ディスカッションペーパー 12-03
限定正社員区分と非正規雇用問題

平成24年3月23日

概要

研究の目的と方法

  • 雇用不安、低賃金、教育訓練機会の不足といった、いわゆる非正規雇用問題が深刻化するなかで、職種や勤務地に限定のある正社員区分の導入によってそれらを解決することが期待されている。このような正社員区分が導入されることにより、非正社員は、配置転換や転勤といった従来の正社員特有の負担を回避しつつ、労働条件を向上させることができ、企業の側も、非正社員を中長期的に戦力化するにあたり、かれら全員に対して従来の正社員と同じ水準の労働条件を提供せずに済むからである。
  • 本稿では、現状の日本企業における職種限定正社員区分、勤務地限定正社員区分が、(A)従来の正社員とも非正社員とも異なるバランスの取れた働き方を可能にしているのか、(B)非正社員から正社員への登用・転換を促進しているのか、を明らかにする。加えて、限定正社員区分を導入している事業所における、非正社員から限定正社員への登用の有無と、従来の正社員の働き方の多様化との関係についても分析する。
  • 分析には、JILPTが2010年8月に実施した調査シリーズNo.86「多様な就業形態に関する実態調査」の個票(事業所票および従業員票)を使用する。

主な事実発見(図表参照)

  • 職種限定正社員、勤務地限定正社員は、それらに限定のない正社員ほどの雇用の安定性、賃金、教育訓練機会を享受していないが、自分の働き方に対する評価は十分に高い。その意味で、限定正社員区分は、従来の正社員とも非正社員とも異なるバランスの取れた働き方を可能にしているといえる。
  • 全体としてみると、限定正社員区分が存在することそれ自体によって非正社員から正社員への登用・転換が促進されているわけではない。
  • ただし、女性、35歳以上、非大卒、事務の仕事といった、一般的に正社員転換可能性が低い非正社員については、限定正社員区分があると、正社員転換可能性が相対的に高まる。
  • また、非正社員と正社員が同じ仕事をしている事業所、非正社員に対して教育訓練制度が適用されている事業所、非正社員と限定正社員の賃金差が相対的に小さい事業所では、限定正社員区分が正社員登用の足掛かりとなっている。
  • なお、限定正社員区分が非正社員からの登用先としての機能を果たしている事業所においては、従来の正社員の働き方を多様化するという目的、具体的には正社員の専門的スキルの育成、仕事と生活の調和を促すといった目的は、達成されにくい傾向がある。

図表 事実発見の整理

※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表 事実発見の整理/ディスカッションペーパー12-03

政策的含意

  • 限定正社員区分は、従来の正社員とも非正社員とも異なる、バランスの取れた働き方を可能にしている。また、限定正社員区分がある事業所では、一般的に正社員転換可能性が低い非正社員の正社員転換可能性が相対的に高まる。よって、限定正社員区分の導入を労使が選択しやすいよう、政策的に支援していく必要がある。たとえば、人事・賃金制度改革にかかわる先進事例の紹介、従来の正社員と限定正社員の法的地位の異同についての整理などが求められる。
  • 非正社員の正社員登用・転換を促進するためには、限定正社員区分の導入を支援するだけでなく、非正社員に対する教育訓練支援なども並行して実施していく必要がある。
  • 非正社員から限定正社員への登用、特に勤務地限定正社員への登用によってもたらされるのは、主として雇用の安定であり、かれらの(賃金面での)処遇の改善に取り組むためには、別のアプローチが必要となる。たとえば、従来の正社員と限定正社員の処遇の差のあり方について、パートタイム労働法の枠組、有期労働契約法制のあり方をめぐる議論なども参考にしつつ、検討していく必要がある。
  • 非正規雇用問題の解決に貢献する限定正社員区分と、正社員の働き方の多様化に貢献する限定正社員区分とは必ずしも一致しない。そのことを踏まえつつ、非正社員の登用先として機能する職種限定正社員区分が、具体的にどのような職種の限定正社員区分なのかなどを、絞り込んでいく必要がある。

本文

研究期間

平成23年度

執筆担当者

高橋康二
労働政策研究・研修機構 研究員

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。


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