非専門外国人労働者、最大10年まで滞在可能に
―雇用許可制を改編
関係行政機関の代表で構成される「外国人力政策委員会(第36回)(注1)」は2022年12月28日、「雇用許可制改編案」を議決した。
韓国では、国内労働市場で必要な労働力を調達できない企業が合法的に外国人非専門人材を雇用するための制度として、「雇用許可制」を運用している。2004年に雇用許可制が導入されて以来、大きな変更なく20年が経ったが、国内の生産年齢人口の減少や人手不足を受け、外国人労働者のさらなる活用に向けて滞在期間の延長や雇用許容業種の拡大等制度の大幅な改編に着手した。滞在期間の延長等の大きな制度変更は今後法案審議を経て決定するが、雇用業種の拡大や受入人数制限の撤廃等の小幅な変更は行政命令によって23年1月からすでに実施している。以下で主な内容を説明する。
雇用許可制の概要
この制度は、韓国政府と了解覚書(MOU)を締結した送り出し国からの労働者を対象とする「一般雇用許可制」と、韓国系外国人を対象とする「特例雇用許可制」に分かれており、雇用許容業種や在留期間等が異なる。在留資格は一般雇用許可制が「非専門就業(E-9査証)」、特例雇用許可制が「訪問就業(H-2査証)」である。
雇用許可制では、中小製造業、農畜産業、漁業、建設業、サービス業を対象に労働力需給に応じて外国人労働者の受入規模を決定しており、受け入れ人数の業種、事業所人数ごとの総量規制(クオータ制)が導入されている(注2)。
長期勤続特例を新設、在留期間を延長
一般雇用許可制の在留資格「非専門就業(E-9)」で韓国に滞在できる期間は、最長9年8カ月である(帰国せず最長4年10カ月まで就業でき、1回のみ再入国可能)(図表1)。非専門就業(E-9)労働者は条件を満たせば、在留期間の制限がない「熟練技能人材(E-7-4査証)」に在留資格を変更することができるが、所得や語学等の厳しい条件を満たす必要があり、取得する人数は限られている。
図表1:現在の「非専門就業(E-9)」就業期間
出所:雇用労働部報道資料をもとに作成
このような状況では事業主が外国人人材を長期間活用することが難しく長く働きたい労働者の不法滞在にもつながるおそれがあるとして、政府は新たに、非専門就業と熟練技能人材の間にあたる在留資格「準熟練人材(E-9査証)」を新設する。
非専門就業の中で熟練度の高い者を「長期勤続特例」として準熟練人材に認定するほか、送り出し国の求職者が事業主の求める職能水準とマッチングした場合には、準熟練人材として新規入国を許可する方針である(図表2)。
「長期勤続特例」の条件は、①同一事業場で製造業は30カ月、製造業以外は24カ月以上(入国後最初の事業場で働き続けた場合は24カ月、18カ月に短縮)勤務すること、②韓国語試験で一定の点数の取得及び社会統合教育の履修(0~4段階中3段階以上履修すること)、である。職業訓練を履修した場合には①の勤続期間を6カ月短縮する。
準熟練人材の在留期間は検討中だが、長期勤続特例者に対しては非専門就業としての滞在期間と合計で10年+α、新規入国者に対しては10年間とする方向である。さらに長期勤続特例に関しては、4年10カ月経過時に出国・再入国をせずとも国内で継続して滞在できるよう改善予定である。
図表2:準熟練人材(E-9)の活用
出所:雇用労働部報道資料をもとに作成
雇用許容業種を拡大
雇用許可制では業種ごとに外国人労働者の導入規模が定められているが、2023年から新たに職種基準で一部「サービス業の荷役業務」を一般雇用許可制導入職種に指定した。
また、政府は一般雇用許可制(E-9)の家事・ケアサービス派遣業務の導入も検討している。現在、派遣での家事労働は雇用許可制では訪問就業(H-2)労働者のみ許可されているが、これを非専門就業(E-9)に拡大する試験事業を運営予定である。公認機関と外国人労働者が契約し、家庭内へ派遣する方針である。
さらに、留学生の非専門就業(E-9)への在留資格変更を推進するため、「E-9留学生特例」の新設を検討している。この特例は、雇用許可制送り出し国出身の留学生(「留学(D-2査証)」)が大学卒業後、一定期間求職者ビザ(「求職(D-10査証)」)で求職活動後、3カ月以上経過すれば非専門就業(E-9)として就業できるという内容である。
また、訪問就業(H-2)労働者について、2023年からサービス業の中の雇用許容業種を従来のポジティブリストからネガティブリスト方式に変更し、除外業種以外は就業可能とした(図表3)。
図表3:雇用許可制雇用許容業種
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出所:雇用許可制ウェブサイトをもとに作成
一般雇用許可制では事業場ごとに雇用できる外国人労働者の人数の上限が定められているが、2023年1月~12月末までは常時労働者が50人未満の製造業の事業場に関しては雇用可能な人数を20%引き上げた。
また、2023年第2四半期から、雇用許可制の年間発給限度を廃止した。以前は事業場ごとの外国人労働者雇用上限人数とは別に事業場の規模ごとに毎年新規雇用許可書の上限が定められていた。例えば製造業の事業場で韓国人労働者が1~10人の場合、事業場の外国人雇用上限は9人だが、そのうちその年に新たに雇用できるのは4人までであった(2022年の場合)。
訪問就業(H-2)建設業の就業登録制における認定書発給限度も撤廃した。訪問就業労働者が建設業で働く場合には就業許可認定書を受けなければならず、認定書の発給には上限が設定されていたが(2022年は6万人)、これを2023年1月から廃止した。
社会統合のための在留支援強化
外国人労働者支援センターを現在の40カ所から増設予定である。同センターは、外国人労働者(E-9、H-2)を対象に韓国語教育、コンピュータ活用教育や賃金未払い、産業災害、保険などの問題相談・解決を行う機関である。
また、「外国人勤労者の雇用等に関する法律施行令」の改正に伴い、外国人労働者の死亡によって「産業安全保険法」上の処罰を受けた事業場に対しては外国人雇用を制限し、5人未満の農・漁業事業所にも労災保険または農漁業人安全保健等に加入した場合にのみ雇用許可を発給することで全ての事業場での安全保健加入を義務化した。
分析の導入
韓国人の雇用への影響を最小限に抑えながら外国人労働者を適正な規模で活用できるよう、人材需給の分析を体系化する。
専門家による独立諮問機構「外国人力政策諮問委員会(仮称)」を新たに設置し、常時分析システムの構築と、それに基づく人材不足業・職種リストを作成する考えである。
注
- 外国人力政策委員会は、外国人労働者の導入規模や雇用業種等の決定、送り出し国の選定などを行う。企画財政部、外交部、法務部、産業通商資源部、中小ベンチャー企業部及び大統領が定めた関係行政機関の次官など20名以内で構成され、国務調整室長が委員長を務める。(本文へ)
- 韓国の雇用許可制については、資料シリーズNo.249『諸外国における外国人労働者受入制度に関する調査―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、オーストラリア、韓国、EU―』(2022年3月18日)を参照。(本文へ)
参考資料
- 雇用労働部報道資料「産業現場と人口構造の変化に対応する雇用許可制改編策」(2022年12月29日付)
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