不平等への懸念と人々の認識の差異
―OECD「不平等報告2021」
経済協力開発機構(OECD)は11月18日、「不平等は問題か(Does Inequality Matter?)」と題する報告書を公表した。同書は「新型コロナウイルス危機から公正で持続可能な力強い回復を遂げるためには、不平等を改善し、機会均等を促進することが重要だ」と指摘した上で、その「不平等」に対する人々の認識や求める取り組みが多様化し、乖離しつつある現状を分析している。以下にその概要を紹介する。
不平等への取り組みと認識に関する傾向
OECDによると、「不平等は解決すべき問題だ」という点については、着実に合意形成がなされる一方で、その「不平等」に関する人々の認識は、ますます多様化し、乖離する傾向にある。調査の結果、OECD諸国市民の5人に4人は、「自国の所得格差は大きすぎる」と感じており、所得格差の拡大に伴い、過去30年間で所得と所得格差への懸念が高まっていた。また、OECD諸国市民の10人に6人以上は、政府は税金や給付によって、所得格差を減らす取り組みを強化すべきだと考えていた。
このような全体的な傾向が見られる一方で、「不平等」に対する人々の見方は多様化しており、二極化が進んでいる。ほとんどのOECD諸国では、「不平等が大きいと感じている人々」と「不平等は小さいと感じている人々」の間の格差が拡大しており、不平等な国ほど、世論が分裂していた。OECD諸国の中で最も不平等な国であるチリとアメリカでは、上位10%の所得に関する人々の認識に最も大きな差が見られた。
日本の不平等と人々の認識
日本については、国別報告において、ジニ係数(注1)が0.334(OECD平均0.318)と、平均的なOECD諸国よりも所得の不平等が大きいことが明らかにされている。しかしながら、日本人の「所得格差に対する懸念」は、OECD諸国よりもわずかに低くなっており、この要因として、日本では、「人生で成功するためには、自分で制御できない環境要因(親の出自など)よりも勤勉であることの方が重要だ」と認識されており、不平等に対して比較的寛容であることが指摘されている。
ただし、このような日本人の認識も過去10年間で変化が見られ、「勤勉さ」の重要度が低下する一方で、「親の出自」の重要度がわずかに上昇している(図表1)。
図表1:人生で成功するために重要な要因
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- 出所:OECD(2021)
また、所得格差を縮小し、不平等を削減するために「誰が責任を持って何をすべきか」という点について、日本では、政府や民間企業の責任と考えている人の割合がOECD13カ国平均よりも低い一方で、高所得者が多額の税を払うべきという「累進課税」を求める声が強いことが特徴として紹介されている(図表2)。
図表2:各意見に同意する人口の割合 (2019)
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- 出所:OECD(2021)
注
- ジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。(本文へ)
参考資料
- OECD (2021) Does Inequality Matter?
- Country report: How does JAPAN compare? (PDF:737KB)
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