EUの雇用・社会状況に関する報告書
欧州委員会は7月、欧州の雇用・社会状況に関する年次報告書を公表した。EU全体の経済や雇用は、概ねコロナ禍からの回復の途上にあるとみられるものの、若者については未だ困難な状況にあるとして、現状を分析している。
若者の雇用回復に遅れ
報告書は、雇用・社会問題・包摂局が毎年作成するもので、域内の経済や雇用、社会状況を分析し、関連する政策的オプションを論じる内容だ。EUはコロナ禍の影響により、2020年のGDP成長率はマイナス5.9%と記録的な低下に直面した後、2021年には5.4%と大きく回復した。イタリアやフランス、ギリシャ、クロアチアなど、とりわけ経済への打撃を被った国々で大幅な回復が見られたほか、他の各国も概ね回復の途上にある。ただし、ロシアのウクライナ侵攻に伴う新たな混乱により、交易状況の不安定化やエネルギー等のコスト増加などが成長を鈍化させると予想されており、また急速な物価上昇が中~低所得層の購買力の低下を通じて、社会状況を劣化させるリスクとなることが懸念されている。
一方、雇用も2021年には1.2%増加、年末にはコロナ禍以前の水準に戻っており、今後の経済活動の鈍化が予想されるなかでも、さらなる改善が見込まれている。ただし、回復の状況は年齢層によって異なり、若年層(30歳未満)は相対的に困難な状況に直面している。若年失業者数は、2021年末にかけて減少したが、失業率はコロナ禍以前に比べて未だに1%ポイント高い。また、若年就業者のほぼ2人に1人(45.9%)が一時的な雇用契約の下にあり、労働者全体における比率(10.2%)より顕著に高い。
経済的な困難はコロナ禍以前からの傾向
若者の所得は、コロナ禍以前から他の年齢層に比して不安定な傾向にあり、社会保障給付を受給する層が増加していた。これには、労働市場における不安定雇用の拡大とともに、雇用と教育訓練の間を行き来する若者の増加が、要因となっていると考えられる。コロナ禍に伴う大規模な所得補助政策は、むしろ若者の所得の不安定さを和らげる効果があったとみられるものの、若者を世帯主とする世帯の貧困率は高く、円滑な就業への移行と安定した収入が重要である。若年層は、公共料金や家賃など、日常的な支出を賄うことの困難に直面しており、住居の確保に不安を抱える層が過半数にのぼっているとされる。
若者が直面する困難の度合いには、教育水準と社会経済的背景(親の学歴や職業)が影響している。中等教育を修了した若者は、未修了者に比べて無業状態になる確率が19%ポイント低く、高等教育修了者についてはこれが28%低くなる。ただし、親の学歴や職業が高度であるほど、このリスクは低まる傾向にある。
また、若者間の格差を助長するもう一つの要素としてジェンダーが挙げられる。若年女性は、初職の賃金水準が男性より7.2%低く、この差は年齢とともに拡大する。EUレベルでは、この差のうち0.5%ポイントのみが、教育到達度や職業の選択、就業経験、雇用契約のタイプの違いに起因している。
なお、若者は相対的にデジタルスキルを身に着けている度合いが高いと考えられ、今後の経済のデジタル化の進展において、寄与の拡大が想定される。また、環境を重視した経済への移行に伴い、再生可能エネルギーやエネルギー効率、持続可能な交通、上下水道や廃棄物処理といった業種で創出される雇用の恩恵を受けることが期待される。
参考資料
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European Commission "Employment and Social Developments in Europe 2022"
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