ギグワーカーを「保護」する州法の成立状況

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  • 国別労働トピック:2026年4月

インドではギグエコノミーが急成長しているが、プラットフォーム企業を介して就労する者に対する保護が十分ではないため法整備の必要性が指摘されている。中央政府は連邦法として2020年社会保障法典を成立させ、ギグワーカーやプラットフォームワーカーなど、非組織労働者(unorganised workers)を社会保障の適用対象とする規定が盛り込まれた。だが、保護対象の規定や保護内容が不十分だとの指摘がある上に、2025年11月に施行の告示がされてはいるが、連邦法の施行に必要となる施行規則や州法が施行されておらず、法律の運用の開始には至っていない(注1)。一方、2023年以降、連邦法に並行するかたちで、5つの州政府において、こうした労働者を保護する法律が成立している。直近では、テランガーナ州では2026年3月に「プラットフォームベース・ギグワーカー(登録、社会保障および福祉)法」が成立した。主な州での法律制定の状況を紹介する。

連邦の2020年社会保障法典による「保護」

インドでは連邦労働法の大掛かりな改革が進められている。29もの労働関係の個別法を4つの労働法典に改編する大きな改革である。その一つである2020年社会保障法典には、ギグワーカー、プラットフォームワーカー、非組織労働者を労働関係法制の適用対象とする条項が盛り込まれている。ただし、インドにおいて労働分野の行政は、中央政府と州政府の共管となっているため、連邦法の改正が施行されるためには州政府による実施規則の制定が必要である。2025年11月に中央政府は4つの労働関係の法典の施行を告示したが、各州の実施規則が定められておらず、運用の開始に至っていない(注2)

中央政府の法改正が遅々として進まないなか、州レベルでの法整備が並行する形で行われている。2023年5月にラジャスタン州、2025年5月にはカルナータカ州において、ギグワーカー福祉委員会や苦情処理窓口の設置を定める法律が成立した。また、2025年8月にはビハール州、ジャールカンド州でも同様の内容が法制化された。中でもカルナータカ州やビハール州では先行して運用されている。

州法で明確な社会保障の枠組みと法的保護を提供

直近では、2026年3月にテランガーナ州において「テランガーナ州プラットフォームベース・ギグワーカー(登録、社会保障および福祉)法案2026」(The Telangana Platform Based Gig Workers (Registration, Social Security and Welfare) Bill, 2026)が成立した(注3)。これにより、テランガーナ州は、プラットフォームワーカーに対して明確な社会保障の枠組みと法的保護を与えることを目的とする州法を制定した5番目の州となった。

この法律は、2023年から2025年にかけて、カルナータカ州、ラジャスタン州、ジャールカンド州、ビハール州の4つの州で成立した法律と類似した規定内容となっている。例えば、ギグワーカーの登録が義務化され、それぞれ固有のIDが付与される。プラットフォーム企業は定期的に詳細な情報を州政府当局に提出する義務があり、顧客が行った取引の電子申告を3カ月ごとに提出する必要がある。州政府はこれらの取引に対して1~2%の手数料を徴収する。違反者に対して、初回違反は5万ルピー、2回目は10万ルピー、3回目は15万ルピー、それ以降は未払い額の最大5倍の罰金が科される。州政府が徴収した手数料は、創設された基金に積み立てられ、ギグワーカーのための特別福祉委員会の運営に活用される。この委員会によって、傷害保険、老齢保障、出産給付が提供される。基金の最大5%は委員会の運営費に充当できる。この法律によって、州内の40万人以上の配達員、タクシー運転手、その他のプラットフォームワーカーに恩恵をもたらすと見込まれている。

既述のとおり5つの州において成立した法律のうち先行して運用されているのは、カルナータカ州とジャールカンド州のみである。他の州は交渉や協議で施行に向けた手続きが停滞している(注4)。州法として初めてギグワーカーの保護を規定したラジャスタン州では、同法成立直後の2023年12月の州政権交代によって施行手続きが進まなくなった。他の州でも、法律が成立しても施行令が発効されず、実際の運用には至っていないケースがほとんどであり、保護内容の不備とともに、法改正の実効性の問題が指摘されている。

苦情処理手続きやアルゴリズム規制で各州法に特徴

5つの州法の規定に共通する内容として「ギグワーカーの登録の義務化」「福祉委員会の設立」「福祉手数料の徴収」「基金の創設と傷害保険、老齢保障、出産給付等の社会保障の給付」などが挙げられる。

カルナータカ州法とラジャスタン州法の法律と比べて、ビハール州法は踏み込んだ保護を規定する内容となっている(注5)。カルナータカ州法とラジャスタン州法は、最低限の福祉の権利を保障するにとどまり、福祉制度の設計は州政府が規則を通じて発展させることに委ねている。しかも、ラジャスタン州は法律の成立から2年が経過しても規則は全く施行されておらず、事実上、棚上げ状態となっている。カルナータカ州では、法律は制定されたものの、協議のために公表された規則案には、労働者の福祉に関する権利が十分に明記されていない。また、両州とも、社会保障に関する労働者の権利に関する明確な法的規定がない。それに対して、ビハール州法は労働者に対し、事故補償と出産給付に関する法定権利を直接的に付与していることが特筆すべき点である。また、ビハール州法には即時法的拘束力のある権利が盛り込まれている。

また、苦情処理の手続きやアルゴリズム規制を盛り込んだという点で、カルナータカ州(注6)、ビハール州(注7)、ジャールカンド州(注8)の州法には特徴がある。カルナータカ州法は、労働者に対し、運賃や収入を含む労働条件にアルゴリズムがどのように影響するかについての情報にアクセスする権利を与えるにとどまっている。これに対し、ジャールカンド州法は、プラットフォーム企業にその利用状況の透明性を確保すること、アルゴリズムによる差別に対する保護措置を設けることを義務付けている(注9)。一方、ビハール州法は、労働者に情報入手権だけでなく、生活に影響を与えるアルゴリズムによる決定の見直しを求める権利も与えており、労働者がアルゴリズムによる決定に異議を唱え、効果的な救済措置を得る手段を持つと規定されている(注10)。さらに、プラットフォーム企業に対し、人間の監視下で迅速な解決を保証する苦情処理メカニズムを確立することを義務付けているという点で、他の州よりも踏み込んだ内容になっている。

カルナータカ州ではプラットフォーム企業に「福祉手数料」を徴収

カルナータカ州では2025年8月に州法が成立したが、福祉手数料の金額の決定手続きにおいて、カルナータカ州ギグワーカー福祉委員会の設立が遅れたため、手数料額の通知が出されたのは、同法の成立から6カ月後となった。

2026年2月13日、州法に基づいて、福祉手数料の額がプラットフォーム企業に対して通知された(注11)。これはインドで初めてのプラットフォーム企業に対する課税であり、Swiggy、Zomato、Ola、Uberなどのプラットフォームで働く配達パートナーやドライバーの社会保障資金に充てることを目的としている。

手数料は1件の取引当たり1.5ルピーを上限とする。徴収された手数料は、州内のギグワーカーに様々な福祉サービスを提供するために設立されたギグワーカー福祉基金に拠出される。同法では、プラットフォーム企業の課税対象額の1~5%の範囲で手数料の支払い義務を規定している。配車サービスの場合、料金は二輪車で0.50ルピー、三輪車で0.75ルピー、四輪車で1ルピーに上限が設定されている。例えば、タクシー料金が400ルピーまたは1,000ルピーの場合、福祉手数料として支払われるのはわずか1ルピーとなる。同様に、二輪車を使用した食品・食料品配達サービス、物流サービス、電子商取引サービスについては、上限が0.50ルピーとなる。物流サービスおよび電子商取引サービスで使用される小型商用車については、上限が1ルピーとなる。物流サービスで使用される大型商用車については、上限が1.50ルピーに設定されている。

法整備の方向性に関する懸念材料

連邦の2020年社会保障法典はギグワーカーとプラットフォームワーカーの法的な規定を導入し、非組織労働者と同様に彼らに社会保障を提供することを目指している。これは、プラットフォームワーカーの社会保障を扱った南アジア初の法律である(注12)。しかし、社会保障法典の下でプラットフォームワーカーに提供される保護は、同じ法律の下で正規部門と非正規部門に提供されるものと比べて大幅に不十分である。

連邦法や幾つかの州法で整備されはじめているギグワーカーの法的保護に関する規制は、新自由主義イデオロギーに基づき、外国投資を誘致するための手段として改革が進められている。ギグワーカーを労働法が規定する労働者(workman)として保護するのではなく、非組織労働者(unorganized worker)と類似する枠組みを作り出して保護するかたちをとっている(注13)。独立自営の就労者として位置づけ、誤分類の解消を回避した上で、社会保障の保護が受けられるようにする方向性で法改正が進んでいる点が懸念材料との指摘もある(注14)

社会保障法典の規定上の問題として指摘されるのは、まず、「プラットフォーム」と「ギグワーク」の両者の定義と区別の複雑性により、両者のカテゴリー区分が「雇用主と従業員の関係」の外に置かれていることである(注15)。次に、「非正規部門」「ギグワーカー」「プラットフォームワーカー」に関連する規定が差別化されており、結果として不平等な社会保障の規定となっているため、プラットフォームワーカーが最も低水準の支援を受ける規定となっている。さらに、プラットフォーム企業の拠出金の上限が年間売上高の2%に設定されており、従業員積立基金の下での正規部門の「workman」と比較して拠出金が極めて少ない。

州法についても懸念材料がある。ビハール州法は苦情処理やアルゴリズム規制で踏み込んだ規定を盛り込んだが、福祉給付金の財源確保の枠組みが脆弱で、現状では政府による「福祉手数料」の徴収は労働者の報酬の1~2%に限られている(注16)。一般的な例として、1日8時間以上、月26日間以上勤務した配達就労者が受け取る平均は月額28,000ルピーである。このような就労者に対して1%の手数料を課しても、月額わずか280ルピーしか徴収されない。一方、月収28,000ルピーの縫製労働者の雇用主が従業員国家保険(ESI)と従業員積立基金(EPF)を通じて毎月拠出する額は約4,200ルピーであるため、一般労働者と比べて著しく低い徴収額となっている。また、ビハール州法は、就労者が同法に基づいて団体を結成することを明確に禁止しており、大きな懸念材料だと言える。同州では、社会保障、積立基金、出産給付金に関する交渉があまり進展せず、実施が停滞している。こうしたことから2026年初め、ギグワーカーによる抗議活動が行われている(注17)

(ウェブサイト最終閲覧日:2026年4月24日)

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