パートタイム労働者:スウェーデン
スウェーデンにおけるパートタイム.有期.臨時雇用をめぐる課題

パートタイマーの特徴

スウェーデンにおいて「パートタイム労働者」とは、1週間の労働時間が35時間以下の者をいう。近年の推移を見てみると、男性が増加、女性が減少の傾向にある。総数では1997年まで減少傾向、その後横ばいからやや増加傾向が見られる(図表1参照)。2004年時点で、男性パートタイマーは男性雇用者全体の11.1%。この数値は1988年から2004年にかけて4ポイント強増加している。一方で女性は74.1%。同じ14年間に9ポイント弱減少している(図表2参照)。

スウェーデンでのパートタイマーの特徴を列挙すると以下のようになる(注1)。

まず、全パートタイム労働者に占める女性の割合が高いことである。次にパートタイマーの職種として多いのが公共のケア.サービスや商業.運輸業などである。産業によっては、労働市場で弱い立場にあり最低賃金水準の就労をせざるを得ないパートタイム労働者に依存している部門もある。とりわけ地方自治体所属のホームヘルパー、健康.病院ケア、託児所、清掃、レストラン、スーパー.マーケットのレジなどの職種である。これらは典型的な女性の職種である。パートタイマーの約40%がこの職種に従事している。

男性のパートタイム労働者のほとんどが商業.運輸業に従事している。男性のパートタイム労働者は主に55歳以上の者、あるいは学生が占めている。若年者に多いという特徴もある。男性、女性ともにパートタイム労働者は16歳~24歳の年齢層で増加する傾向にある。パートタイム労働に就く学生が増加しているのは、住宅費および生活費が上昇しており学生ローンや奨学金の支給水準では対応できていないためである。

また、長時間パートタイム労働者数(週30時間以上労働)が減少する傾向も見られる。

女性パートタイム労働者が多いことの背景には、スウェーデンの女性の労働力率が高いことがある。スウェーデンの労働力率(16歳~64歳、2003年)は、男性79.9%、女性が76.2%である。ちなみに、日本の労働力率(15歳~64歳、2003年)は、男性で84.6%、女性が60.0%である(注2)。女性が労働市場に多く参入している理由として1960年代以降の少子化の問題がある。少子化問題に直面した北欧諸国はその克服策として女性労働力を活用する政策を推進していったという歴史的経緯がある(注3)(注4)。

組織化と処遇

パートタイム労働者の組織化と処遇という観点からスウェーデンを見ると、日本ほど問題視されてはいない。少なくとも週17時間以上働いていればフルタイム労働者と同等の(就労時間に見合った)処遇を得られる。17時間以下の労働者はいくつかの処遇面で格差があるがすべての雇用者は労働時間に関係なく傷病手当、年金、有給休暇などを取得できる(注5)。OECD(1999)によると、同じ仕事内容を行なっているフルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金格差を見た場合、スウェーデンはフルタイム労働者が100に対しパートタイム労働者の時間当たり賃金は92.3である。ちなみに日本の場合66.4である(注6)。

また、パートタイマーの労働組合組織率が高い。少々古いデータだが労働力調査によるとパートタイム労働者の77%が組織化されている。ちなみに、女性労働者の組織率が84%、移民労働者が82%である(1998年)(注7)。スウェーデンの組織率は全般的に高い。それは失業保険基金が労働組合によって産業別に組織された経緯があり、組合に入らなければ失業保険の給付を受けられないという理由がある(注8)。また、女性やパートタイム労働者の組織率が高いのは差別や不当な扱いなど、職場において弱い立場にあるため、組合を必要とするから加入率あるとされている(注9)。パートタイムの労働者および失業者を組織している労働組合として挙げられるのが、地方自治体労働者組合、小売業労働者組合、ホテル.レストラン労働者組合、建物管理労働者組合である(注10)。

雇用保障の動き

昨年来、パートタイム労働者の雇用保障を目的とする「フルタイム雇用法案」が議論されている。フルタイム雇用が当然与えられるべき地位であり、パートタイム雇用は代替措置に過ぎないと規定する法案が2006年の春、議会に提出されたのである。

社民党政権は、パートタイム雇用は裏を返せばパートタイムの失業であるとする。パートタイマーの多くがもっと長い時間働くことを希望しているにもかかわらず労働市場が整っていないために意に反した働き方をしている(注11)。つまりパートタイム雇用を増やすことで失業問題を解決することはできないと考えている。パートタイム労働の問題は、働き方や処遇は実質的にフルタイムと変わらないが、それ以外の側面での違いにあるとする。つまり、パートタイマーは職場における親密な人間関係を形成できなかったり、職場参加の機会に乏しく、職業訓練の機会にも恵まれていないということである。

一方で使用者側は反対の意向を示している。就労時間は労使の交渉によって決定されるべきであると主張する。法案責任者の雇用大臣も労働市場庁や国家労働市場委員会、労働生活研究所からの支持を得られているわけではない。これらの機関は使用者側の意向に共鳴し、パートタイム雇用を増やすことによってフルタイム雇用も増加する効果が生まれると主張している。(なお、本稿掲載後寄せられた情報として、「フルタイム雇用法案」は5月18日に議会を通過した。)

有期.臨時雇用のパートタイマー

1999年にブルーカラー労働者を組織するスウェーデン労働総同盟(LO)が発表した報告書を参照すると、1990年から1998年にかけて、正規雇用フルタイム、正規雇用パートタイム、有期フルタイム、有期パートタイムという雇用形態において、男女でどのような変化があったか推移をみることができる(注12)。女性の有期パートタイムは対象期間を通じて増加傾向にある。男性では有期のフルタイム、パートタイムともに対象期間を通じて増加している(注13)。

このデータからもわかるように、スウェーデンにおいて問題とされるのはパートタイマーの中でも有期雇用の場合である。昨年来、スウェーデンで盛んに議論されている労使関係法制の改革は、先述したパートタイム労働のほかに、有期(fixed-term)及び臨時(temporary)雇用に関するものがある。スウェーデンにおいて、処遇の格差という観点に着目すれば、パートタイム労働者とフルタイム労働者の格差よりむしろ、臨時.有期労働者と正規労働者(permanent worker)の格差の方が喫緊の課題だと言える。労働力調査によると有期雇用者は若年で、しかも女性である場合が多い。20歳から24歳に着目すると有期雇用者の雇用者全体に占める割合は男性で37%(2004年)であるのに対して、女性は56%である(図表3及び4参照)。

臨時雇用者の保障に関する最近の法改正

最近法律が改正され、従来、十分な所得や雇用保障がない臨時雇用者の労働条件が2007年1月から改善されることになる。対象となるのは主に若年や女性の労働者約50万人である。改正のポイントは臨時雇用が適用される範囲が限定されることと正規の職に就く権利が得やすくなること。

改正前は、有期.臨時雇用として少なくとも11以上の形態が存在していた。臨時的な仕事の滞積のための雇用や兵役前の雇用、年金受給者の雇用のための有期契約、職業訓練雇用、休暇仕事(学生が休暇期間中に臨時に働くこと)などが規定されてきた。このように広範に認められてきた臨時雇用が法改正で(1)自由に労働時間を限定できる雇用、(2)一時的な代替雇用、(3)試用のための有期雇用、(4)57歳以上の退職者の有期雇用の4つの形態に整理される。同一の使用者が臨時雇用として労働者を雇い入れることができるのは5年間に14カ月間が上限である。現行法では臨時雇用として12カ月間雇用された労働者は、最初に空席ポストに就く権利が与えられるとされているが、改正後はその期間が短縮化し6カ月を経過した労働者にその権利が付与されることになる。

この改正で使用者が臨時雇用者を簡単に解雇するのを抑止し、不安定な雇用期間を短縮する効果が期待される。改正前の法制下では雇用期間が1年を迎える直前に臨時雇用者を解雇するのが使用者の常套手段となっている。労組出身のハンス.カールソン勤労者雇用大臣は「使用者が6カ月の間隔で採用と解雇を繰り返すような事態がなくなることを期待する。6カ月ごとの採用.雇用の繰り返しは時間の浪費と不信を助長してしまう」と述べた。新しい法律は、プロジェクト雇用、季節雇用および試し雇用を禁止している。これらの雇用形態は、女性が多く就いており、小売、医療、高齢者や子供のケアなどの職種で広く見られる(注14)。

LOはこの新しい法律を現行政府によって導入された最も重要な改革であると高く評価している(注15)。一方で、スウェーデン企業連盟(SN)は経営者にとって好ましくないと論評している。採用と解雇の権利を制限するいかなる法律も経営者の権利を犯すものであり、柔軟性がマネジメントには不可欠であると主張する。

労働市場柔軟化の議論の流れ

スウェーデンでのマネジメントの柔軟性は1970年代以降の雇用保護法制の緩和の動きにはじまる。スウェーデンにおいて非典型雇用、すなわちパートタイム雇用や有期.臨時雇用は、1970年代以降の「労働市場の柔軟化」という動きの中で増加してきた(注16)。1970年代までに革新政権によっていわゆる「スウェーデンモデル」が形成された。やがて景気低迷への対応から「労働市場の柔軟性論議」が盛んになっていく。企業内での労働力の質と量の調整を可能にするため、雇用形態の多様化、臨時的な有期契約とパートタイム契約の活用が一般化していくのである。それはまた法律面での改定をともなうものであった。雇用保護立法、労働協約の修正による解雇規制の緩和という動きとともに、有期雇用の拡大、パートタイム契約の増加という動きとして現れる。70年代初頭から80年代初頭という時期にスウェーデンにおいてパートタイム雇用が急速に増加したのである。

80年代になると北欧諸国において使用者側は更なる外部市場の柔軟性を高めるため、雇用保護法制の緩和と非典型的雇用契約、つまり有期契約.臨時契約の可能性を拡大していこうと試みた。スウェーデンにおいては76年から82年までの保守連合下で雇用保護法が改正された。82年雇用保護法改正による規制緩和は有期契約類型の利用の拡大という形で現れる。更に91年に政権に復帰した保守連合が94年に再度雇用保護法の改正をおこなった。このような一連の雇用保護法の改正は、非典型雇用の活用を拡大させる大きな流れと見ることができる。

一方で最近5年の法改正はパートタイム労働者や有期.臨時労働者の地位を保障するという意味での雇用保障の強化という方向で行なわれている。1970年代以来数十年のスパンで経緯を外観すると、最近5年ほどの動きは行き過ぎた振り子を元に戻すような傾向のように捉えられる。

以上のように、スウェーデンにおけるパートタイマーの問題はパートタイマー固有の問題というよりも、期限の定めのない労働契約と期限付きの労働契約の間の格差、正規雇用と臨時雇用の間の格差、男女間格差の問題という問題が混在する課題であることがわかる。

日本のパートタイマーの課題を女性が多いという側面や雇用契約が形態としては無期契約ではないという側面に着眼すれば、スウェーデンと同様の課題を抱えているといえる。ただ、背景や前提となっていることがまったく異なる。正規雇用のパートタイマーが多いということ、組織率が高いということである。また、高い女性労働力率も見逃せない。

 

『STATISTISK ARASBOK』(2000~2006)より筆者が作成

図表2

『STATISTISK ARASBOK』(2000~2006)より筆者が作成


(女性) 無期 有期 被用者合計 (%)
16-19 18 44 62 70.97
20-24 61 78 138 56.52
25-34 329 90 419 21.48
35-44 424 61 484 12.60
45-54 419 34 453 7.51
55-59 217 13 231 5.63
60-64 126 9 134 6.72
合計 1594 329 1921 17.13

『STATISTISK ARASBOK』(2000~2006)より筆者が作成

図表4

『STATISTISK ARASBOK』(2000~2006)より筆者が作成

参考

  1. 青野覚(1995)「スウェーデンにおける「労働(市場)の柔
  1. 軟化」論と労働法―有期雇用契約規制の緩和を中心として―」『松山大学論集』7巻5号、1995年12月
  1. アンデレス.シェルベリ(2003)「ヨーロッパの労働組合スウェーデンの労働組合が直面する数多くの挑戦(1)~(3)」『生活経済政策』第81号~第83号、2003年10月~12月、生活経済政策研究所
  2. 加藤喜久子(2001)「職業経歴の形成条件に関するフェミニズム論的考察--スウェーデンにおける労働市場の女性化」『北海道情報大学紀要』12巻(2号) 、2001年3月
  3. 猿田正機(2002)「雇用.労働時間と労使関係--スウェーデンを事例として」『中京経営研究』12巻(1号)、2002年9月
  4. 田中裕美子(2000)「パートタイム労働をめぐる最近の研究動向―日本および欧米との国際比較にむけて」『経済学論叢』、51巻4号、2000年3月、同志社大学経済学会
  5. 田中裕美子(2001)「パートタイム労働の国際比較―パートタイム労働の類型化に向けて」『女性労働研究』、40号(2001年7月)女性労働問題研究会
  6. 波江巌(2005)『労働市場政策に関するスウェーデンと日本の比較研究』立命館大学、平成17年4月
  7. “OECD employment outlook”, June 1999
  8. SCB(Statistics Sweden)、『STATISTISK ARASBOK』2000~2006
  9. Sundstrom, Marianne, 1987, “A study in the growth of part-time work in Sweden”, Stockholm: Arbetslivscentrum

筆者

国際研究部研究員/北澤 謙

2006年6月 フォーカス:パートタイム労働者

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