新型コロナと若年層

【海外有識者からの報告】
海外在住の有識者から提供された現地の状況についての報告です(なお、本報告は執筆日における当地の情報であり、必ずしも最新の情報を反映されたものではない)。

鈴木 宏昌(早稲田大学名誉教授、IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員)

フランスの2021年度の新学期は新型コロナ(変種デルタ)の第4波のなかで始まった(フランスの学期は9月に始まり6月末に終了)。医療関係者などに慎重論がある中、マクロン政権は、一定の安全衛生基準やマスクの着用を義務化したものの、平常通りに学校や大学を再開させた(もっとも、大学で授業が本格的に開始されるのは10月からとなる)。9月の中旬からは新型コロナの流行は収まる傾向にあるので、今のところ学校の再開は正解であるようにみえる。

ここ1年半、フランスは、他のEU諸国と同様に、新型コロナに振り回されてきた。とくに、2020年の春のコロナの第1波は強烈で、医療体制の危機をもたらし、高年齢層を中心として多くの犠牲者を出した。その後も、2020年秋に第2波、そして2021年の春に第3波と断続的に新型コロナが流行し、そのたびに、政府は、その適用範囲に違いはあるものの、ロックダウン、外出制限、商業施設やレストランなど人が集まる業種の営業禁止、テレワークの義務化などの措置をとってきた。このように、新型コロナの伝染を避けるために多くの経済活動を停止させた代償として、政府は巨大な財政赤字を覚悟しながら、国が賃金支払いの肩代わりをする部分失業制度や企業への大型の金融融資、社会保障の使用者負担の減免などの措置をとり、企業倒産と失業増大を防いだ。

その一方、コロナ対策の切り札であるワクチン接種はこの春から順調に進み、成人の大部分が2回の接種を受け、7月末には、全人口の約6割がワクチン接種(2回接種、52%、1回接種、11%)を行った。そのころから、ワクチン接種のスピードは鈍る。新型コロナを恐れない若い人やワクチンに懐疑的な人達の数が相対的に多くなり、ワクチン接種は停滞する。第4波の襲来を懸念したマクロン政権は、医療関係者や対面サービスに従事する人たちへのワクチン接種を義務化するという強硬措置に踏み切った後、人が集まるレストランや映画館などでのワクチン証明書のチェックを義務とした。その結果、9月中旬には、目標としていた5千万人(総人口は約6千7百万人)へのワクチン接種が実現する。これらの対策の影響もあり、第4波のロックダウンや外出制限が経済活動に与えた影響は比較的限られたものとなった。

ところで、今稿では、ここ1年半におよぶコロナ危機が及ぼした影響を、若年層に絞り、検討してみたい。新型コロナで直接多くの犠牲者を出したのは確かに高齢者層だったが、若年層もまた大きな犠牲を払った。15-25歳の若年層の3分の2は教育機関に在籍し、3分の1は労働市場で働く労働者だが、どちらにもロックダウンの影響は大きかった。学生たちの場合、突然、大学が閉鎖され、すべての授業はオンラインとなるとともに、サークル活動やスポ-ツもできなくなる。勉強に遊びに最も活動的な生活を行う学生時代が、自分たちの狭い下宿や学生寮で、ただただ授業をパソコンで見るだけの単調な生活に一変する。しかも、最初の3ヶ月のロックダウンが終わった後も断続的に外出制限やロックダウンがあったので、結局、2020年3月から2021年6月まで大学キャンパスは閉鎖状態で、ほとんど対面授業は行われなかった。

働いている若者にとっても難しい1年半だった。若年層はその職業人生の始まりという重要な時期にロックダウンに襲われ、長期間、実際の職場に行くことができず、自宅でテレワークを行うこととなった。また、相当数の若年層は有期雇用や派遣労働といった不安定雇用で生活していた。ロックダウンが始まると、企業は新規採用を停止したり、有期雇用の更新をストップするので、若年層の一部は、失業者となったり、無職の状態で、両親に居候することになる。

このように、この1年半は若年層にとって大きな試練の時となったので、その現状をいくつかの調査で見てみたい。現在発表されている様々な調査は、そのほとんどが2020年を対象としているので、2020年末の状況ということでこの稿を進めたい。2021年になると、景気は急回復するので、若年層をめぐる環境は大きく変化しているが、それは別の稿に譲りたい。まず初めに、新型コロナが発生する以前の若年層の実態から見てみよう。

1 労働市場の若年労働者(注1)

①新型コロナ以前の若年層:労働者と学生

2018年の統計をみると、15―24歳の3人に1人が労働力人口で、3人に2人は大学などの教育機関で教育を受けていた(注2)。30年前の1990年と比べると、この層の労働力率は6%減り、高学歴化の現象は顕著だが、ここ10年は労働力率は安定的に推移している。この3人に1人という若年層の労働力率は、EU平均の47%を大きく下回り、低い国の一つとなっている(ちなみに、デュアル制度の発達しているドイツは、この年齢層の50%が労働力人口)。

若年の労働市場と裏腹の関係にあるフランスの教育システムに関して少し説明しておきたい。フランスの伝統的な教育制度は、中等教育の途中で進路が大きく分かれ、見習いなどの形で就職する者(生産労働者、事務職員、職人)とバカロレア(中等教育の修了と大学入学資格を兼ねる)経る一般教育コースだったが、ここ30年で様相が一変する。まず、政府の後押しもあり、高学歴化が進むとともに、短期専門大学(ソフト技術者などの中堅技術者の養成コ-ス)が次々に新設され、多様な職業バカロレアが設けられる。それまで、義務教育後すぐに現場で見習い労働者として技能を習得していたものが、教育制度と結合し、専門高校と実地の見習いを経て職業資格(職業バカロレアの修得)を得ることになった。一般教育の方も、学士の上に修士課程が普及し、専門職の多くは少なくとも修士を卒業することが必要になっている。このため、現在の若年層が労働市場に出る年齢は全くバラバラとなっている。例えば、2018年に、18-20歳の就学率は3分の2を超えるが、その後、1年ごとに減り、21-24歳になると30%に落ちている(注3)。したがって、若年労働者数字は主に20-25歳の若者の労働市場における状況を示していると読むことが正しいだろう。

なお、フランスは、学校システムからのドロップアウトが昔から社会問題となっているが、教育省の統計では、中等教育修了(18歳)以前にドロップアウトしたものの比率は2019年に12%とかなりの高い数字になっている(注4)。ただし、このうち、どれだけの割合がNEETではなく、求職活動を行う失業者なのかはわからない。

この教育制度に対応し、フランス企業は職業資格を基準として労働者を採用する。高等教育出身者の場合はその専門性と教育レベル(バカロレアから3年、5年など)、一般労働者の場合には、職業資格と職業経験が重視される傾向が強い。日本のような学卒者の一括採用はなく、原則は空席のポストごとに、専門の職業資格を持ち、しかも同様の職種で一定の経験を持つものが優遇される。そのため、専門コースを終えたばかりの若年層は、職業経験を持たないので、初職を得るのに苦労することが多い。

表1は、2018年における年齢階層別の就業構造を示している。まず、労働市場への入口に立つ若年層では、失業率が高く、5人に1人は失業者であった。雇用を得たものでも、有期労働者が3割近くに上り、それに派遣労働者を加えると、この層の3人に1人は不安定雇用で生活していた。期間の定めのない雇用(無期雇用)は44%と低く、他の年齢階層との違いは歴然である。その上、他の年齢階層では独立自営業が1割以上あるのに対し、若年層ではほとんど見られない。その代わり、若年層の2割弱は教育と職業の中間的な地位である研修・見習いとなっている。このように、職業経験の未熟な若年労働者の多くは、まだその職業上の地位が不安定で、ステッピング・ストーンとして有期雇用や派遣労働を受け入れざるを得ないでいる。

表1:年齢階層別就業構造 (単位:%)
画像:表1

  • 資料出所:INSEE Tableaux de l'économie française, 2020 (Emploi par âge)

有期雇用は、わが国でも大きな問題となってから久しいので、ここで少し日仏間の有期雇用の違いを説明したい。フランスの労働法は無期雇用を一般的な雇用形態と規定し、有期雇用やその他の雇用を例外的に認められる雇用形態とする。そのため、法が有期雇用が認められる事由や職種(20数種ある!)を規定し、その範囲でしか有期雇用は許されない。また、その雇用期間にも制限があり、一般的に18カ月を超えることは許されず、解雇手当の支給も義務化されているので、有期雇用は必ずしも安価な労働力ではない。有期雇用が認められる代表的な事由としては、正規雇用者が出産や病気などで欠勤した際の代替、レストランなど季節的変動が大きく、短期雇用が常態と認められた産業の雇用などである。

このように、雇用への入口規制があることもあり、フランスの有期雇用の比率は低い水準で推移し、新型コロナの影響のなかった2019年には総雇用の10.4%、派遣労働を加えても、13.1%でしかない。また、時系列的にも安定し、ここ20年間、有期雇用の比率は10-12%の水準で推移している。ところが、この有期雇用の内容をみると、近年、非常に短期の有期雇用が顕著に増加している。例えば、1カ月以内の有期雇用は1998年には、有期雇用の57%だったが、2017年には実に83%に上っている(注5)。また、有期雇用の平均期間は2001年の112日から2017年の46日と大きく減っている。

この有期雇用の短期化は、ごく短い雇用が非常に増えた結果である。例えば、1日単位の契約は数の上では有期雇用の30%に上る。そして、一定の産業が集中的に短期の有期雇用を活用する。季節的な繁閑の大きいホテル・レストラン業、構造的に人員が足りない上に出産や病気で欠勤者の多い医療関係や老人ホームなどがその代表となる。その反対に、製造業では、短期の有期雇用はほとんど使われず、むしろ派遣労働者を使うことが多い。有期雇用は、地方公務員で頻繁に使われているが、これには出産・病気欠勤者の代替であることが一般的で、その契約期間も比較的長くなる。企業側が有期雇用を採用する主な理由は短期的な需要の変動に答えるためと新規採用の際に労働者の能力を見極めることにある(注6)

②新型コロナ危機と若年労働者

2020年春 まだ得体がまったくわからなかった新型コロナが蔓延し、厳しいロックダウンとなったが、それは学校教育の終わりと就職活動開始という大切な時期と重なった。経済活動が停止したので、多くの企業は自己防衛のために、新規採用を停止する。新規採用の指標は、4月には、前年比較で、マイナス77%まで減った。かなりの学生や研修生は、この年の就職をあきらめ、大学に残ったり、両親の家に戻り、経済活動が再開するのを待つ行動をとった。その一方、すでに企業などに就職していた若年層のなかでは、有期雇用や派遣労働で働いていた者が失職することになる。この状況を1年前の2019年第4四半期との比較した表2で見てみよう。なお、2019年は景気が上向き、雇用情勢が好転していたことも頭に置き、統計を読む必要がある。

表2:新型コロナ危機下の若年層の雇用と教育(16-29歳)
画像:表2

  • 資料出所:DARES Analyses, "Comment la situation des jeunes sur le marché du travail a-elle évoluée" No.50, sept. 2021

まず、目立つのはコロナ禍にも関わらず、若年層の失業率が大幅に減少したという逆説的な現象だろう。その要因にはいくつかあるが、やはり国の思い切った雇用救済策が効果をあげたことが指摘できる。ホテル・レストラン、観光業、娯楽産業などはほとんど1年間活動ができなかったのにもかかわらず、部分失業制度のお蔭で失業者を出さなくて済んだ。この点では、国が雇用の救済に動かず、大量の失業者を出したアメリカとは対照的であった。また、コロナ危機の最中、多くの企業が新規採用を停止したことをみて、多くの就職期の若年層が就職を一時的にあきらめ、両親の家に戻ったことも失業率を低めた要因である(無職は2.4%増加)。さらに、学生のなかには、教育機関に残り、コロナ危機が通り過ぎるのを待った者もいた(教育機関に在籍する者、3.1%の増)。同じように、教育も受けず、就職活動もしないニートが増えているのも、若者の中で、新型コロナ危機の間は就職は不可能とあきらめた者もかなりいたことを示している(4.5%増)。

次に、若年層の雇用構造の変化をみたい。有期雇用などに関して、若年層に絞った統計は手に入らなかったので、全雇用の統計(すべての年齢階層)でみると、2019年との対比で、無期雇用は0.5%増加し、雇用の86%に達したのに対し、有期雇用(-0.6%)、派遣労働(-0.3%)と下がっている(注7)。前節に見たように、若年層は有期雇用や派遣労働の主な担い手なので、多くの若者が雇用を失い、教育・職業訓練に戻ったり、就職を一時あきらめたりした模様である。ちなみに、同じ統計では、ロックダウンがあったにもかかわらず、見習いはわずかながら増えている(0.1%)。

以上が若年層に関するマクロ的な統計で読み取れる2020年の状況だが、コロナの影響は均一なものではなく、一般的に弱い立場にあった者が犠牲を大きな払ったと言える。教育・技能水準の低い者は雇用機会が乏しく、無職やニートとなり、失業給付すら受けられなかった。それに対し、すでに雇用を得ていた民間の労働者や公務部門で働く労働者は部分失業制度などに守られ、雇用不安にさらされることはなかった。

ただし、雇用不安はなかった若年労働者といえども、この1年は試練の年になった者が多かったようだ。まず、若年層の労働者の多くは企業に入ってから間がないので、企業組織の全貌や企業文化に不慣れであった。普通ならば、企業のメンバーになるための見習い期間であるべきものが、ある日、突然、オンラインの仕事となり、戸惑うことが多かったようだ。とくに新入社員の場合、zoom会議において、だれが上司でだれが同僚なのかわからないので困ったとのエピソードが伝えられた。また、普段なら、先輩に聞けば5分で解決する小さな問題が、いちいち上司や担当者にメイルしなければならず、時間のロスが大きかったという。企業自体も突然のテレワークへの移行で、仕事のやり方、管理体制を模索していたので、とても若手社員を養成することまで手が回らなかったと思われる。このように、多くの若手社員にとっては、この1年は仕事に関して学ぶ機会を失し、空白の1年になった。

③学生の状況

若年層の3分の2は、まだ教育を受けているので、学生の状況を少しだけ見ておきたい。2020年春先以降、わずかな期間を除けば、大学のキャンパスは閉鎖され続け、ようやく普通の授業(対面授業)になったのは2021年の新学期なってからである。この間、ほとんどすべての授業はオンラインとなり、多くの学生は小さな下宿先や学生寮が勉強部屋兼生活空間となる(注8)

オンライン教育はフランスではそれまで全く普及していなかったので、教える側にもまた学生にもかなり問題があったと言われる。新聞記事によると、オンライン教育の有効性は教育科目の専門とクラスの学生数で問題のあり方は大きく違っていた。クラスが小規模な場合は、オンラインでも学生の理解の程度を把握できたが、大教室の授業ではそのようなコントロールは全く不可能だった。また、かなりの学生はネットの授業に出席せず、まじめな教師には精神的な負担になったという。さらに、教育上重要である学期末試験や中間試験が実際上不可能だったので、教師は採点基準を甘くしたと言われ、進学率が例年に比べて高くなった(注9)

学生の立場から見ると、その住居事情がオンライン教育の効果と密接に関連していた。両親が大きな家を持っている場合、学生は、かなり恵まれた環境で勉強ができたはずだが、多くの場合、両親のテレワークと競合し、パソコンの優先順位の問題があったと言われる。また、相当に勉強熱心な学生でも、毎日 教師が入れ替わりネットで授業を行うので、1日中授業に集中することは不可能だったという。さらに、相当数の学生は、パソコンの能力やインターネットへの接続の問題があり、授業を満足にキャッチできず、クラスから脱落する者もかなりいた模様である。オンライン教育では、親の貧富の差がそのまま教育効果につながった可能性が強かったと思われる。

生活面では、経済的な問題と孤独という精神的な問題があった。普段、フランスの学生の約2人に1人は何らかのアルバイトで生活費を補っている。大学の事務の手伝い、ベビーシッター、レストランやキャフェのウェイター、夏休み中の観光地でのアルバイトなどが代表的な例となる。ところが、再三のロックダウンと外出制限のために、そのようなアルバイトができなくなった。2020年6月末から7月に行われた公的機関のオンライン調査によれば、学生の3人に1人が経済的な問題を経験したと答えている(注10)。その上、学生生活を助けている学生食堂が閉鎖されたので、食事に困る学生も多かった。普段、学生たちは3.3ユーロで、前菜、メインの肉または魚およびデザートという食事ができたのに、食堂が封鎖されたので、自分で買い物をし、食事を作る羽目となる。学生寮などでは、部屋にキッチンがないので、ボランティアが無料で食料品を配る日には行列ができた。また、ロックダウンは多くの学生を孤立させ、中には精神的に落ち込むものもかなりいた。上記のオンライン調査では、学生の半数はロックダウンで精神的苦痛を味わったと答えた。また、16%は、何もやる気がなくなったと答え、精神的に落ち込んだ学生がかなりいたことが分かる。大学の医療関係者が口をそろえて、長期の隔離からくる学生の精神的なダメージを訴えた。このような大学教育の混乱は、結局、2021年の6月まで続いた。

2 若年者への雇用対策

新型コロナで、大きな犠牲を払ったのは高齢者層と若年層であったことは衆目の一致するところで、ヨーロッパ諸国は、こぞって若年層と学生・若年層を対象とした様々な救済策を試みたが、フランスでは学生・若年層向け行った施策は限られていた。逆に言えば、一般的な救済策が大規模だったので、若年層への対策が目立たなかったとも言える。例えば、新型コロナ対策の切り札だった部分失業制度は、とくに若年層の雇用が多いホテル・レストラン・スポーツジムなどに長期間適用された。

政府は2020年7月に“若者1人、ソリューション1”と題する総合的雇用対策を採用した。それまでもあった若年層向けの多様な雇用政策をまとめ、強化したもので、Pôle emploi などの専門員が個別的に若年労働者を助言・指導し、適当な職業教育や見習いコースを教え、雇用に結びつけようとするものである(注11)。具体的には、若年層の雇用助成(若年層を雇用した企業に8000ユーロの助成金)、技能が低い労働者を対象とした職業訓練コース、そして個別のコ-チング、研修・見習いの奨励(企業への助成金)などからなっていた。また、とくに就職が難しい地域出身者(イミグレが多い)や長期失業者を優先的に扱うことも強調された。労働省の調査では、これらの措置の結果、見習いのコ-スに入ったものは、2020年末に1年前と比べて、40万人増加した。また、雇用政策の重点目標である教育・技能レベルの低い人も数多く職業訓練コースに登録したと報告している。この総合政策の一部は時限立法で、2021年6月で終わるが、他の措置は現在も継続している。

結び:評価が分かれるここ1年半の若年労働者の経験:失われた新型コロナの世代?

大げさな表現を好むフランスのメディアは、2020年のロックダウンの最中、長期間の大学封鎖で孤独にさらされる若者を評して“失われた世代”という言葉を使った。この表現は、もともと第一次世界大戦の塹壕戦で百万人を超える死者と4百万人の負傷者出した世代を指してのもので、それを知らないジャーナリストが無理にこの表現を引用したものだった。ただ、職業人生の出発点で、ある意味1年半、孤独な生活を強いられたことはその負の影響が今後出てくる可能性はある。とくに心配されるのは、精神的に落ち込んだ若者たちで、立ち直るのには相当の時間が必要になるかもしれない。

2020年には、若年層の苦境を訴えるマスコミの報道が圧倒的に多かったが、その一方、若年層の問題に詳しい専門家のなかには、コロナ危機を相対化し、若者のレジリアンスを強調する見方もあった。実際、若年層を対象とした世論調査では、ロックダウンの最中でも、多くの若年層は彼らの将来を楽観的に見ていた。確かに、ロックダウンは学業や仕事の上で空白の期間をもたらしたが、若者の大多数はコロナ危機を一時的な現象と考え、自分たちの将来を悲観することはなかったと言われる。ロックダウンの最中、多くの若年層がこの時期の労働市場への参入を回避し、見習いコースに入ったり、より専門性の高い教育機関に残ったのも、そのような楽観的な思考から出てきたのだろう。

フランスの大企業は優秀なマネージャを養成するために、早くから候補者を選抜し、挑戦的な仕事を与えている。ロックダウンの期間、多くの若年層は孤立化する経験をした。多分、一部の若者はその間を空白期間とみなし、ストレスを感じながら、嵐が去るのを待っていたのだろう。それに対し、一部の若者には、ロックダウンを経験したことで、自分の置かれた環境を見つめなおし、家族の絆の大切さや人とのつながりの重要さに気づく機会になった可能性もある。

最後に、蛇足かもしれないが、私が尊敬する故孫田良平先生のことを紹介したい。先生は、生前 賃金問題の専門家として大活躍され、94歳で亡くなられたが、最後まで新聞の論説(山形新聞)などで、働く若者を励ます言葉を書いていた。先生の出発点は第二次大戦中の学徒出陣とその後、英国軍の民間雇として2年間マレーシアのジャングルで生活した経験にあった。帰国後、労働省に入省、賃金の専門家として、1950年代から多くの賃金研究を発表、1970年に独立し、評論、教育分野で活躍した。いつも背筋がピンと張った、本当に肝の据わった人物だった。先生は、若い人は、試練の時期を乗り越えてこそ成長すると口癖のように説いていた。そして、就職先の選択で迷う学生には、どんな職業であろうとも、仕事を行うことで学ぶことが多くあり、成長につながると励ましていた。自分の戦争体験があったので、試練を乗り越えることの大切さを実感していたのだろう。比較のしようもないが、フランスの新型コロナの世代の人は、一定の試練の時期を経験したので、もしかすると、より成長する世代になるかもしれない。

2021年10月31日、パリ郊外にて。

プロフィール

写真:鈴木宏昌氏

鈴木 宏昌(すずき ひろまさ)

1964年早稲田大学政治経済学部卒業、69年ルーアン大学(フランス)博士課程修了、70年から86年までILO本部(ジュネーブ)勤務、86年から早稲田大学商学部助教授、91年同教授(2010年まで)、現在、早稲田大学名誉教授、IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員。専門分野は、労働経済。特に雇用、労働時間、労使関係の国際比較。

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