公共雇用サービス・積極的労働市場政策に追加投資が必要と提言
OECD(経済協力開発機構)は2021年4月、政策ブリーフ「新型コロナウイルスからの回復における、人々を仕事と結びつける政策の拡大(Scaling up policies that connect people with jobs in the recovery from COVID-19)」を発表した。OECDは本文書において、各国政府が新型コロナウイルス危機に対応するために行った、積極的労働市場政策(Active Labour Market Policies)、および公共雇用サービスの調整について分析したうえで、今後数年間にわたり追加の資源が必要であると指摘している。以下、文書の概要を紹介する。
多くの国で積極的労働市場政策への支出が増加
多くの国が新型コロナウイルスによる不況に迅速に対応するため、積極的労働市場政策への支出を増加させた。積極的労働市場政策はカウンセリング、トレーニング、および最も苦労している人々に合わせた包括的な支援を通じて、失業者の迅速な職場復帰支援や、衰退産業から成長産業への労働力移動の促進に役立つ。積極的労働市場政策は、労働市場サービスと積極的労働市場措置の2つの領域に分類される(図)。OECDおよび欧州委員会が2020年末に実施したアンケート調査結果によると、回答した国・地域(46カ国)の63%が2020年に労働市場サービスの予算を増加させ、73%が積極的労働市場措置の予算を増加させた。2018年と比較した2020年の積極的労働市場措置への支出は、ハンガリーで21%、ポルトガルで30%増加し、スイスでは20%程度増加すると推定している。一方、難しい選択をしなければならない国も多くあった。例えば、メキシコでは優先事項やコロナによる健康危機に対処するために積極的労働市場政策の予算が減少し、スペインでは失業手当に係る支出の増加に伴い、他の措置への支出が減少した。
多くの国・地域が労働市場サービスに追加の資金を投入して、公共雇用サービス(職業安定機関)のスタッフを増やした。各国政府がロックダウンや社会的距離措置を導入した2020年3~4月、求職者数と雇用維持スキームの申請者数が急増し、公共雇用サービスに打撃を与えた。これに対処するため、調査回答国・地域の67%は、即時的な対応として公共雇用サービスの既存スタッフの再配置を行った。しかし、スタッフの再配置だけではサービスの継続性を確保するのに十分でないことが多く、調査回答国・地域の54%が2020年に公共雇用サービススタッフを増員した。
図:積極的労働市場政策の2つの領域
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- 出所:OECD(2021)
公共雇用サービスの運用モデルの変更
調査回答国・地域の90%近くが、コロナ危機への短期的な対応の最も重要な要素として、公共雇用サービスの運用モデルの変更を挙げている。具体的な変更点は、主に次の6つである。
- プロセスのデジタル化、リモート経路の強化、クライアントとバックオフィスのプロセスの自動化
- クライアントとスタッフのプロセスの簡素化
- 施設内の健康ガイドラインを満たすためのプロセスの適応
- 統計と管理情報の質と適時性を高めるための新しいツールの採用
- スタッフやクライアントへのコミュニケーションの適応
- スタッフの再配置、スタッフの増員、スタッフのトレーニング
新型コロナウイルスの影響により対面でのサービス提供が突然停止したため、公共雇用サービスのデジタル化がその影響を軽減することに役立った。パンデミック前から包括的な電子サービスを既に提供していた公共雇用サービスは、対面での対応を必要とせずにクライアントにサービスを提供することができ、積極的労働市場政策の提供能力を維持することができた。
公共雇用サービス・積極的労働市場政策へ追加投資が必要
各国は現在、主に公共・民間雇用サービスの運用モデルの変更を中心としたコロナ危機への短期的な対応から、積極的労働市場政策の設計とターゲット、および新しい積極的労働市場政策の提供モデルに焦点を当てた中長期的な戦略へと移行している。
より多くの失業者に対する適切な支援の継続を確保し、衰退産業から成長産業への労働力移動を促進するために、公共雇用サービスおよび積極的労働市場政策への追加投資が今後必要である。これは、パンデミックで大きな被害を受けた産業が数多く雇用していた、女性、若者、低スキルの労働者など、いくつかの脆弱なグループの労働市場への再統合を促進するためにも重要である。各国政府は、次のことを行う必要がある。
(1)公共雇用サービススタッフの増員
公共雇用サービスは、高品質のサービスを提供し、継続的に多くの求職者に積極的労働市場政策を包括的に提供するために、2021年に追加のスタッフを必要とする可能性がある。調査回答国・地域の49%が、2021年に公共雇用サービススタッフをさらに増やす計画を報告している。例えば、フランスやイギリスの公共雇用サービスは、地方事務所におけるサービスの最前線のスタッフを増やし、若年者向けの新たな雇用プログラムを提供するために、追加のスタッフを雇う予定である。
(2)公共雇用サービスのデジタル化と自動化の強化
公共雇用サービスのプロセスは2020年に大幅に改訂されたが、デジタル化と自動化の強化など、プロセスをよりスリムで効率的にするためのさらなる取り組みが今後も重要である。各国は、パンデミックの際にこれらの分野で行われた多額の投資を基盤とすべきである。
(3)積極的労働市場政策の自動財政調整メカニズムの導入
積極的労働市場政策の自動財務調整メカニズムを備えている国は、ごく少数である。例えば、デンマークやオランダ、スイスでは、失業率の上昇に伴い、労働市場サービスと積極的労働市場措置の予算が自動的に増加する。スウェーデンは他国よりも早く積極的労働市場政策の予算を修正することに成功している。これは長期失業率の上昇に伴い、給付金と積極的労働市場政策の両方に利用できる資金が自動的に調達されるためである。今後、このようなメカニズムを導入することで、政策は労働市場のニーズの変化により敏感に反応できるようになる。
(4)構造的能力の制約への対処
各国は復興計画の一環として、積極的労働市場政策規制の調整、雇用サービスの組織的設定の適応、積極的労働市場政策の資金調達や対応の柔軟性の向上、すべての関係者間の緊密な協力と調整を可能にすることで、構造的能力の制約に対処する必要がある。調査回答国・地域の半数以上が、新型コロナウイルスへの対応を促進する主な要因の1つとして協力と調整を挙げている。調整と確立されたガバナンスモデルは、積極的労働市場政策の責任の大部分が地域または地方レベルの当局にある、分散型システムで特に重要になっている。
参考資料
- OECD資料 OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19): Scaling up policies that connect people with jobs in the recovery from COVID-19.
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