諸外国のLGBTの就労をめぐる状況
掲載日:平成28年5月31日
概要
研究の目的
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャルおよびトランスジェンダー)の雇用管理が課題となっている状況に鑑み、諸外国におけるLGBTの就労をめぐる状況や雇用主の取り組みなどについて、欧米先進国を対象に情報収集を行う。
研究の方法
文献、政府資料等に基づき、調査を実施した。
主な事実発見
- LGBT労働者の就労実態に関するいくつかの調査からは、LGBT労働者が採用、処遇、昇進、あるいは解雇といった様々な局面での差別や、職場におけるハラスメントなどに直面しやすい状況にあることが窺える。こうした状況が賃金水準などに影響している可能性が容易に推測されるが、例えばアメリカにおける調査では、同性愛者と異性愛者の賃金水準の差に関する傾向が男性と女性で異なる(男性の同性愛者は異性愛者より賃金水準が低いが、女性はその逆)など、その関係は必ずしも一様ではない。また、例えばトランスジェンダーの労働者は、レズビアンやゲイあるいはバイセクシャルより不利な状況にあることがデータなどから示唆されるが、影響関係は不明である。
- 法整備の状況をみると、EUでは2000年のEU雇用指令及び2004年の財・サービスへのアクセスと供給に関する差別禁止指令において、保護の対象とすべき特性として、性、人種などとならんで性的指向、性別再指定が規定された。これに基づき、欧州各国では国内法の整備が行われ、現在は雇用を含む広い分野で差別禁止法制が施行されている。一方、アメリカにおいては、連邦、州、自治体の各レベルで法整備状況が異なり、連邦法ではLGBTに対する雇用上の差別禁止は明文化されていないものの、州法および自治体法による保護が人口の約半数を性的指向による雇用上の差別から保護している。また連邦レベルでも、連邦裁判所や雇用機会均等委員会などで、LGBT差別を「性差別」として認めるケースが見られる。
- LGBT従業員の平等な取り扱いに関する企業の取り組みは、多岐にわたる。職場における差別やいじめの防止、社会保障・医療に関する福利厚生制度や休暇制度の適用などでの平等な取り扱い、またより積極的な取り組みとして、LGBT従業員を中心としたネットワークの設置などが実施されている。さらに、対外的な施策として、例えば地域のLGBTコミュニティなどへの金銭的あるいは人的支援(ボランティアに参加等)や、取引先にLGBTに関するポリシーの採用を求めることなどがある。
なお、アメリカに関して取り上げた好事例では、こうした取り組みを企業で進めるにあたっては、継続的な実施を支える社内の仕組み作りが重要であることが示唆されている。同時に、役員レベルのリーダーシップの発揮が大きな役割を果たしていると推測される。 - 各国政府や自治体、あるいは公的機関では、LGBTに関する啓発活動や差別禁止に関する法制度の周知、実態に関する調査研究などが行われている。また、アメリカとフランスでは、差別に関する申し立てを受ける公的機関が設置されており、ドイツでも、差別を受けた者の保護等を目的とした公的機関がある。加えて、ドイツではLGBTの採用に積極的な雇用主と求職者のマッチングをはかるイベントも実施されている。
一方、LGBTの権利保護を目的とするNPOも、多様な領域で活動を行っており、これには福祉や教育といった分野も含まれる。雇用に関連した活動としては、各種のガイダンスや調査などを通じた啓発活動のほか、LGBT従業員に対する均等・支援策に関する好事例の評価・表彰制度や、個別企業に対する支援を通じた取り組みの活性化、さらに求職者に対する就職支援、ウエブサイト等を通じた求職者と求人のマッチングなどが実施されている。
政策的インプリケーション
各国では、法制度の整備にとどまらず、政府、自治体、公的機関、また企業やNPOなどが各レベルで多様な取り組みを行っている。
政策への貢献
LGBTの雇用管理に係る取組の今後の検討に活用される予定。
本文
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付随情報
研究の区分
緊急調査
研究期間
平成27年度
研究担当者
- 和田 佳浦
- 労働政策研究・研修機構国際研究部海外情報担当
- 樋口 英夫
- 労働政策研究・研修機構国際研究部主任調査員補佐
- 飯田 恵子
- 労働政策研究・研修機構国際研究部主任調査員補佐
- 北澤 謙
- 労働政策研究・研修機構国際研究部主任調査員補佐
関連情報
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お問合せ先
内容について
調査部 海外情報担当 電話:03-5903-6274
(10時~12時および13時~17時。土日祝日と年末年始を除く。)
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