ディスカッションペーパー 19-07
「居住地と就業地に関する実態調査」とその二次分析

2019年12月26日

概要

研究の目的

JILPTは厚生労働省の要請の下、労働者の居住地と就業地が異なる理由について実態を把握すべく「居住地と就業地に関する実態調査」を行った。本ディスカッション・ペーパーでは、本調査の結果を紹介するとともに、調査データを再利用し、最低賃金と地域移動、賃金と学業に関する二次分析を行った。

研究の方法

ウェブモニター調査

主な事実発見

「居住地と就業地に関する実態調査」の結果

  • 労働者の居住地と就業地が異なる理由について知るために、県外就業者になぜ現在勤務する企業(就業地)を選んだのか、企業選択理由をたずねた。比較対象として、県内労働者にも同じ質問をたずねている。

図表1 県内・県外就業別、企業選択理由(%)

図表1画像

  • 県内就業者は県外就業者よりも「家から近かった、通勤距離が短かった」、「労働時間が自分の自由になりそうだった」という理由を多く選択し、通勤時間や労働時間の裁量など、より時間に重きを置いて就業先を決める傾向が見て取れる。
  • 一方、県外就業者は「仕事内容に興味があった」「自分の能力が生かせそうだった」「安定していそうだった」「将来発展する可能性があると思った」「会社の雰囲気・社風が自分に合っていそうだった」などの選択肢を県内労働者より多く選んでおり、県内就業者よりも仕事の内容、企業の安定性・将来性を重視して就業先を決める傾向がある。
  • この傾向は、県内就業者にパートタイマーが多く含まれることが影響している可能性があるため、正社員とパートタイマーを分けて検証したが、県内就業者は、正社員であっても通勤時間や労働時間の裁量をより重視し、県外就業者が仕事の内容や企業の安定性・将来性をより重視する傾向に変わりはなかった。

「最低賃金と就業地選択」

  • 国勢調査から居住地とは異なる都道府県への就業が多い首都圏、中京圏、近畿圏の3つの地域(18県)を調査対象に限定し、ウェブアンケート調査を実施した結果、居住する都道府県よりも最低賃金が高いことを理由に他県に就業する雇用者は、3地域の全雇用者のうち0.7%程度であることがわかった。
  • 雇用者に占める最低賃金を理由とする県外就業率は都道府県によって異なり、埼玉、群馬、千葉、奈良で相対的に高い。一方、栃木や静岡、三重、滋賀、兵庫などは近隣に最低賃金の高い都道府県があるが、最低賃金による県外就業率は低い。最低賃金を理由とする県外就業率の多寡は各県の交通事情や通勤可能圏内における産業立地等に依存すると考えられる。

図表2 都道府県別最賃越境率(%)

図表2画像

都道府県別2015年以降入職者のうちの最賃越境者

/都道府県別全雇用者(県内就業者+県外就業者)

  • 通常の県外就業は正社員が8割を占めるのに対し、最低賃金差を理由とする県外就業率は、正社員よりも派遣労働者や契約社員・嘱託で高い傾向がある。
  • 最低賃金水準近傍の時給で働く雇用者にはパートタイマーが多いが、パートタイマーは他の雇用形態に比べて最低賃金差を理由とする県外就業比率が低い。これは、パートタイマーの通勤時間制約が厳しいことに起因すると考えられる。

図表3 雇用形態別・通勤時間の分布

図表3画像

注:kdensityはカーネル密度関数である。通勤時間のような連続変数の分布がどのような形状しているか示すために用いられる推定方法である。サンプリング調査では観測されなかったデータの密度も推定できるという利点がある。

  • 本調査を用いて、最低賃金の都道府県格差と県外就業の関係を検証したところ、都道府県格差には県外就業を促す効果が確認されたが、決して大きなものではなかった。これは、最低賃金から最も影響を受ける雇用形態であろうパートタイマーの通勤時間制約が大きいためであり、現状の最低賃金の都道府県間格差はパートタイマーの通勤時間を伸ばす程の誘引となっていないと考えられる。なお、最低賃金差を理由とする県外就業が通勤時間を引き伸ばす効果は、2015年意向の推定結果においてのみ確認され、その伸長効果は約7.5分である。

「賃金と学業」

  • 本調査を用いて、高校生や大学生のアルバイト就業率を推計した。高校生の就業率は学科によって異なり、普通科21.9%、工業高校21.7%、商業高校40.2%、その他高校40.1%である。高校生計は25.4%、大学生は83.0%、いずれも女性の方が就業率が高い。
  • 労働力調査によれば、2010年代に通学のかたわら仕事をする学生は急増している。
  • アルバイトが勉強の妨げになっていると自覚する高校生は22.3%、大学生は17.7%である。

図表4 アルバイトが勉強の妨げになっている(%)

図表4画像

  • 最低賃金の目安ランクごとに高校生と大学生の時給(中央値)をみると、高校生の時給はまさに最低賃金水準の近傍にあり、大学生の時給は最低賃金水準より100円程度高い。このため、最低賃金は生徒・学生の時給を引き上げ、また就業確率も高める可能性がある。

図表5 最低賃金の目安ランクと時給(中央値)

図表5

  • 本調査を用いて、高校生や大学生のアルバイト時給の上昇と労働時間、勉強時間の関係を検証した。その結果、時給の上昇に伴い、高校生は労働時間を変化させないが、大学生は労働時間を減少させた。また1%の賃金の上昇は、高校生の勉強時間を3.87%減らし、大学生は5.98%増加させた。つまり、高校生は時給の上昇によって余暇時間を増加させ、勉強時間を減らすのに対し、大学生は労働時間を短くし、その時間を勉強に当てるという行動の違いが見て取れる。高校生については、時給の上昇による勉強時間の減少を防ぐよう、家庭や学校において、アルバイトに関する指導がこれまで以上に重視される必要があるだろう。

政策への貢献

最低賃金と地域移動、年少者の就労について議論する際の基礎資料として活用されることを期待する。

本文

研究の区分

緊急調査

研究期間

平成29~令和元年度

研究担当者

高橋 陽子
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

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内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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