層などで高かったが、同宣言発令を機にやや広範な層に広がった側面もあり、その中には仕事内容・進め方が在宅勤務に適合的でないケースも含まれていた。

(2)緊急事態宣言下の在宅勤務とフルタイム維持の関係

緊急事態宣言下の在宅勤務は、処遇維持の効果があったものの、仕事内容・進め方が在宅勤務に適合的でない場合は、フルタイムの労働時間が維持されないなど、業務遂行の面から課題も残していた。具体的には、在宅勤務適用者において、在宅勤務に適合的な仕事内容や進め方であるほど、緊急事態宣言下でフルタイム維持につながった一方、仕事内容や進め方が在宅勤務に適合的でない場合、フルタイムの労働時間が維持されにくい傾向があった(図表1の「在宅勤務適用ありグループ」参照)。

この結果は、仕事の性質によって在宅勤務の効果が異なりうることを示すとともに、緊急事態宣言下の在宅勤務において、仕事内容や進め方が在宅勤務にマッチしていないために、業務遂行の水準が著しく低下した場合があった可能性を示している。

図表1 在宅勤務適用有無と在宅勤務適合性スコアによるフルタイム維持確率の予測値

図表1画像

(3)緊急事態宣言解除後の在宅勤務定着

緊急事態宣言解除後の2020年7月末の状況をみると、同宣言を機に適用された層では、適用継続の割合が低く、実施日数も大幅に減少している。分析の結果、「4月頭時点で適用」の層では、宣言解除後、平均在宅勤務日数はやや低下しつつも、5月末以降も平均2日程度の水準を維持して推移している(7月最終週において平均2.12日)。一方、「4月以降に適用」層では、緊急事態宣言解除後の5月末以降、在宅勤務日数が大きく減少し、7月末現在では平均1日を割る水準にまで落ち込み(7月最終週において平均0.72日)、コロナ発生前の水準に戻っていることがわかる(図表2)。

早期に体制整備(適用)があった場合や、仕事内容・進め方が在宅勤務に適合的であった場合は、緊急事態宣言期間を経て在宅勤務が働き方の「ニューノーマル」となった一方、そうでない場合、宣言解除以降に在宅勤務の働き方が定着していない。つまり、同宣言解除を受けて、出社勤務に戻った状況がうかがえる。緊急避難的な適用だけでは、在宅勤務を働き方の選択肢として定着させるには不十分であったことが示されている。

図表2 各時点の平均在宅勤務日数―在宅勤務の適用時期別―
[緊急事態宣言中の在宅勤務適用者(コロナ前フルタイム)](N=702)

図表2画像

政策的インプリケーション

在宅勤務・テレワークへのなじみやすさは、仕事の種類によって差があると考えられ、本質的な適合性は無視できない。しかし、雇用管理等によって対応可能な部分もあるだろう。例えば、仕事の自律性(裁量性)を高めるなど、在宅勤務に対応できるように仕事の進め方を変えることで、業務遂行の水準を維持でき、在宅勤務定着が望める可能性もある。在宅勤務・テレワークの効果的な推進に向けて、会社・個人が実質的な業務遂行の体制を整えることや、仕事の進め方の見直しが求められる。

政策への貢献

当ディスカッションペーパーのもととなったJILPTリサーチアイ 第46回「在宅勤務は誰に定着しているのか─「緊急時」を経た変化を読む─」(2020年9月16日掲載)は、厚生労働省職業安定局「2020年度雇用政策研究会報告書」にて活用された。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇
用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

高見 具広
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

関連の研究成果

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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