2017年、ラテンアメリカ地域の労働市場は引き続き後退
国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)が、ラテンアメリカ・カリブ海地域における2017年第一四半期の経済情勢を発表した。報告によれば、地域の労働市場は、2016年の全体的で大幅な後退に比べ、緩やかな後退へと変化した。
2016年、地域の労働市場は急速に悪化
2016年、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の都市失業率は、2015年の7.3%から8.9%に上昇した。この20年間で最も大きな上げ幅である。その背景に、都市就業率の急速な落ち込みと、都市労働参加率の上昇があった(図表1)。
2016年の労働市場の後退は、多くのラテンアメリカ諸国に共通の傾向であった。同年、20カ国中13カ国で都市失業率が上昇し、これら半数の国で就業率が下降した。近年の主要な労働指標の変動は、ブラジル労働市場の著しい後退に因るものだ。2015年から2016年に、ブラジルでは都市失業率が9.3%から13.0%へ上昇したが、ブラジルを除いたこれら諸国の平均は6.0%から6.3%へ僅かに上昇したのみであった。
図表1:雇用情勢の推移(四半期データ)(%)
2017年前半、労働市場の後退は減速、各国の差異が顕著に
2017年第一四半期の失業率は、前年に比べて小幅の上昇にとどまった。就業率の下落は少なく、都市労働参加率は緩やかに上昇した。主に、大・中規模の経済国で雇用水準の低下が起こり、メキシコ以外は小規模の経済国で上昇がみられた。労働参加率は、ブラジル、コスタリカ、ジャマイカで上昇、チリ、メキシコで停滞、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイで下降した。都市就業率は、コスタリカ、エクアドル、ジャマイカ、メキシコで上昇し、ブラジル、チリ、コロンビア、パラグアイ、ペルー、ウルグアイで下降した。一方、失業率は、ブラジル、チリ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイで上昇し、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、ジャマイカ、メキシコで低下した。ブラジルでは、主要な都市部の就業率が0.8%下降し、失業率は2.9%上昇した(2016年は各1.5%減、3.7%増)。
フォーマル雇用の漸進的改善
ラテンアメリカの雇用の質を測る上で重要な指標に、インフォーマル雇用とフォーマル雇用がある。ILOの国際統計基準によるインフォーマル雇用とは、「法人格化していない起業家・自営業者および不登録事業者に雇用される労働者」、「公的に登録された企業で、公的手続きに則らず雇用される労働者」、「家事サービス等の家庭内労働者」を含み、法的規制や社会保障による基本的な保護を受けることができない労働者である。フォーマル雇用は、正規に登録された企業で、公的な手続きをもって雇用された労働者を指し、一般に、社会保障制度への加入を意味する。テンアメリカでは近年改善しているものの、(農業部門を除く)労働市場の5割弱をインフォーマル雇用が占める。
2017年第一四半期のフォーマル雇用の労働者は、ブラジル以外の国で増加した。メキシコ、コスタリカは増加を維持、チリ、ペルー、ニカラグアも微増が続く。ウルグアイ、アルゼンチンはマイナスからプラスへ転じた。ブラジルは2015年以降減少が続く。フォーマル雇用の実質賃金は1.5%増加、実質ベースの最低賃金は2.1%増加した。地域全般での低いインフレ率が、実質賃金の上昇または安定を助けたが、メキシコではインフレの加速が実質賃金の低下をもたらした。
2017年後半の見通し
2017年後半も引き続き労働市場の後退が予測される。経済成長率は1.1%と予測されるが、雇用の創出を活性化し、都市失業率の増加を覆すには十分ではない。2017年は後退が減速するものの、都市失業率の年平均は、2016年の8.9%から、9.4%に悪化すると推計される。
(和田佳浦 早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程)
参考文献
- CEPAL 2017 “Estudio Económico de América Latina y el Caribe 2017”.ILO 2014 “Panorama Temático Laboral: Transición a la Formalidad en América Latina y el Caribe”.
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