ディスカッションペーパー 20-01
生産性の上昇が労働需要に与えるマクロ影響評価(Ⅲ)
―カスケード型CES関数の応用―

2020年3月3日

概要

研究の目的

本研究の目的は、一般均衡モデルを用いたシミュレーションによって、生産性ショックが部門別の労働需要(労働投入)に与える影響を評価することである。また、労働増加的な技術進歩パラメータの計測によって、労働投入のより純粋な効率を部門別に評価することである。

研究の方法

ディスカッションペーパー19-03の一般均衡モデルにおいて賃金を内生化した後、ある1つの部門の生産性のみ1%上昇させる生産性ショックを与えた場合の労働投入の変化を部門別に推計し、変化の大きな部門の抽出を行う。また、カスケード型CES単位費用関数を応用し、回帰分析によって労働増加的な技術進歩パラメータを部門別に計測する。

主な推計結果

  • 各部門の生産性を1%上昇した際に日本全体で見て労働投入の減少率(事前の労働投入計に対する比率)が高い部門を見ると、サプライチェーンの上流に位置するサービス部門が多く、中・下流に位置する部門や製造業部門も含まれる(図表1)。ただし、賃金を外生的に扱っているディスカッションペーパー19-03の結果と比較すると、減少率の水準(生産性上昇の影響)が小さくなっている。

    図表1 部門別生産性1%上昇にともなう労働投入の変化(減少率上位50部門、単位:%)

    図表1画像

    注)★は、生産活動の主体が対家計民間非営利サービス生産者であることを示す。

  • 一国全体(内生部門計)では、2011年を基準として2012~2015年のいずれの年次も計測された労働増加的な技術進歩パラメータはマイナスであり、この期間では2011年よりも労働投入の効率が低下していることを意味する。同期間に第1次産業部門では、農林水産業部門の労働増加的な技術進歩パラメータがプラスになる傾向があるのに対し、鉱業部門のそれはマイナスになる傾向がある。また、第2次産業部門では対象とした約6~7割の部門で、第3次産業部門では約8~9割の部門で、それぞれ労働増加的な技術進歩パラメータがマイナスで計測された。
  • 労働増加的な技術進歩パラメータはTFPや労働生産性(産出/労働投入)とプラスの相関があり、純粋に労働投入の効率を評価した指標がすべての投入物の効率を評価したTFPと同様の傾向を示すことが確認された(図表2)。

    図表2 労働増加的な技術進歩パラメータlambdaとTFP(Törnqvist指数)(2012~2015年)

    図表2画像

    注)2011年を基準年とする(2011年のlambda=0、TFP=1)。

政策的インプリケーション

生産性上昇を支援する対象の選定、および生産性の上昇によって労働需要の減少する産業部門から増加する産業部門への労働移動の支援する方策を考える上で、生産性の上昇が一国全体の労働需要に与える影響の大きな産業部門が何であり、具体的にどの産業部門の労働需要に与える影響が大きいかがわかる情報は有益である。また、労働投入の純粋な効率を表す技術進歩パラメータは、政策目標としてTFPや労働生産性に代わる生産性指標になりうる。

政策への貢献

生産性上昇の支援や産業部門間の労働移動支援のための政策を検討する際の基礎資料となることが期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新等に伴う雇用・労働の今後のあり方に関する研究」
サブテーマ「技術革新、生産性と今後の労働市場のあり方に関する研究」

研究期間

令和元年度

研究担当者

中野 諭
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

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