景気回復と雇用維持に向けた「冬期経済プラン」の公表

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2020年10月

政府は9月、景気回復と雇用維持に向けた追加的な施策パッケージ「冬期経済プラン」を公表した。新型コロナウイルスの感染が再び拡大に転じ、対応が長期化する中、企業等への経済的支援の継続と併せて、雇用主への賃金補助策を引き続き実施する方針を打ち出している。ただし、従来の賃金補助制度が主な補助対象としていた休業者は対象から除外、一時的に短時間就業する労働者のみに適用し、雇用主負担も引き上げる。

賃金補助の対象を休業者から短時間就業者に

政府は、国内の感染状況が落ち着いてきたことを受けて、夏ごろから段階的に経済活動の規制や行動制限を緩和し、9月初めまでには、一部の業種を除いて大半の経済活動の制限を解除した。またこれに合わせて、従来の在宅就業の奨励を取り下げ、特に8月以降は労働者の職場への復帰を呼びかけていた。しかし、9月に入って新規感染者が再び急速に増加したことから(注1)、マスク着用や一定人数・条件による複数人での集会等の禁止など、各種の制限を再導入(注2)、また改めて在宅就業が奨励されることとなった(注3)。経済活動の低迷を憂慮し、かねてから労働者の職場復帰を政府に求めていた経営側は、在宅就業奨励の復活に強い懸念を示している。

こうした中、政府は9月下旬に「冬期経済プラン」(Winter Economy Plan)を公表した。景気回復と雇用維持に向けた追加的な施策として、企業に対する資金繰り支援や徴税等の遅延などと並んで、雇用主に対する賃金補助を引き続き実施するとの方針を示している。

ただし、賃金補助の手法はこれまでとは異なる。10月に終了が予定されている従来の雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業が、労働者をまとまった期間休業(一時帰休)させる場合に、休業期間中の賃金の8割を雇用主に補助し、8割の賃金支払いを義務付ける制度として導入された。その後の制度改正により、短時間就業者にも適用が拡大され、また補助率の段階的な引き下げ等で雇用主負担の拡大が図られている(注4)が、主な対象は休業中の労働者であり(注5)、雇用主負担の比率も小さい。

これに対して、11月に開始予定の新たな「雇用支援スキーム」(Jobs Support Scheme)は、休業者を対象から除外し、短時間就業者に限定する内容となった。通常の労働時間の少なくとも33%以上就業する労働者を対象に、残りの時間(33%就業する場合は、通常の労働時間のおよそ66%)に相当する賃金の3分の1を政府が補助(月697.92ポンドが上限)、もう3分の1を雇用主が負担するもの。上限額を超えない限り、労働者には通常の労働時間の77%相当以上の賃金が支払われ、うち55%相当分以上が雇用主の負担となる。実施は、2021年4月までの6カ月間、適用対象(注6)は、全ての中小企業と、コロナの影響により売上高が3分の1以上減少した大規模企業だ。

財務相は新スキームの導入について、感染拡大初期とは異なり、経済活動が再開しつつある今、引き続き一時帰休の状態に置かざるを得ない雇用を維持し続けることは誤りであると述べ、将来的に存続可能な雇用に補助を限定すべきであるとの立場を示している。

なお、自営業者についても所得補償スキームが引き続き実施されるものの、これも支給水準について引き下げが行われる。従来は、月平均売上高の7割を3カ月分まで、合計で6570ポンドを上限として支給していた(注7)が、新たに11月から来年4月まで(3カ月を単位として2期分)実施されるスキームは、月平均売上高の20%を3カ月分、1875ポンドを上限として支給する。

このほか、冬期経済プランと前後して、政府は成人の低資格層に対して無料の職業訓練を提供する「生涯技能保障」(Lifetime Skills Guarantee)イニシアチブを実施するとの方針を示している。後期中等教育相当の教育資格(A level:高等教育への進学に要する中等教育資格)を持たない18歳以上層を対象に、継続教育カレッジでの無料の職業訓練の提供をはかるもの。受講可能な訓練コース等を含め、具体的な内容は今後明らかになるとみられる。このほか、再訓練(retraining)の機会拡大を目的とした訓練費用の貸付制度の適用対象の拡大や、アプレンティスシップの拡充などを併せて実施するとしている。

職場復帰と失業増が並行して進行か

従来のスキームの終了は、とりわけ感染拡大の影響を大きく受けた業種を中心に、雇用に多大な影響を及ぼすと予想されてきた。スキームを所管する歳入関税庁(HMRC)が9月に公表したデータによれば、適用対象者数は5月に900万人近くに達した後、月の変わり目ごとに減少しており、7月末時点では481万人となっている。業種別には、宿泊・飲食サービス業(94万人)、卸売・小売業等(79万人)事務・補助サービス(52万人)などで多い(図表)。とりわけ宿泊・飲食サービス業では、労働者の43%がスキームの適用を受けている。一方、6月末から7月末にかけての適用対象者の減少は、卸売・小売業で53万人(前月から40%減)、宿泊・飲食サービス業で36万人(同28%減)など。減少の要因は明らかではないものの、経済活動の再開に伴う就業への復帰とともに、雇用の減少もその一端となっているみられる(注8)

図表:雇用維持スキームの業種別適用状況
画像:図表

出所:HMRC ‘Coronavirus Job Retention Scheme statistics: August 2020’新しいウィンドウ

シンクタンクResolution Foundationは、新スキームにより賃金補助を通じた雇用維持が引き続きはかられることを評価している。ただし、雇用主側の負担が従来制度より大きく、短時間化した従業員2人の雇用を維持するよりも、1人をフルタイムで雇用する方がコストを低く抑えられること(注9)、また、高いスキルや長い勤続を通じた知識の蓄積が労働者に必要となる業種(例えば製造業など)では、雇用主が雇用の維持をはかる傾向が強いと考えられるが、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた飲食サービス業や娯楽業などは、そうした傾向にはないことなどを指摘。新スキームにはそこまでの雇用維持の効果は期待できないとして、制度の利用率を高めて秋以降の失業者の急増を抑制するためには、雇用主負担の軽減をはかるべきであると提言している(注10)

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