労働運動の現状:フランス
長い後退期を経て活性化のきざし

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2004年12月

5つのナショナル・センター

思想的対立を背景に、フランスの労働運動は、統一と分裂の歴史を歩んできた。現在、ナショナル・センターとされるのは、フランス労働総同盟(CGT:共産党系)、フランス民主労働同盟(CFDT:社会党系)、フランスキリスト教労働同盟(CFTC:保守中道系)、フランス労働総同盟・労働者の力(CGT-FO:社会党・反共系)、フランス幹部職総同盟(CFE-CGC:保守中道系)の5組織である。

フランスの労働運動の始まりは、1830年代に遡る。それは、木工職人、製靴職人、パン職人などの職業別労組の結成によって始まった。当時は、労働者の団結が法的に認められていなかったため、労組は社会的広がりをもつには至らなかったが、1884年の「結社の自由」の法制化を機に、労組の結成は急速に進んだ。

1895年には最初の労組全国組織として、CGTが結成された。CGTは、産業別労組を加盟単位とし、思想的には社会主義、マルクス主義、革命的アナルコ・サンジカリズムを基調としていた。その後、思想的対立からCGTを離れたグループが、CFDT(1964年)、CFTC(1919年)、CGT-FO(1947年)をそれぞれ結成。1960年代前半までには、この4つのナ・センターが並立する体制が確立した。経済、政治情勢の変遷の中で、戦線統一の試みも幾度かなされたが、この4組織体制は現在も続いている。1944年に結成されたCFE-CGCがこれらに次ぐ。CFE-CGCは、エンジニア、管理職などのホワイトカラー層を中心とし、他の4組織とは異なってイデオロギー的背景を持たず、現実主義の運動に徹した組織である。

労働組合の特徴

フランスの労働組合は、1)各労組の組織状況や勢力が正確に把握できない、2)企業内、事業所内に複数の労組が存在する、3)組織率が低いにもかかわらず社会的影響力が大きい――という特徴をもつ。

「市民革命」の精神を引き継ぐフランスの労組では、加入の完全な自由を原則としており、ユニオン・ショップのような組合加入強制システムは禁止されている。加入・脱退は個人の意思に委ねられているため、組合への出入りは頻繁に起こる。チェック・オフ(給与からの天引き)も法律で禁止されおり、組合費は職場や外部での直接徴収が一般的で、徴収率は極めて悪い。

組合員数については、多くの中央組織が、組合費徴収の際に交付する月毎のスタンプ(組合カードに貼付していく)の発行総数を、組合費の平均徴収月数で割り、その数字を組合員数としていたとされるが実際には、数値を調整して、組合員数を過大に算出していたといわれている。そのため現在では、2年に1度企業内で、全従業員が投票する「職場代表選挙」の結果から、組織状況や勢力を推測するというのが慣例となっている。こうしたデータは、政府の公式統計であるため、各組合に対する労働者の支持率を示すものとして、組合員数や組織率よりも重視されている。

労組の基本単位は、サンジカと呼ばれ、一定の地域の産業または職種別に置かれる。そのサンジカの下部組織として地区の支部、さらに支部の下に企業別、事業所別の分会を置くのが一般的。そのため、中小を含む多くの企業、事業所内に、小規模の組合が複数存在することになる。これら労組は、組合費の徴収、企業内での団体交渉などを主な活動とし、ライバルでもある他労組と日常的に顔をつき合わせて勢力争いをしている。複数分立に加え、こうした勢力争いが、全国組織の統合を大きく制約しているといわれる。

組織率は、第一次世界大戦直後(1920年)、人民戦線期(36年)、第二次世界単線直後(45~47年)に、一時的に急上昇したものの、伝統的に低水準を示している。1975年の24%をピークに低下を続け、2003年は8%にすぎない。こうした低組織率は、フランスの労働組合が「組合員の組織」ではなく、「活動家の組織」であることを意味する。その背景には、少数の活動家が未組織の大衆を動員するという運動スタイルの伝統や、第一次大戦直後まで労働運動を主導した「革命的サンジカリズム」の影響が存在するとされる。

しかし、労組の社会に対する影響力、社会的存在感は大きなものがある。その理由のひとつに、1936年に確立した「労働協約拡張適用制度」が挙げられる。労働協約は、当該産業、地域の未組織労働者に拡張適用されるが、ここで効力を有する協約は「代表的な労組」が締結したもので、その労組は政府によって決められる。代表性を有する労組は、労働協約の締結権限をもち、企業内での分会の設置が認められている。1966年の規定によれば、労組の代表性の認定基準は、組合員数、自主性、労組基金、労組の経験と存続年数、占領期間中の愛国的姿勢など。現在、全国レベルで代表性を有する労組は、冒頭にあげた5つのナ・センターのみである。ちなみに、使用者団体としてはフランス企業運動(MEDEF)が代表性の認知を受けている。

労働組合の危機から活性化のきざし

1960年代半ばから70年代半ばまでの「労働運動の黄金時代」でさえも、組織率が25%を超えたことがなかったフランス。運動の高揚期を過ぎると、組織率、組合員数ともに急速に低下し始めた。70年代半ばから90年代半ばまでに、組織率は20%台前半から9%へ、組合員数は400万から210万へと著しく減少した。労働争議も、80年代に入ると減り始め、急速に沈静化。特に民間における減少が目立った。

この20年という長期にわたる労働組合の後退は、「労働組合の危機」とされ、フランスの組合研究者にとって非常に重要な課題とされてきた。多くの研究者が、その原因として、1)産業構造の転換や職種構成の変化、2)従業員の個別管理や企業別交渉の広がりによる産業別組合の存在意義の低下、3)ホワイトカラー、女性、派遣・パート等の新たな労働力に対する組織化戦略の限界――などを指摘している。また、労働組合の構造のあり方に注目する研究者もいる。フランスの労働組合は、活動家(リーダー)を中心とした小規模集団のような組織のため、中心となっている活動家が組織(組合、支部)を離れると、組織そのものが一挙に機能停止に陥ったり消滅したりすることが多い。労働社会学者ドミニク・ラベらのグループは、こうした組合の構造が組織急落を招いたのではないかと指摘している。

ところが、1995年11-12月の公共部門争議(注1) を契機に、労働組合は活性化の様相を呈す。以降、争議数は増加し、労働損失日数は公務員関係を中心に増え続け、2000年には80年代前半の水準まで達した。主要組合の組合員数も、80年代末から90年代前半までの時期を底として増加傾向をみせている。

こうした組合や運動の活性化の背景には、1)1997年夏から2001年春まで続いた好景気、2)組織再建や組合員獲得に向けた長期にわたる組合内部討論や活動家教育の成果、3)企業交渉を通じて時短と雇用創出を進めようとした政府の雇用・労使関係政策の副産物――などが挙げられる。90年代末の労働争議の理由をみると、「労働時間の短縮及び再編成」が増加しており、「週35時間労働法」に関わる交渉が争議数増加に繋がったといえる。

フランスではこれまで、経営の専制主義や経営との妥協に否定的な「異議申し立て」型の労働運動(注2) の影響のため、伝統的に対話不在の対立的な労使関係が続いてきた。その伝統は根強く、1968年に企業内組合の活動が法律で認められた後も、企業内交渉は発展しなかった。しかし、毎年1回の賃金の改定、労働時間の短縮と再編成に関する労働組合との企業内交渉を、経営者に義務づけた「オールー労働法」(1982年)により、この対話不在な労使関係に変化が見え始める。そして、90年代以降の不況や失業率の上昇等の社会・経済状況を背景に、時短、雇用、賃金を話し合う企業内交渉が急激に増加したのである。

これまでの対話不在の対立関係から交渉や協議を通じた問題解決への移行という動きが、今後どのような方向に発展し、また、フランスの労働組合・労働運動の再生・活性化へと繋がるのかについては未知数だ。しかし、変化は間違いなく始まっている。

主要労働組合の概要
  調査年 出所
労働力人口 2712.5万人 2003 INSEE
組合員数 184.5万人 2003 雇用省のDARES
組織率 8.2% 2003 雇用省のDARES

組織名 組織状況 役員 加盟国際組織
CGT
(フランス労働総同盟)
結成1895年
組合員数70万人
(調査年不明)
職業別連盟数33
書記長 Bernard THIBAULT ETUC
CFDT
(フランス民主労働総同盟)
結成1964年
組合員数87.3万人
(2003年)
産業別連盟数20
書記長 Francois CHEREQUE ETUC
ICFTU
TUAC
CGT-FO
(フランス労働総同盟・
労働者の力)
結成1947年
組合員数30万人
(2000年)*
産業別連盟数33
書記長 Jean-Claude MAILLY ETUC
ICFTU
CFTC
(フランスキリスト教労働者同盟)
結成1919年
組合員数22万人
(2000年)*
職業別連盟数16
委員長
書記長
Jacque VOISIN
Jacky DINTINGER
ETUC
WCL
CFE-CGC
(フランス幹部職総同盟)
結成1944年
組合員数14万人
(2002年末)
職業別組織数50
委員長
書記長
Jean-Luc CAZETTES
Jean-Louis WALTER
CEC
(Confederation Europeenne des Cadres)

資料出所:各組織HP。ただし、*印については、HPで公表していないため、『世界の労働組合』p286の表より転記


参考

  1. 堀田芳朗 編著『世界の労働組合歴史と組織 』日本労働研究機構、2003年
  2. 松村文人「フランスにおける労使関係と労働組合の変化」大原社会問題研究所雑誌No.549、2004.8
  3. 松村文人著『現代フランスの労使関係』ミネルヴァ書房、2000年

2004年12月 フォーカス: 労働運動の現状

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