プラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令が成立

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  • 国別労働トピック:2024年11月

プラットフォーム労働における労働条件の改善に関するEU指令が、10月に成立した。従事者の労働の実態に合わせて、正しい雇用上の地位を認めることで、権利の保障を目指すほか、アルゴリズム管理に関する公正性や透明性などの確保や、プラットフォームに対する各種の義務等が盛り込まれている。

従事者に雇用関係を推定、基準は各国が定義

指令(注1)は、プラットフォーム労働における労働条件の改善および従事者の個人情報の保護を目的に掲げ、その手段として、従事者の正しい雇用上の地位の決定の促進、アルゴリズム管理の透明性・公正性や人による監視等の促進、プラットフォーム労働の透明性の向上を挙げている(第1条)。事業者の所在地を問わず、EU域内で行われるプラットフォーム労働を組織する「デジタル労働プラットフォーム」(以下、「プラットフォーム」)(注2)を適用範囲として、その従事者に関する保護を提供するものだ。

指令は、従事者のうち、プラットフォームとの間で雇用契約または雇用関係がある(またはあるとみなされる)者を「プラットフォーム労働者」として区別しており、一部の条文はプラットフォーム労働者のみを対象としている(第2条)(注3)

プラットフォームが、従事者の労働について指揮命令と管理(direction and control)を行っていることを示す事実が確認された場合、プラットフォームと従事者の契約関係には雇用関係が推定され(第5条)、EU法や各国法による労働者としての権利保障の対象となる。プラットフォームがこれを否定する場合、プラットフォーム側に反証責任が課される。ただし、指令は推定に関する具体的な基準を示しておらず(注4)、加盟国は、欧州司法裁判所による関連の判例も考慮の上、法律、労働協約または慣行の定義に沿った雇用関係の有無を判定する基準や、正しい決定のための適切かつ効果的な手続きを設置しなければならない。法的推定は、従事者の正しい雇用上の地位が問題となる全ての関連する行政・司法手続きに適用される。税、犯罪、社会保障にかかわる手続きには適用されないが、各国法で適用を規定することができる。併せて、加盟国には法的推定の実施と順守の確保を目的に、プラットフォームや従事者、労使などに向けたガイダンスの作成や、効果的な監督体制などの構築が求められる(第6条)。

自動化された監視・意思決定システムに関する透明性

また、指令は従事者のアルゴリズムによる管理について、透明性や公正性を図る内容を盛り込んでいる。アルゴリズム管理により評価等が自動化されることによる従事者への影響に配慮するものだ。

プラットフォームには、自動化された監視または意思決定システムを用いた多岐にわたる個人情報の処理または収集が禁止されており、これには、従事者の感情・心理状態や、私的な会話、私的な時間に関する情報、人種や思想・信条、健康状態等、生体情報、また団結権や団体交渉・行動権などの行使の予想のための情報などが含まれる(第7条)。

また、プラットフォームは従事者や労働者の代表、求めがある場合は当局に対して、自動化された監視または意思決定システムの使用に関して、情報提供が義務付けられる(第9条)。これには、システムを使用しているか導入過程にあることや、監視システムにおいて監視、監督、評価の対象となる行動の種類や実施方法等、意思決定システムにより実行・補助される決定の種類、その際に考慮される内容や相対的な重要度、アカウントの制限・中断・停止あるいは報酬支払い拒否等の根拠、また実際に行われた従事者に影響を及ぼす決定またはその補助を含む。従事者・労働者の代表に対しては、労働条件などに直接の影響を及ぼすシステムとその機能について、就業初日までに(またはシステムの使用に先立って)情報提供を要するほか、労働条件や労働組織、パフォーマンスの監視に影響する変更がある場合はその前までに、その他請求に応じて随時の情報提供が義務付けられる(注5)(注6)。このほか、採用・選考過程にある者に使用されるシステムについては、採用・選考手続きの開始前に、同様の情報提供が求められる。

自動化された監視・意思決定システムには、人による監視が求められる(第10条)。プラットフォームは、自動化されたシステムが関連する決定の従事者への影響(労働条件や均等待遇を含む)について、労働者の代表の関与を得て、最低でも2年ごとに評価を実施しなければならず、また個別の決定の効果的な監視・評価に、必要な能力や訓練を受け、権限を有する人員を充てることが義務付けられる。担当者は、任務の遂行による解雇や懲戒その他の不利益な扱いから保護されなければならない。

従事者は、自動化された意思決定システムによる決定または補助された決定について、説明を取得する権利を有する(第11条)。プラットフォームは、従事者のアカウントの制限・中断・終了、報酬の支払い拒否、契約上の身分などに関する決定、また雇用その他の契約関係に実質的に影響する決定について、遅滞なく、決定の実施日までに理由を提供しなければならない。従事者やその代表者が内容を不服とする場合は、決定の見直しを要請することができる。また、決定が従事者の権利に反する場合、プラットフォームは2週間以内にこれを是正(不可能な場合は十分な損害補償)しなければならない。

併せて、プラットフォームには自動化された監視・意思決定システムの安全衛生面でのリスクやその対策の評価、また適切な予防・保護策の実施が義務付けられる(第12条)。また、システムを従事者に対する過度の圧力や、安全衛生や身体的・精神的衛生のリスクとなる仕方で使用することが禁じられる。

プラットフォーム労働の状況についての申告等の義務

プラットフォームは、プラットフォーム労働者による労働について、労働が行われた国の当局に、各国法に基づく申告をしなければならない(第16条)。また、従事者による労働に関しては、労働が行われた国の当局、並びに従事者の代表に、以下の情報を利用可能としなければならない:(a)プラットフォームを通じた従事者数(活動頻度、契約または雇用上の身分別)、(b)一般的な契約条件、(c)平均活動期間、従事者当たりの平均労働時間、平均収入、(d)契約関係にある仲介事業者-(第17条)。情報は、6カ月毎に(注7)更新を要する。このほか、当局に対しては、従事者の労働と雇用上の身分に関する情報を提供しなければならない。当局と従事者の代表は、プラットフォームに対して、雇用契約の詳細を含め提供された情報に関する追加の明確化と詳細の提供を要請することができる。

法的救済を受ける権利を保障、従事者のコミュニケーション手段の設置を義務付け

加盟国は、本指令に関する権利の侵害があった場合に、従事者が利用可能な紛争処理と権利の救済(被った損害の十分な補償を含む)を提供しなければならない(第18条)。また、従事者の代表あるいは従事者の権利を擁護する法人が、代理として支援のために活動することを認めなければならない(第19条)。加えて、従事者が他の従事者や代表者との間で連絡を行うことを可能とする手段を、プラットフォーム上あるいは他の効果的な手段によりプラットフォームが提供するよう、必要な施策を講じなければならない(第20条)。その際、プラットフォームが連絡やコミュニケーションを閲覧・監視しないよう義務付けなければならない。

また、従事者やその代表が、本指令の提供する権利の順守を目的とするプラットフォームに対する申し立てや訴訟・行政手続きの結果として、プラットフォームによる不利益な取り扱いや、その他の不利益な結果を被ることから保護されるよう、必要な施策を講じなければならない(第22条)。また、指令の規定する権利の行使を理由として、従事者の解雇や契約終了、または同等の行為あるいはその準備を行うことを禁止し、従事者が裁判所や当局等に対して、そうした行為が推定される事実を確立した場合、解雇等が異なる理由によるものであることの反証責任をプラットフォームに課さなければならない(注8)(第23条)。訴訟・行政手続きに際して、各国の裁判所や当局には、プラットフォームの管理する関連のエビデンス(機密情報を含む)の開示を命令する権限が付与されなければならない(第21条)。

個人情報保護に関連する規定(第7~11条)の違反については、一般情報保護規則(注9)が規定する罰金の上限(2000万ユーロまたは年間の収益の4%のうちいずれか高い額)が適用される(第24条)。個人情報保護に関する監督機関とその他の監督機関は、自動化されたシステムの従事者への影響が問題となった場合、所管の範囲で執行に協力(情報交換)をしなければならない。また、従事者がプラットフォーム事業者の所在する以外の加盟国で労働を行う場合も、各国当局は執行のために情報交換を行わなければならない。

このほか、指令に関連する各国法の規定に関する違反については、違反の性質や重大さ等に応じた罰則を設けなければならない。また、従事者の雇用上の地位の決定に関する判決の順守を拒否する場合については、罰金を含む罰則を設定しなければならない。

プラットフォーム労働における団体交渉の促進等

加盟国には、プラットフォーム労働における労使による団体交渉の奨励が求められるほか(第25条)、個人情報の処理に関連する一部の規定(安全衛生、情報提供・協議等)については、指令と異なる内容の労働協約の締結・実施等を認めている(第28条)。さらに、労使からの合同の要請があり、かつ加盟国が指令の実施に必要な施策を常に講じている場合には、指令の実施について労使に委任することができるとしている(第29条)。

加盟国は、指令の順守に必要な法律、規則、政令を2年以内に施行しなければならない。また、欧州委員会は指令の施行から5年以内に、各国やEUレベルのソーシャルパートナー、主要な利害関係者の意見を聴取、中小零細企業への影響も考慮の上、実施状況に関してレビューを行い、適切な場合は法改正を提案する(第30条)。

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