世界の成長予測2.7%、日本は1.3%
 ―「OECD経済見通し2023」

カテゴリ−:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2023年7月

経済協力開発機構(OECD)は6月7日、「経済見通し2023:ゆるやかに続く回復の道(Economic Outlook 2023:A long unwinding road)」と題する報告書を公表した。同報告書によると、依然として下振れリスクは残るものの、予想より早い中国の活動再開を受けて世界経済に改善の兆しが見えるとして、23年の経済成長率の予測を前回3月から0.1ポイント引上げ、2.7%とした。なお、日本については、インフレによる民間消費の圧迫等を見込み、逆に0.1ポイント引下げ、1.3%とした。以下にその概要を紹介する。

世界経済の見通し―インフレの打撃と弱い回復

OECDの最新予測によると、23年の世界経済成長率は2.7%(図1)で、これは20年のコロナ危機を除くと、世界金融危機以来の最低水準である。その要因の1つに大幅なインフレの影響があるが(図2)、各国政府はその緩和に向けた広範な支援を行った。その結果、殆どのOECD諸国では、23年中に実質賃金が下げ止まる見込みである(図3)。その後はインフレの緩和による実質所得の増加に伴い、ゆるやかな回復が続き、24年の世界の成長率は2.9%に持ち直すと予測している。

図1:世界経済成長率の予測(実質GDP、前年比、%)
画像:図1
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図2:主要国のインフレ率の推移(前年比、%)
画像:図2
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図3:実質賃金の変化(21年と22年の下半期比較、%)
画像:図3
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OECDは、コロナ危機やウクライナ侵攻等による経済の落ち込みからの回復が弱いまま、今後もインフレが長期化するリスクを指摘した上で、各国の政府や中央銀行に対して、景気抑制的なスタンスを維持しながらも、必要時には追加利上げ等を行い、金融市場の安定化に注力するよう呼びかけている。また、その際の留意点を以下のようにまとめている。

  1. インフレが目標水準に永続的に低下したという明確な兆候が現れるまで、各国の中央銀行は景気抑制的な金融政策を維持する必要がある。なお、コアインフレ率(総合インフレ率から相対的に価格変動が大きい「エネルギー価格」と「食料価格」を除いたもの)が高止まりする場合、追加的な金利の引き上げが必要になる可能性がある。
  2. 世界的な「エネルギー価格」と「食料価格」の上昇が一服し、過去のインフレを考慮した最低賃金や福祉的給付の引上げが見られることから、今後、政府の財政支援はそのような社会的保護から外れた弱者層に絞って行う必要がある。
  3. 総じて公的債務や財政赤字が多い。また、多くの国は、高齢化の進展や脱炭素エネルギーへの移行、公的債務の利払いの増加、支出圧力の増大に直面している。これらの差し迫った将来の課題と長期的な経済成長の低下に対処するため、大胆な構造改革や成長促進に向けた公共支出の優先順位を示す必要がある。

日本経済の見通し―持続可能な財政への取り組みが不可欠

日本の経済成長(実質GDP)については、内需が牽引する形で、23年に1.3%、24年に1.1%になると予測している(図1)。

OECDによると、日本の消費者物価指数(総合インフレ率)は、22年に大きく上昇し、23年1月には4.3%まで上昇したものの、電気代と都市ガス代に対する政府補助金が新規に導入されたことで同4月には3.5%まで低下した。また、今年の春闘交渉では3.7%の名目賃金の引上げが暫定合意され、前年比で大きく上昇した(図4)。

また、22年秋の水際対策の緩和(外国人の新規入国制限の見直し)や23年5月の新型コロナウイルスの「5類」移行による社会・経済活動の活性化などが内需の下支えの要因になっていると分析している。

図4:日本のインフレと賃金上昇の推移
画像:図4
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その上で、今後の下振れリスクとしては、外需が予想以上に弱い点や、サプライチェーンの混乱の再燃、金融・財政状況の急変などの可能性をあげている。さらに、コロナ危機を経て急上昇した債務残高(対GDP比)を背景に(図5)、財政の持続可能性に対する日本の信頼が失われることがあれば、金融や実体経済が不安定化し、世界経済に大きな負の影響を及ぼす懸念があるとしている。

図5:日本の輸出と公的債務の推移
画像:図5
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図1-5の出所:OECD(2023) Economic Outlook 2023.

OECDは、こうした急変リスク軽減のためには、信頼できる財政枠組みを構築して公的債務の残高を長期的に削減しつつ、イールドカーブ・コントロール(注1)の柔軟性をさらに高めることが大切だとしている。

さらに、高齢化による財政圧力を考慮すると、追加的な収支バランスの見直しや、日本銀行の金融政策スタンスを明確かつ適時に明らかにすべきだと説いた上で、人々の幸福度と中長期的な財政の持続可能性を向上させるためには、生産性を高める取り組みとともに、男女の賃金格差を是正する政策が欠かせない、といった具体的な提言を行っている。

参考資料

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