最低賃金を2027年1月に1%引き上げ、月額212ドルに

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  • 国別労働トピック:2026年10月

衣料・履物等製造業の工場労働者を対象とする法定最低賃金の2027年の引き上げ額がこのほど決定した。現行の月額210米ドル(以下、ドルは全て米ドル)(注1)から2ドル引き上げて212ドルとすることになった(注2)。物価高騰を受けて、2026年4月から手当の上乗せを実施していることもあり、前回の2026年1月の低調な引き上げ額と同様に低い上げ幅となった。

評議会での据え置きの決定に首相が2ドル上乗せ

カンボジアでは主要産業である繊維、衣料、履物、旅行用品、バッグ部門の工場労働者を対象とする法定最低賃金が定められている。労働・職業訓練省の統計数値によると、法定最低賃金が対象とするこれらの業種では1,800以上の工場や事業所で、約110万人の労働者が雇用されており、その大多数は女性である(注3)。法定最賃改定は、毎年、8月から9月にかけて、翌年1月1日から適用される最賃額を政労使三者の代表51人からなる全国最低賃金評議会(National Council for Minimum Wage:NCMW)で審議され、その結果が労働・職業訓練大臣に答申される。

1997年に最低賃金制度が創設された当初は、最賃額が3~7年に1回引き上げられたが、2013年からは毎年引き上げられるようになった。それ以降2015年にかけて毎年30%前後の急激な引き上げとなったが、2016年に評議会の前身である労働諮問委員会(Labour Advisory Committee:LAC)で客観的基準(注4)が採用されて以降、引き上げ幅が安定し、10%前後の引き上げがコロナ禍前まで続いた(図表1参照)。

2015年の改定から評議会の答申による改定額に、首相が政治的な判断で上乗せするのが恒例となっている。2015年から2018年までは5ドル上乗せされた。2019年は評議会の9ドル引き上げ案に対して3ドル、2020年は5ドル引き上げ案に対して3ドルがそれぞれ上乗せされた。コロナ禍の2021年、2022年には、評議会が据え置き案を提出したのに対して、首相の判断で2ドル引き上げられた。このように首相による上乗せ額は年々抑制される傾向が見られる。

2027年の最賃改定額について、9月1日から17回にわたる議論を経て、評議会は9月30日、2027年の法定最賃額を月額210ドルに据え置くべきだとする答申を政府に示した。この答申額を踏まえて、フン・マネット首相は、2ドルを上乗せし、月額212ドルに引き上げる決定をした。2027年1月1日から適用される。1997年から2027年までの最賃引き上げの推移を示したのが図表1である。

首相はまた、評議会の決定に対し、2026年から支給されている通勤・居住手当の月額2.50ドルの暫定支給(後述)についても、引き続き支給するように決定した。このため、2026年1月改定の法定最賃額と比較して実質的には4.50ドル増加することを意味する(注5)。

図表1:最賃額と引上げ率の推移(1997年~2027年)
画像:図表1

出所:政府発表資料(The Secretariat of LabourAdvisory Committee (LAC) (2016) Minimum Wage Settingin Cambodia,)等より作成。

首相による上乗せはフン・セン前首相の時代から恒例となっている。評議会が決定した引き上げ額と、首相による上乗せ額の推移を示したのが図表2である。

図表2:評議会による引上げ額と首相による上乗せ額の推移(2015年~2027年)
画像:図表2

出所:政府発表資料等より作成。

法定の各種手当の支給

なお、カンボジアのこれらの職種では、法定最賃以外に諸手当の支払いが義務づけられている。勤続年数に応じて支給される手当は、勤続2年目の従業員に月額2ドルの支給から11年目には11ドル支給される手当である。そのほか、通勤・居住手当として、月額7ドル、皆勤手当として月額10ドル、残業した労働者に対する1日当たり0.5米ドル(2,000リエル)の食事手当(または1日1食無料食事提供)が支給される。

通勤・居住手当は、2026年4月から上乗せ支給されている(注6)。世界的な燃料価格の高騰による労働者の経済的負担を軽減する措置の必要性を審議するため、評議会の緊急会合が2026年3月20日に開催された。審議の結果、2026年4月から時限的な措置として、通勤・居住手当を現行の月額7ドルに2.50ドル上乗せ支給することが決まった。

今回の2027年の最賃額決定に際して、フン・マネット首相は、通勤・居住手当のための月額2.50ドルの暫定手当を2027年中も支給することも決定した(注7)。

評議会での審議の経緯

改定案の決定に至るまでの評議会での審議過程を見ると、9月11日に、7つの労働組合(独立労働組合連盟(Independent Trade Union Federation)、カンボジア青年力組合連盟(Cambodian Youth Power Union Federation)、カンボジア独立労働組合連盟(Cambodia Independent Trade Union Federation)、労働影響力組合連盟(Federation of Labour Influence Union)、労働者の心組合連盟(Workers’ Heart Union Federation)、独立労働者組合連盟(Independent Workers Union Federation and Cambodia)、カンボジア観光労働者組合連盟(Tourism Workers’ Union Federation))が、「既存の通勤・居住手当を8ドル増額する」ことを、評議会における審議の議題に含めるよう要請した(注8)。労働組合側は、市場価格、特に燃料費と輸送費が大きな負担になっている中で、現行の7ドルの手当では、労働者の実際の支出を賄えないと述べた。

また、労働組合側は、通勤・居住手当を8ドル追加支給すれば、手当の合計は月額15ドルとなり、労働者の経済的負担を軽減するための妥当な最低額だと主張した。労働組合の見解では、実際の労働者は交通費に平均して月額15ドルから25ドルを費やしているとする。また、燃料価格の高騰により、輸送コストが30%から50%増加したと指摘している。手当を15ドルに引き上げることで、実際の費用との差を縮め、通勤の一層の負担軽減を支援できるだろうと強調した。

9月14日に開催された評議会の第8回会合で、労働組合側代表は2つの異なる賃上げ額を提案した。大多数の代表は月額15.30ドルの賃上げを提案したが、一部は月額40.60ドルの賃上げを求めた(注9)。一方、雇用主側の代表は、物価高騰の負担軽減のための月額2.50ドルの追加手当を既に支給していることを踏まえて、210ドルに据え置く提案をした。

9月30日に行われた評議会における最終の三者協議でも、雇用主側は月額210ドルに据え置くことを提案した。一方、労働組合側は15ドル増額して225ドルにすることを求めた。審議による額の決定には至らず、評議会は最低賃金法第12条に基づき秘密投票を実施した。その結果、210ドル案が51票中47票を獲得し、225ドル案が3票、無効票が1票となった。評議会は政府に対する答申を210ドルに据え置く決定をした。これに首相が上述のように2ドルを上乗せし、2027年1月からの最賃を月額212ドルとすることが決まった。

政労使で分かれる評価

政府と雇用主は、今回の決定は生活費と競争力のバランスを取るものだと主張する一方、労働組合の代表者は、家計支出の増加を考えると、賃上げは不十分だと批判している(注10)。

ヘン・スアー労働・職業訓練大臣は、政府は労働者の生活費負担の軽減、労働安全衛生の強化、物流現場における安全性の向上、雇用機会の維持に関して検討する必要があるとした上で、最低賃金の決定プロセスは、生活費、国際競争力、労働市場の状況という3つの重要な要素のバランスを取る必要があることを強調した。また、評議会における三者の全メンバーが労働者の負担軽減という目標を共有しているものの、その実現方法については意見が分かれていると明かした。

評議会の最終会合で、労働組合側代表は、日々の生活費の削減、労働安全衛生の強化、輸送の安全性の向上、農業生産の効率化のための追加措置を提案した。

カンボジア労働組合連合のヤン・ソポーン会長は、引き上げ額は生活費の上昇に対応するには不十分であり、2027年の最低賃金を設定する最終決定に失望を表明した。インフレや住宅費・光熱費の上昇が労働者への継続的な圧力となっているため、少なくとも月額250ドルから300ドル必要であり、月額2ドルの増額は極めて不十分だと指摘している。

また、ソポーン会長は、スアー大臣が指摘している「国際競争力」について言及し、海外からの投資は労働コストの低い国へと流れるため、賃金の上昇が海外投資に悪影響を与えるという懸念をベトナムを例に挙げて否定した。同会長は、ベトナムの賃金水準はカンボジアとほぼ同程度であるが、雇用主はカンボジアより多額の社会保障費を負担すると指摘した上で、カンボジアの労働力と生産能力は投資家にとって依然として重要な要素であり、賃金水準は投資判断に影響を与える数多の要因の一つに過ぎないと主張した。

こういった労働組合側の主張に対して、カンボジア雇用者・企業協会連盟のナン・ソティ副会長は最終会合後に、雇用を守り、企業の安定を維持するために、賃金設定においてはあらゆる要素を考慮に入れるべきだと訴えた。なお、雇用主代表は、生地生産、染色、印刷などの繊維産業の上流および中流部門を支援するため、税制優遇措置や電気・水道料金の特別料金設定を求めた。こうした措置は繊維、衣料品、履物、旅行用品、バッグなどの分野の競争力を強化するのに役立つだろうとしている。

注

(ウェブサイト最終閲覧日:2026年10月22日)

参考レート

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