地方自治体主導の外国人季節労働者・地域特化型ビザ制度の導入状況

カテゴリー:外国人労働者

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2024年1月

ナラサルリム研究所(注1)は2023年8月、「地方自治体主導の外国人(移民)政策分析:季節労働者及び地域特化型政策を中心に」という報告書を発表した。

韓国では急速な少子高齢化が進行し、特に地方の農村、漁村は深刻な人手不足によって消滅の危機に直面しており、外国人労働力の受入れを拡大する傾向にある。

外国人政策のうち、季節性のある農業・漁業分野を対象に短期間外国人労働者を雇用できる「季節労働制度」及び「地域特化型ビザ」はいずれも、外国人政策の中で地方自治体が大きな権限を持つ。この報告書では、これらの地方自治体が主導する外国人政策の状況と問題点についてまとめている。

以下で主な内容を紹介する。

季節労働者の導入状況

韓国では、農業・漁業分野の雇用主が農繁期に短期間合法的に外国人を雇用できる制度として季節労働制が実施されている。この制度は2015年からモデル事業が行われ、2017年に全国的に導入された。この制度で就労する外国人季節労働者の在留資格は「季節勤労(E-8)」であり、1年のうち最長で8カ月(5カ月+延長3カ月)韓国の農業・漁業分野で就業することが可能である(注2)

季節労働制の大きな特徴は、地方自治体が外国人季節労働者の受入れを主導することである。韓国では地方自治体は2段階に分かれており、広域自治体(特別市1、広域市6、特別自治市1、道8、特別自治道1)の中に複数の基礎自治体(市、郡、自治区)が存在するが、季節勤労制では、市や郡といった基礎自治体が受入れにかかる作業全般を担う。地方自治体は受入れのほとんどの過程を担当しており、地域内の農家の季節労働者の需要の検討、雇用主の選抜、海外の自治体とのMOU締結、季節労働者の事前教育、出入国と在留管理等を行う。

この制度ではまず地方自治体がプログラムに申請し、法務部・行政安全部・農林部・海洋水産部等の関係部署が構成する審査協議会が自治体ごとの割当人数を決定する。その後、地方自治体は割当人数の範囲内で海外の自治体を通じて外国人労働者を募集する。

受入れ方法は地方自治体が送出し国の地方自治体とMOUを締結する方法、または結婚移民者の親戚を雇用する方法、一部の在留資格で国内在留中の外国人を雇用する方法、があるが、自治体間のMOU方式を用いる自治体が最も多い。

季節勤労制を導入する自治体は年々増加しており、2017年の24市・郡から2022年には114の自治体にまで増加した。農村・漁村の急激な人口の変化によって今後も参加する自治体は増加するとみられる。

図表1:外国人季節労働者割当及び運営自治体(市・郡)数
画像:図表1

注:2020年はコロナの影響で新規入国した外国人労働者は0人であり、季節労働者は国内登録外国人のみであった。

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

受入れ人数に伴って離脱者も増加

季節労働者の受入れ増加に伴い、勤務先から離脱する者も増加している。季節労働者の離脱は不法滞在者の増加につながり、人手不足に悩む農家が不法滞在者を雇用してしまうことも懸念される(注3)

2017年には季節労働者1,085人のうち離脱者は18人であったが、2022年には1万2,027人が入国し、そのうち約10%である1,151人が離脱した(図表2)。

図表2:外国人季節労働者離脱者数と離脱率 (単位:人、%)
画像:図表2

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

基礎自治体が運営主体となるため、受入れ状況は地域によって異なる。2017年から2022年までの間で、離脱者が多い5自治体(受入れ人数に対して離脱者の割合が高い)と、離脱者のいない上位5自治体(離脱者が0人の自治体のうち受入れ人数が多い順)を比較すると、図表3、4のとおりである。

図表3:離脱者数上位5地方自治体 (単位:人、%)
画像:図表3
画像クリックで拡大表示

注:2020年にはコロナの影響で新規入国した外国人労働者は0人であった。国内在留外国人の季節労働者が計24人勤務し、離脱者は0人であった。

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

図表4:離脱者が0人の地方自治体のうち受入れ人数上位5地方自治体 (単位:人、%)
画像:図表4
画像クリックで拡大表示

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

江原道に属する楊口郡や麟蹄郡等の地域では季節労働者の集団離脱が繰り返し起きており、さらなる分析や対策が必要である。

一方で離脱者が0の自治体の中には、比較的受入れ人数が多い自治体である忠北槐山郡、江原洪川郡なども含まれていた。槐山郡は住民の意見を聞いて外国人季節労働者の導入について政府に提案し、2015年のモデル事業を一番初めに実施した地域である。江原洪川郡は、担当の公務員の頻繁な農家への訪問や主体的なモニタリング体系の構築など、季節労働制度運営の模範事例として知られている。

広域市・道レベルで分けてみると、江原道は季節労働制度導入初期から運営規模が他の地域よりも大きく、離脱者数も多かった(図表5)。2022年の江原道での離脱者数は618人にのぼる。しかし江原道内でも離脱者数は郡によって大きな差があり、同じ広域内でも自治体ごとに季節労働者政策の効果が異なっているとみられる。

図表5:広域市・道別外国人季節労働者離脱者規模 (単位:人、%)
広域 自治体数 受入れ人数 離脱 離脱率(%)
江原道 15 3,132 618 19.7
京畿道 11 455 25 5.5
慶尚南道 10 669 38 5.7
慶尚北道 14 1,861 116 6.2
世宗特別自治市 1 17 0 0.0
全羅南道 17 1,641 79 4.8
全羅北道 13 1,052 314 29.8
済州特別自治道 2 134 0 0.0
忠清南道 12 1,481 37 2.5
忠清北道 9 1,060 31 2.9

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

外国人季節労働者政策では地方自治体の権限が大きいが、実際には市や郡といった基礎自治体では季節労働者を担当する職員が1人や2人の場合もあり、季節労働者に関する政策効果は地方自治体の置かれた状況、行政能力などによって異なっている。

また、政府は2023年1月から、自治体の代わりに農協が季節労働者受入れのための海外自治体とのMOU締結などの誘致や受入れを実施する、「公共型季節労働制度」のモデル事業を実施している。この政策の外国人労働者の離脱防止効果についても注目する必要がある。

地域特化型ビザの導入状況

韓国では2022年より地域特化型ビザのモデル事業が実施されている。この制度は地方の高齢化及び人口減少への対策として、人口減少地域に必要とされる職種の外国人人材の長期在留、定着を支援する目的で導入された。対象となる外国人に対して一定期間人口減少地域に居住することを条件に居住ビザ(F-2)を発給する。

モデル事業には広域地方自治体6カ所と基礎地方自治体4カ所が参加している(注4)。全羅北道と忠清北道では2023年7月に「地域優秀人材タイプ」の地域居住(F-2)をそれぞれ400人、170人規模で募集した。

地域特化型ビザの受給対象となる外国人は、専門人材、留学生、韓国系外国人(在外同胞)及び家族、である。韓国在留中の人数は韓国系外国人、留学生、専門人材の順に多い。

地域特化型ビザの申請方法は、自治体長からの推薦を受ける「地域優秀人材型」と韓国系外国人とその家族を対象とする「同胞家族型」の2種類がある。

地域優秀人材型は、地方自治体長の推薦を受けた外国人を対象に、地域居住(F-2)への在留資格の変更を許可し地域社会への定着を支援する方式である。これらのビザ取得条件は、法務部が定めた語学能力や居住などの基本的な条件に、自治体が必要人数、希望する職種(熟練業種が奨励される)などの地域の特性似合わせた内容を追加することで設計する。自治体はこれらのビザ条件を満たす外国人を確保し、法務部が該当者ビザを発給する(図表6)。また自治体には、地域住民が受入れられるように外国人住民のための定着支援案の樹立や住民の説得、そのほか韓国語や文化教育、地域住民参加プログラムなどを計画することが求められる。

図表6:地域優秀人材型導入プロセス
画像:図表6
画像クリックで拡大表示

出所:ナラサルリム研究所「地方自治団体主導外国人(移民)政策分析」

地域居住(F-2)ビザの取得には、ビザ発給から5年間、該当する人口減少地域に居住し、経済活動を行うことが条件となる。また、配偶者及び未成年者の子どもなども居住することを条件に帯同が可能である。

5年間のうち、はじめの2年間は必ず在留許可を受けた市・郡・区などの自治体に居住しなければならない。その後は同一の広域自治体(広域市・道など)の中であれば他の人口減少地域に移動することが可能である。仕事も、同一の広域自治体内の人口減少地域で、同一の職種にのみ就業が可能である。

在留期間は1年から、延長時には2年単位で付与され、外国人住民は1年、3年、5年経過時にビザの条件を満たしているか点検を受ける。

次に、同胞家族型は、モデル事業で選定された広域自治体内の人口減少地域に居住する韓国系外国人(在外同胞)とその配偶者、子どもに対して在留特例及び定着支援を提供する事業である。人口減少地域に2年以上居住する者及びその家族に加えて、それ以外の地域で暮らしていたが人口減少地域に同伴移住した家族、新たに韓国に入国して人口減少地域に定着しようとする在外同胞とその家族などが対象となる。

該当地域への2年以上の居住を条件に、在外同胞と子どもには在外同胞(F-4)ビザ、配偶者には訪問同居(F-1)ビザを発給する。

従来、在外同胞(F-4)ビザでは単純労務などの53業種での就業は許可されていないが、地域特化型ビザによってこの在留資格を得る場合にはこれらの業種でも就労が可能である。また、配偶者の在留資格(F-1)では通常就業が許可されていないが、事前許可を得た場合には単純労務分野での就業を可能とする。

在外同胞(F-4)の資格で2年以上(新規で居住した場合は4年以上)人口減少地域に居住した場合には、在留資格を永住(F-5)に変更する際に求められる所得条件を緩和する。

以上のように、季節労働と地域特化型ビザに関する政策は、いずれも地方自治体が必要な外国人人材を誘致するために、それらの人々について需要調査や募集、在留管理、定着支援までを直接運営するという点が共通している。前述のとおり季節労働者政策は自治体の環境や能力によって無断離脱する人数が異なっており、自治体間に格差が生じていた。地域特化型ビザについても、今後も拡大される見通しである。

そのため今後も地方自治体は自治体の機能の向上に向けて努力する必要があり、政府は自治体の規模や予算によって格差が生じることがないように国家レベルでの必要な支援を行う必要があると本レポートでは指摘されている。

参考資料

2024年1月 韓国の記事一覧

関連情報