地域格差と地域雇用:ドイツ
東部ドイツの再建と地域経済振興策
- カテゴリー:地域雇用
- フォーカス:2007年1月
ドイツでは、1990年10月の東西ドイツ統一以降、旧西独地域(西部ドイツ)と旧東独地域(東部ドイツ)の東西格差が深刻な問題となり、東部ドイツに対する格差解消のための様々な地域経済振興策が実施されてきた。しかし、2005年の東部ドイツの失業率は18.8%と、西部ドイツ(9.9%)の2倍に達しており、統一後16年が経過した今日でも依然として大きな東西格差が存在する。ドイツ政府は、東部ドイツの経済開発を推進するための投資促進や経済構造改善プログラムの実施に積極的に取り組んでいる。
東部ドイツ再建のための財政支援
ドイツは、90年10月に旧東ドイツ(注)を吸収する形で再統一した。
再統一時の東部ドイツの経済は、工業設備が時代遅れで疲弊しており、これを再建するためには長期に渡る途方もない努力が必要とされた。このため、ドイツ政府および州政府の拠出によりドイツ統一基金が創設され、90年から94年の間に、西部から東部に対し822億ユーロの交付金が支給された。そのうちの40%は地方自治体の財政支援に割り当てられた。
93年の連邦統合プログラムの実施に関する法律は、東部ドイツの自治体に対し、インフラの格差を是正し、生活水準を西部ドイツの水準に近づけるための財政基盤を与えた。95年以来、歳入割当制度によって、西部ドイツのより豊かな州が拠出した資金から、ベルリンを含む東部ドイツの諸州に対し、連邦平均の少なくとも95%の水準の予算を確保するための資金が提供された。04年の歳入割当制度の総額は、およそ68億ユーロにのぼった。また、再統一による追加的財政負担を支援するため、東部ドイツの諸州は連帯協定(Solidarity Pact)に基づき、連邦資金の提供を受けてきた(02年~05年は年間平均約105億ユーロ)。
01年6月に合意された連帯協定Ⅱは、東部ドイツの経済開発には安定した長期の戦略が必要であるというドイツ政府および各州政府の共通認識を反映している。05年から19年を対象期間とする連帯協定Ⅱは、2つのバスケット(基金)で構成される。バスケットⅠは、東部ドイツに対し、05年から19年の15年間で合計1050億ユーロの追加資金を提供するものである。資金は、東部と西部のインフラの格差を是正し、東部自治体の脆弱な財政基盤を改善することを目的としている。ドイツ政府はまた、05年から19年の間に、さらに510億ユーロの資金をバスケットⅡに割り当てる計画である。この資金は、東部ドイツの成長と雇用を促進し、巨額の財政赤字の減少に役立ついかなる手段に対しても活用できる。
年 | 百万ユーロ |
---|---|
2005 | 10,533 |
2006 | 10,481 |
2007 | 10,379 |
2008 | 10,226 |
2009 | 9,510 |
2010 | 8,743 |
2011 | 8,027 |
2012 | 7,260 |
2013 | 6,545 |
2014 | 5,778 |
2015 | 5,062 |
2016 | 4,295 |
2017 | 3,579 |
2018 | 2,812 |
2019 | 2,096 |
合計 | 105,326 |
資料出所:運輸・建設・旧東独再建省
ドイツにおける地域格差問題
再統一以降の地域振興政策により、東部ドイツのインフラ整備が進み、東西格差も徐々に縮小してきてはいる。しかし、失業率については、依然として東部ドイツと西部ドイツの間に2倍近い格差が存在する。06年11月の失業率は、西部ドイツの8.0%に対して東部ドイツは15.5%であった。
11月の失業登録者約399万5000人のうち、社会法典第Ⅲ編に基づく失業給付Ⅰ(失業保険に基づく通常の失業手当)を受給する者は約138万9000人であった。このうち全人口の2割を占める東部ドイツの失業者が41万9000人と全体の3割を占めた。社会法典第Ⅱ編に基づく失業給付Ⅱ(失業給付Ⅰの受給期間が終了した就労能力のある生活困窮者に対して税財源から支給)を受給する失業者は261万人。このうちの35%(90万人)が東部ドイツの失業者であった。
欧州連合は、所得が平均可処分所得の60%未満の場合を「貧困の危機にある」と定義している。ドイツでは独身者で月額856ユーロ、子供を2人持つ家庭で1798ユーロの所得水準に当たる。ドイツ連邦統計局によると、04年は全人口の約13%に当たる約1060万人が貧困の危機にさらされていたという。貧困の危機にある人の割合は、東部ドイツ(17%)が、西部ドイツが(12%)を上回っている。
連邦州 | 人口(千人) | 人口(構成比) | 失業者数(人) | 失業率(%) | 失業給付Ⅰ受給者数(人) | 構成比(%) | 失業給付Ⅱ受給者数(人) | 構成比(%) |
(旧西ドイツ地域) | ||||||||
シュレースヴィヒ・ ホルシュタイン州 | 2,833 | 3.4 | 125,742 | 8.8 | 41,025 | 3.0 | 84,717 | 3.2 |
ハンブルク州 | 1,744 | 2.1 | 87,899 | 10.0 | 24,012 | 1.7 | 63,887 | 2.4 |
ニーダーザクセン州 | 7,994 | 9.7 | 375,155 | 9.4 | 126,701 | 9.1 | 248,454 | 9.5 |
ブレーメン州 | 663 | 0.8 | 43,539 | 13.5 | 9,131 | 0.7 | 34,408 | 1.3 |
ノルトライン・ ヴェストファーレン州 | 18,058 | 21.9 | 917,754 | 10.3 | 284,117 | 20.5 | 633,637 | 24.3 |
ヘッセン州 | 6,092 | 7.4 | 253,379 | 8.2 | 89,429 | 6.4 | 163,950 | 6.3 |
ラインラント・ プファルツ州 | 4,059 | 4.9 | 144,398 | 7.1 | 57,691 | 4.2 | 86,707 | 3.3 |
ザールラント州 | 1,050 | 1.3 | 44,285 | 8.8 | 14,448 | 1.0 | 29,837 | 1.1 |
バーデン・ ヴュルテンベルク州 | 10,736 | 13.0 | 301,921 | 5.5 | 135,136 | 9.7 | 166,785 | 6.4 |
バイエルン州 | 12,469 | 15.1 | 378,057 | 5.8 | 186,445 | 13.4 | 191,612 | 7.3 |
旧西ドイツ地域合計 | 65,698 | 79.7 | 2,672,129 | 8.0 | 968,135 | 69.8 | 1,703,994 | 65.3 |
(旧東ドイツ地域) | ||||||||
ベルリン州 | 3,395 | 4.1 | 270,543 | 16.1 | 59,217 | 4.3 | 211,326 | 8.1 |
メクレンブルク・ フォアポンメルン州 | 1,707 | 2.1 | 151,940 | 17.3 | 50,247 | 3.6 | 101,693 | 3.9 |
ブランデンブルク州 | 2,559 | 3.1 | 204,343 | 15.3 | 66,007 | 4.8 | 138,336 | 5.3 |
ザクセン・アンハルト州 | 2,470 | 3.0 | 202,569 | 16.0 | 64,783 | 4.7 | 137,786 | 5.3 |
テューリンゲン州 | 2,335 | 2.8 | 163,891 | 13.6 | 63,458 | 4.6 | 100,433 | 3.9 |
ザクセン州 | 4,274 | 5.2 | 329,691 | 15.1 | 114,948 | 8.3 | 214,743 | 8.2 |
旧東ドイツ地域合計 | 16,740 | 20.3 | 1,322,977 | 15.5 | 418,660 | 30.2 | 904,317 | 34.7 |
合計 | 82,438 | 100.0 | 3,995,106 | 9.6 | 1,386,795 | 100.0 | 2,608,311 | 100.0 |
資料出所:連邦雇用エージェンシー、連邦統計局データより作成
投資と地域経済開発の促進
ドイツ政府は、企業の投資意欲と可能性は、経済成長と永続的な雇用創出の礎となるものであるとして、東部ドイツに対する投資の促進に積極的に取り組んでいる。初めて東部ドイツに投資する製造業や製品関連サービス業の企業に対しては、最大25%の税優遇措置が与えられる。チェコやポーランドとの国境に近い地域においては、その率がさらに2.5%上乗せされる。
ドイツ政府はまた、構造的に弱い地域の経済開発を「地域経済構造改善のための共同プログラム」を通じて支援している。このプログラムは主に、新規雇用を創出し、現在の雇用を安定させるための商業的投資の促進を目的としている。競争的立地条件を確立し、ビジネス用立地としてのドイツの地位を強化するために、ビジネス関連インフラの拡張を支援する。共同プログラムの資金はまた、地域の潜在力を強化するためのネットワーク間の協力やクラスター(地域に集積した企業、大学、研究機関等の集合体が、イノベーションの創出を通じて地域の競争力を高めていくこと)管理プロジェクトの促進にも利用できる。
共同プログラムの資金は、ドイツ政府と州政府および欧州地域開発基金(ERDF)が拠出している。資金配分の決定は、ドイツ政府と州政府が合同で組織して毎年開催される計画委員会によって決定される。支援地域の選定は、雇用を最重視しており、(1)特に経済的に弱い地域(2)地域の経済発展と雇用創出(3)他の制度との相乗効果――などを考慮して決定される。具体的には、約280に区分された地域において、4つの指標(失業率、地域所得、インフラ整備状況、人口予測)をウェイトづけした合計値を計算し、支援を必要とする地域を決定する。東部ドイツ地域は、全体が最優先の対象地域に指定されており、産業・企業の近代化、職業再教育などの雇用対策、企業立地条件整備などが重点事業として実施されている。
注
- 旧東独地域のメクレンブルグ・フォアポンメルン、ブランデンブルグ、サクセン・アンハルト、ザクセン、チューリンゲンの5州は、「新連邦州」と呼ばれている。
参考
- 連邦運輸・建設・旧東独再建省ウェブサイト
- 連邦雇用エージェンシー・ウェブサイト
- 連邦統計局ウェブサイト
- 株式会社野村総合研究所『地域の自主性・主体性を生かした国の支援・特例のあり方に関する調査報告書』(平成15年3月)
- 財団法人自治体国際化協会『欧州地域開発基金を用いた地域振興施策』(平成11年3月)
- 1ユーロ (EUR) =154.93円(※みずほ銀行ウェブサイト
2007年1月9日現在のレート参考)
2007年1月 フォーカス: 地域格差と地域雇用
- イギリス: 雇用政策と地域雇用政策
- ドイツ: 東部ドイツの再建と地域経済振興策
- フランス: フランスの地域格差:暴動と郊外問題をキーワードに
- EU: EUにおける地域経済格差とその是正のための政策