ロックダウン期間中の工場閉鎖時の賃金支払い義務命令
 ―ロックダウン解除と失業率の改善

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2020年10月

インド政府は新型コロナウイルス感染拡大防止対策として、総額20兆ルピーを超える経済対策パッケージを打ち出している。3月26日に発表された貧困層を対象とする1兆7000億ルピーの支援策のほか、5月13日から17日にかけて発表された約20兆ルピーの経済対策パッケージでは、中小企業、出稼ぎ労働者や農家、露天商を対象とする支援が盛り込まれている。また、3月25日からのロックダウンに伴って、事業所が閉鎖された場合でも、企業に対して従業員への賃金支払いを義務づける命令が出された。

インド全土のロックダウン宣言と賃金支払い義務を課す命令

モディ首相は3月24日、新型コロナウイルスに関連した演説を行い、3月25日から21日間、インド全土のロックダウンを宣言した。3月26日には、シタラマン財務相によって貧困層を支援する経済対策パッケージが発表され、3月29日には、2005年国家災害管理法に基づいて、企業経営者に対してロックダウン期間中の賃金支払いの義務を徹底するための命令(Order)が発出された(注1)

この命令は、全ての雇用主に対して、つまり全ての業種(店舗や商業施設も含めて)について、ロックダウン中の施設閉鎖期間であっても、労働者の賃金を期日通りに控除せずに支払うものとしている。また、移民を含む労働者が賃貸住宅に居住している場合には、それらの住居の家主は、家賃を請求してはならない。労働者や学生に住居からの撤退を強要する場合、国家災害管理法に基づいて提訴される可能性があるとしている(注2)

最高裁に対する違憲性を問う訴え

この命令に対して、企業からは撤回を求める声が相次いだ。業界団体は政府に対して、賃金支払い命令を履行するための助成金の必要性を訴えたが、政府は財政上の制約を理由に受け入れなかった(注3)

4月末時点の民間シンクタンク・デロイトの調査では、証券取引所に上場している大企業100社のうち、27社が1カ月後には賃金の支払いができなくなるという結果も出ていた(注4)。日本貿易振興機構が日系進出企業を対象に4月下旬に実施した調査では、60%弱の企業が、インド政府による給与全額支払いの命令により経営が圧迫されており、政府からの資金面の支援を望んでいるという結果が示された(注5)

5月初旬には複数の企業が最高裁に対して、命令の違憲性と撤回を問う訴えを起こした。5月15日には、最高裁の3人の判事が、中小企業の現状を踏まえれば命令を順守することが困難な内容であるとした上で、政府に対して賃金支払いができない民間企業に強制的な措置を取らないように意見書を出した(注6)これを受けて、政府は5月17日になって命令を破棄することを決めた(5月18日以降、命令は効力を失うこととなった)(注7)

失業率改善と感染拡大

ロックダウン期間中、労働市場は悪化の一途をたどった。民間シンクタンク・インド経済監視センター(Centre for Monitoring Indian Economy (CMIE))の推計によると、2020年3月の失業率は8.74%だったが、4月には23.52%に上昇し、5月には27.11%まで上昇した(注8)。2019-20年の就業者数は、平均で4億400万人だったが、20年3月には3億9600万人まで減少、20年4月には2億8200万人に減少したと推計している。20年4月に試算した雇用機会は前年比で1億2200万人減少したことになる(注9)

連邦政府は6月3日に段階的ロックダウン解除の方針を示した。CMIEによると、失業率は6月に10.99%へと改善しており、ロックダウン解除が失業率の改善に寄与していると分析している(注10)。一方で、ロックダウン解除によって感染者拡大に拍車がかかっており、解除前、4月末以降の1日当たりの感染者数は平均して7千人程度であったが、解除後は2万人を超えている。

2020年9月の時点のインド全体の失業率は6.7%で、州によって大きな相違がみられるものの、コロナ禍以前の水準に戻っている(注11)。しかしその一方で、新規感染者数は8月以降の急増し、9月17日には1日の感染者数が9万7000人以上を記録した(注12)

(ウェブサイト最終閲覧:2020年10月26日)

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