地域間の雇用機会や所得格差は大きく、雇用政策で地方支援を
―OECD 雇用見通し2026
経済協力開発機構(OECD)は7月、「雇用見通し2026:雇用と所得の地理的格差(Employment Outlook 2026: Geographic Disparities in Jobs and Incomes )」と題する報告書を公表した。OECD加盟国の半数以上で、地域間の雇用率に20ポイント以上の差がみられるなど、国内でも地域によって雇用、失業、可処分所得に格差が生じている。こうした格差が拡大すれば、各国内で不満が高まり社会的な結束を脅かしかねない。報告書は、高齢化や人口減少等の課題を抱える地方を支援し、人々が居住地にかかわらず良い仕事に就け、収入を増やせるための幅広い地域雇用政策が必要だとしている。
労働市場は依然として強靭も、わずかに弱含みの兆し
報告書はOECD全体の労働市場について、依然として力強く、雇用は過去最高水準にあり、今年と来年も成長が続くと予測する。だが、わずかながら労働市場が弱体化する兆候もみられると分析する。
OECDの雇用は、2026年は0.3%、2027年は0.6%の成長を予想する。平均失業率は、ここ数年にわたり5.0%以下を維持してきたが、2026年5月は4.9%となり、2027年までこの低水準付近で推移すると予測している。しかし、失業率のわずかな上昇や雇用率の横ばい、労働市場の緩和傾向など、労働市場が弱まる兆候も見られると指摘。さらに、OECD加盟国の約3分の1では実質賃金が5年前の水準を下回っており、紛争危機や高い関税、エネルギーショックによるインフレで、賃金の回復は鈍化するとみている。
図表1:OECD各国の失業率(15歳以上、%)

注:●:2025年5月(またはその直近) ■:2026年5月もしくは最新値
出所:OECD(2026)
依然として大きい雇用率の地域格差
今年の報告書は、雇用における地理の重要性に着目して、それぞれの国内の地域間格差を分析している(注1)。それによると、同じ国内でも地域によって就労機会や賃金上昇の可能性に格差があり、雇用や失業、可処分所得などの労働市場に大きな影響を与えている。
人々の就労機会は、居住地域によって大きく異なる。 OECD加盟国の半数以上で、地域間の雇用率に最大20ポイント以上の格差がみられた。なお、日本は9.4ポイント差となっている(図表2)。
図表2:地域別の雇用率の最大格差(2024年または入手可能な最新年の値)

注:●最も雇用率が高い地域 ●最も雇用率が低い地域
出所:OECD(2026)より
失業率についても同様に格差は大きい。失業率が最も高い20%の地域の失業率は、最も低い20%の地域に比べ、失業率が2倍以上高く、ベルギー、カナダ、イタリア、スロバキアでは4倍を超えている。
ただし、雇用率の地域格差は、長期的にみると縮小している。2010年代初頭以降、ほとんどの国の雇用率は、低かった地域で上昇している。とくにスロベニア、チェコ、エストニア、アイルランド、スロバキア、コスタリカでは地域間の雇用率格差は約50%縮小し、他の多くの国々でも縮まっている。利用可能なデータがある29カ国のうち、格差が拡大したのは8カ国のみだった。
地域間格差の半数以上は経済成果の差による
報告書は、こうした雇用格差は、地域に住む人々の属性だけではなく、地域が提供する機会の大きさが影響していると指摘する。
分析によると、年齢や性別、教育水準、世帯構成など、地域の人口構成の違いは雇用率格差の3分の1から半分を説明するにすぎない。そして、「雇用格差の主な要因は、地域経済のパフォーマンスの差によるもの」だとしている。
また、高付加価値の雇用は、ごく少数の大都市圏、特に首都圏に極端に集中していると指摘する。労働者は低雇用地域から高雇用地域に移動しているが、両地域の距離は離れており、そのペースは遅く、住居や教育の問題など移動障壁は高い。また、高雇用地域に移動する者は、一般に雇用される可能性の高い特性を持つ傾向にあり、移動によってさらに地域間格差が拡大する可能性がある。労働移動のみによってギャップを埋めることは現実的ではなく、現在住んでいる地域で良質な雇用機会を拡大する取り組みと合わせることが重要だとしている。
遅れをとる地域の労働者は複合的に不利な状況へ
低所得地域の人々は、高所得地域に比べ、長期的に賃金が上昇する可能性が低く、より長く所得の低い状況が続くという、複合的に不利な状況に陥りやすい。本人の年齢や教育といった特性ではなく、地域の限定された経済・労働市場が所得上昇の機会を減少させ、生涯を通じて生活水準が低い状況にとどまる。報告書は、裕福な地域から取り残されたと感じる人々は、コミュニティで不満を高め、社会の結束にも悪影響を及ぼす可能性がある、と指摘する。
構造変化が地域労働市場に与える影響
また、報告書は、低賃金国からの輸入やデジタル技術のイノベーションによる構造変化が地域労働市場に与える影響についても分析している。それによると、貿易の変化や新技術の開発といったショックは、その地域のもともとの産業構造や労働力構成に応じて、まったく異なる多大な影響を与えていると示唆している。地域雇用はおおむね変化にレジリエント(耐久力のある)な傾向にあるが、ショックの影響を最も強く受ける地域では、職を失った労働者は、多大かつ長期にわたる社会的コスト(長引く失業、難航する再就職、収入減少など)を強いられていると問題視する。
報告書によると、こうした社会的コストは一般に想定されるよりも大きく、持続期間が長く、かつ特定の地域に集中したものとなる。悪影響を受けた労働者への調整支援や補償が不十分なケースも多いとし、「構造的変化に伴う社会的コストに対して、より注意を払わなければならない」としている。
「雇用・社会政策」と「産業政策」の連携を
報告書は、上述した地域間のギャップを埋めるためには、各国が地域を視野に入れた雇用・社会政策と産業政策の調整を行い、経済の活力を高め、遅れをとる地域の労働市場を強化することが必要だとする。
居住地にかかわらず人々が労働市場や経済的な機会にアクセスできるよう、地域に基づく政策の重要性を強調する。より広範な地域政策の連携により、人々の技能と雇用能力の向上、生産性と賃金の引き上げ、十分な社会保障と効果的な再分配の確保を目指す。
具体的には、労働者と企業の地理的な不一致を減少させるため、地域の需要と労働・技能の供給をマッチングする。地域のインフラやサービスを改善する。産業の多角化、教育・インフラへの投資、将来的なスキル需要を予測し変化に備える。地域の脆弱性を補完し、離職した労働者への支援を手厚くするとともに社会的コストを軽減することなどをあげている。
図表3:地域政策の枠組み

出所:OECD(2026)より
人々を仕事に移し、仕事を人々に移す
産業間や地域間の労働移動には、これまでとは異なるスキルが求められることや、地域社会への愛着などから移動への意欲が低いという課題がある。
OECD雇用・労働・社会問題局長代理のマーク・ピアソン氏は、「根強い雇用の地域間格差を解消するため、各国の政策は雇用機会の多い地域や分野への転職を支援する移動・転職支援の政策に重きを置きがちだが、こうした市場主導の労働者の仕分けは、苦しむ地域をさらに悪循環に引きずり込む恐れがある」と指摘する。そして、地域労働市場の状況に応じて、よりターゲットを絞った地域ベースのプログラムを実施する方がより良い効果を示しているとし、「二つの異なるアプローチ、すなわち、人々を仕事のある場所へ移動させるとともに、仕事を人々の住む場所へ移すことが求められる。具体的には、人々が暮らす地域で必要なスキルを身につけられるよう支援したり、地域の仕事と人々を結びつける雇用サービスを提供したりすることが重要である」としている。
注
- OECDのTerritorial Level 3 (TL3)という基準に基づき、各国をいくつかの地域別に区分(例えばカナダは国勢調査区域、フランスは県など)したうえで、それぞれの数値を算出している。(本文へ)
参考文献
2026年8月 OECDの記事一覧
- 農業所得は今後10年で9%増を予測、高齢化や新規参入に課題 ―OECD・FAO報告書
- 地域間の雇用機会や所得格差は大きく、雇用政策で地方支援を ―OECD 雇用見通し2026
関連情報
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