中国、「第六の柱」
 ―全国長期介護保険制度を開始

カテゴリー:勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2026年4月

中国は10年にわたる地方での試行を経て、長期介護保険制度の全国展開に正式に踏み出した。同制度は社会保障制度の「第六の柱(保険)」として位置づけられ、急速に進む高齢化の中で家庭における介護負担の軽減を図る狙いがある。また、シルバーエコノミーの発展を支える重要な基盤として、介護サービス市場の拡大を促進し、雇用の創出にも寄与すると期待されている。中国の社会保険制度は、現在、「基本養老保険、医療保険、工傷保険(労災保険)、失業保険、生育保険」の五つの保険で構成されており、これに住宅積立金(いわゆる「一金」)を加えて、「五険一金」と呼ばれている。今回、「長期介護保険」が加わることで、「第六の柱」と位置づけられるとされる。

試行10年の成果と課題

高齢化の進行が加速しているなか、要介護者(失能者)の規模も拡大しつつある。国家医療保険局の発表によると、2025年末時点で、60歳以上の人口は3億2千万人に達し、総人口の23%を占めた。うち、要介護者(失能者)は約4500万人と推計されている。

これに対応して、中国では2016年から長期介護保険の試行制度を実施してきた。2025年までに試行地域は15地域から92地域へと拡大し、保険加入者数は3億800万人に達した。さらに、330万人以上の要介護者(失能者)をカバーし、累計で1000億元(約2兆円)を超える介護費用の軽減効果があった(注1)

このように長期介護保険制度の試行は進展しているものの、財源調達、介護評価と給付の仕組み、サービスの品質などに関する課題は依然として残っている。

制度の設計

2026年3月25日に中国共産党中央委員会弁公庁および国務院弁公庁が共同で「長期介護保険制度の構築加速に関する意見」(注2)を発表し、全国的な制度導入の方針を正式に打ち出した。今後3年で就業状況を問わず全国民を対象とする統一制度の構築を目指すとしている。

同制度の重要な原則として「一体化」が掲げられており、加入対象は在職者、未就職者、退職者を問わず、全国民とされる。また、都市出身であれ農村出身であれ、同一の基金から同等の給付を受ける仕組みとされている。

財源調達(表1)については、既定のルールに基づき、企業、個人、政府補助によって賄われ、保険料率はおおむね0.3%に設定される。また、就業者の個人医療保険口座を活用して、直系家族の保険料を支払うことも可能となる。

表1:財源調達対象
区分 対象者 財源・負担構造 保険料率 保険料基数 特記事項
①企業等の従業員 在職者 共同負担(企業+本人) 約0.3%(企業0.15%、個人0.15%) 企業:賃金総額
個人:本人賃金
・医療保険と一体徴収
・医療保険基金に余裕がある場合は一部転用可
・医療保険の個人口座の資金は、家族・近親者の保険料の支払いにも使用可能
② 未就業の都市・農村住民 農民・無職の都市住民 個人+政府補助 初期0.15% → 約5年で0.3%へ 地域の前年可処分所得 ・政府補助は中央+地方で負担
・農村は農村部平均可処分所得を基準に算定可
③ 退職者 年金受給者 本人のみ負担(企業負担なし) 約0.15% 基本年金額 ・医療保険個人口座からの控除可
・年金から天引きも可
④ フレキシブル フレキシブルワーカー等 本人負担 約0.3% 平均賃金の一定割合(60%以上) ・住民保険方式を選択することも可能
⑤ 困難者 低所得者等 政府補助 ・特別困難者は全額補助
・低所得者は定額補助
⑥18歳未満 子ども 独立徴収なし ・保護者に従属して加入
・孤児等はみなし加入

出所:政府発表等に基づき筆者作成。

この保険制度は、長期介護保険に加入した通常6カ月以上継続する失能状態にある人々を対象に、日常生活の介護および医療的ケアに関するサービスと資金支援を提供することを目的としている。導入当初は重度の要介護者(失能者)を対象とし、その後段階的に対象を拡大する予定である。

給付基準は国の基準をもとに、各地域が実情に応じ設定する。自己負担の最低基準を設けずに給付を受けられる仕組みである。給付割合は、未就業の都市・農村住民は介護費用の50%、従業員と退職者の場合は70%、フレキシブルワーカーは加入方式に応じて適用される。年間給付上限は前年度の地域平均可処分所得の50%以内とされる。

給付方法は、要介護者(失能者)本人に現金で直接支給するのではなく、長期介護サービスを提供する機関や従事者に対し、発生した介護サービス費用を直接支払う仕組みとなっている。国家が統一的に定めた介護サービス項目(注3)に基づき運用し、サービス範囲を恣意的に変更することは認められていない。試行地域における制度運用は、おおむね3年以内に全国基準へ統一される予定である。

また、給付項目は明確に区分されている。食費や施設ベッド代などの非介護費用および医療保険でカバーされる医療費は支払対象外とされている。重複給付を回避するため、労災保険の介護給付との併用は認められていない。高齢者・障害者向け補助制度との調整も図られている。

サービス提供方式については、施設介護・在宅介護・地域(コミュニティ)介護など多様なケア形態を支援しつつ、在宅および地域ケアの利用を促進するため、給付割合において一定の優遇措置が講じられる。

さらに、インセンティブ・制約メカニズムも導入され、納付期間と給付水準を連動させることで継続加入者を優遇する一方、未加入・中断者には待機期間(原則6か月)や給付制限を設けるなどの措置が取られる。

関連効果への期待

この制度は関連産業の発展にも影響するとされ、新たなビジネス形態やモデルを生み出す可能性がある。具体的には、福祉機器の開発・リース、要介護度評価サービスの提供、民間企業の制度運営への参入などが挙げられる。また、雇用創出効果も期待されている。2016年の試行開始以降、関連分野には600億元(約1兆2,000億円)を超える民間資本が流入しているという(注4)

本制度は、中国での人口構造の変化への対応と、全国的な社会保障制度の整備を推進上での重要な施策の一つとして位置づけられている。

参考文献

  • 中国政府網、国家医療保障局、人民網、中国新聞網、新華網

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