コロナ禍におけるテレワーク率の上昇と今後の見通し

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  • 国別労働トピック:2021年11月

OECD(経済協力開発機構)は2021年9月、政策ブリーフ「新型コロナウイルスのパンデミックにおけるテレワーク:動向と見通し(Teleworking in the COVID-19 pandemic: Trends and prospects)」を発表した。OECDは本文書において、コロナ禍でテレワークを行った被用者の割合(以下、「テレワーク率」と略記)が世界的に上昇したことを指摘したうえで、今後もパンデミック以前よりテレワークの利用が増加すると予測している。以下、文書の概要を紹介する。

テレワーク率は上昇したが、産業・職業・労働者の属性によって差異

すべてのデータ入手可能国(注1)において、テレワーク率はパンデミック中に上昇したが、上昇の程度は国によって大きく異なった。個人調査の結果によると、フランスやイギリス、オーストラリアでは、2020年のロックダウン中に、テレワーク率は47%まで上昇した。2020年に全国的なロックダウンを実施しなかった日本では、2020年5月に前年12月比で18ポイント上昇し、約28%となった。

デジタル化の度合いが異なるため、産業や職業によってテレワーク率に差異が生じた。産業別に見ると、医療・社会的(介護・保育等)ケア、建設、輸送・倉庫、宿泊・飲食サービスなどの物理的な生産に関連する産業では、テレワーク率が比較的低かった()。一方、情報通信サービス、専門的・科学的・技術的サービス、金融サービスなど、すでに高度にデジタル化されていた産業ではテレワーク率が非常に高く、平均50%を超えた。

図:パンデミック時のテレワーク率(産業別、2020年)
画像:図
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  • 注:数値は各国のテレワーク率がピークに達した時のもの。
  • 出所:OECD(2021)

企業規模別に見ると、大企業のほうが小規模企業よりも、一般的にテレワーク率が高かった。これは、デジタル技術の導入に企業規模間格差があることや、観光やレストラン、小規模小売業などのテレワークに適していない産業に小規模企業が集中していることを反映している可能性が高い。

労働者の属性別に見ると、より高いレベルの学位や資格を持つ労働者はテレワーク率が高かった。例えば、アメリカでは修士号または博士号を持つ人のテレワーク率は、最も資格の低い人よりも15倍高かった。また、データ入手可能国のほとんどでは、女性のテレワーク率が男性よりも高かった。例えば、フランスのテレワーク率は、2019年は男女共に22%だったが、最初の全国ロックダウン時(2020年3月~5月)には、男性(43%)より女性(52%)のほうが高かった。このような傾向の一つの説明として、学校閉鎖中の育児への対応策として、女性がテレワークを行う傾向が強かったのではないかと考えられる。

仕事・生活への影響は不明確

テレワークの増加が将来的にも続くかどうかは、労働者と企業の双方にとってのテレワークのメリットとデメリットのバランスによって決まると思われる。広範なテレワークは生産性を向上させ、ワーク・ライフ・バランスを改善するなどの可能性を秘めているが、その全体的な影響は不明確である。カナダではパンデミック以降にテレワークを始めた「新しいテレワーカー」の90%超が、少なくとも職場にいたときと同程度に生産的であると回答した。残りの10%は、同僚との交流不足や家族のケアへの参加、ワークスペースやIT機器が不十分なために、通常の職場よりも1時間あたりの仕事量が少ないと回答した。

日本の被用者は、テレワークのメリットとデメリットが混在していると回答しており、その多くは生産性に影響を与える可能性が高い。テレワーカーの5人に4人は通勤の必要がないことを主な利点として挙げているが、テレワークによって新しいアイデアを生み出しやすくなると感じている回答者は14%に過ぎなかった。回答者の約3分の1は、パンデミック時のテレワークの主な課題として、社内およびパートナーとの相談やコミュニケーションが困難であると回答した。

テレワークにおける生産性の認識は、テレワークをしたいという願望と強く関連している。カナダでは、テレワークのほうが1時間あたりの仕事量が多いと回答した人のうち、ほとんどの時間またはすべての時間をテレワークにしたいと考えている人の割合が57%と、その他の人(30%)に比べて非常に高かった。

また、テレワークは長時間労働や夜間・休日労働の増加につながることを示すデータがあり、被用者の幸福度(潜在的には生産性)に悪影響を与える可能性がある。カナダでは、「新しいテレワーカー」の35%、管理者の51%が以前より長く働いていると回答した。対照的に、労働時間が短くなったと回答したのは3%だけであった。長時間労働は、通勤時間の短縮などのテレワークの潜在的なメリットの少なくとも一部を相殺し、良好なワーク・ライフ・バランスの実現を困難にしていると考えられる。日本では、テレワークのデメリットとして、回答者の15%が仕事と生活の境界が曖昧になることによる過労を挙げている。

フルタイムでテレワークする人は少ない見通し

ほとんどの企業や個人は、今後もパンデミック前よりテレワークの利用が増えると予想している。オーストラリアでは、パンデミック収束後も在宅での勤務や就学を継続したい人の割合は、2020年11月までに同年7月比で5%上昇し、30%となった。日本では、2020年12月にテレワーカーの20%が今後フルタイムでテレワークをしたいと回答し、33%が「テレワーク中心」で働きたいと回答した。また、カナダではパンデミック収束後に、少なくとも一部の被用者にテレワークの機会を提供することを予定している企業の割合が、2020年8月に同年5月比で25ポイント上昇し、59%となった。

しかし、パンデミック収束後にフルタイムでテレワークをする被用者は比較的少ない見込みだ。イギリスでは、調査対象の雇用主の63%が「ハイブリッド・ワーキング」の導入・拡大をある程度予定しているが、「トータル・ホームワーキング」(一部の被用者がフルタイムでテレワークすること)の導入・拡大を予定している雇用主は45%だった。また、カナダでは、少なくとも半分の時間をテレワークしたいと回答した人は「新しいテレワーカー」の80%を占めたが、フルタイムでテレワークをしたい人はわずか15%だった。

必要な対策・政策

企業は、テレワークに関連する課題に対処するために、仕事のやり方を変える必要がある。関連する対策としては、過労を防ぐために家庭と仕事の境界線の設定やルーチンを奨励することや、管理者が効果的に仕事を調整しコミュニケーションをとるために必要なスキルとツールを確保することなどが挙げられる。また、創造性やブレーンストーミング、問題解決、非公式の学習に特別な注意を払うことに加え、勤務場所にかかわらず、ネットワークやチーム間の関係、結束を促進することなども重要である。

政府はテレワークから得られる利益を今後も持続させるため、企業とその従業員が経済的・社会的回復を促進し、幸福度を向上させるために必要な柔軟性を確保すべきである。これらの目標を達成するための関連政策は、以下の3つの主要分野に関連している。第一の分野は「補完的な投資の支援」である。具体的には、テレワークに必要な通信インフラの整備の加速や、全体的にテレワークを普及させるため、現在テレワークができていない労働者の関連スキルへの投資の促進などが必要である。第二は「文化的・法的な障害の克服の支援」である。伝統的な労働形態に固執することによるテレワーク導入への抵抗や、テレワークに対する法的な障害などに対抗する必要がある。第三は「潜在的なリスクの緩和」である。テレワークによって起こりうるイノベーションや「隠れた時間外労働」につながるリスクへの対処や、育児などの支援インフラの提供体制の見直しなどが必要になる可能性がある。

参考資料

  • OECD資料 (21/09/2021) Teleworking in the COVID-19 pandemic: Trends and prospects, OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19)
  • OECD資料 (07/09/2020) Productivity gains from teleworking in the post COVID-19 era : How can public policies make it happen?, OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19)

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