新型コロナウイルスの克服に向けた雇用分野の対応策

カテゴリー:雇用・失業問題地域雇用非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2020年5月

韓国の国会では2020年3月17日、新型コロナウイルス感染症に対応するため編成された総額11兆7,000億ウォンの補正予算案が可決・成立した。このうち、雇用労働部が所管する雇用分野の補正予算は1兆2,783億ウォンで、(1)雇用悪化地域別雇用安定対策の支援、(2)中小企業の経営負担軽減及び労働者の雇用安定支援、(3)緊急家庭保護支援の強化、(4)就業弱者の雇用支援の強化――等を内容としている。

1.2020年雇用労働部所管追加補正予算案の主な内容

雇用労働部が所管する追加補正予算は、新型コロナウイルス感染症の拡大による雇用悪化を最小限に抑え、民生の安定を支援することを目的に、6つの事業で総額1兆2,783億ウォンの予算を計上している(表1)。その主な内容は以下のとおり。

表1:2020年雇用労働部所管補正予算の概要 (単位:億ウォン)
表1:画像
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出所:雇用労働部報道資料(2020年3月18日付)を元に作成。

(1)雇用悪化地域別雇用安定対策の支援

①「新型コロナウイルス地域雇用対応等特別支援事業」の新設

雇用が悪化した地域の状況に適した雇用安定対策を自治体が主導的に推進できるよう、「新型コロナウイルス地域雇用対応等特別支援事業」を新設する。補正予算に計上された2,000億ウォン(被害深刻地域(大邱・慶尚北道):700億ウォン、一般被害地域(15広域自治体):1,300億ウォン)で、零細企業労働者、特殊形態労働従事者、日雇労働者等に対する生活安定、短期雇用、職業訓練等の新規支援を行う(具体的内容は「2.無給休職労働者、特殊形態労働従事者等に対する雇用・生活安定支援」に記載)。

(2)中小企業の経営負担軽減と労働者の雇用安定支援

②零細企業の経営負担軽減と低所得労働者の雇用安定支援

低賃金労働者(約230万人)を継続雇用する零細企業に一時的に賃金を補助(4カ月)し、経営負担の軽減及び労働者の雇用安定を図る事業の支援内容を拡充する。労働者1人当たりの支援額を、10人未満の企業は7万ウォン(5人未満企業:11万ウォン→18万ウォン、5~9人企業:9万ウォン→16万ウォン)、10人以上の企業は4万ウォン(9万ウォン→13万ウォン)、それぞれ増額する。ただし、この支援額は、週所定労働時間や労働日数に比例して決定される。増額された支援金は、2020年2月から5月まで4カ月間の勤務について一時的に適用され、6月以降は従来どおりの支援水準に戻る。この拡充策を実施するため、当初予算の2兆1,647億ウォンを補正予算で2兆6,611億ウォンに増額(4,964億ウォン増)する。

③社会保険料支援の対象人数の拡大

従業員10人未満の企業の事業主と労働者の社会保険料負担を軽減するため、雇用保険と国民年金の保険料を支援する対象人数を274万人から277万人に拡大(3万人増)する。このため、当初予算の 1兆1,490億ウォンを補正予算で1兆2,086億ウォンに増額(596億ウォン増)する。

(3)緊急家庭保護支援の強化

④ワークライフバランス労働奨励金の支援人数及び支援水準の強化

ワークライフバランス労働奨励金は、家庭内での子どもの世話等のために週労働時間を15~35時間に短縮した場合、事業主に賃金減少補填金、間接労務費、代替人材の人件費(最長1年)を支援する制度である。

ワークライフバランス労働奨励金の支援人数を7,500人から2万人に拡大(1万2,500人増)し、支援水準も増額する(表2)。このため、当初予算の144億ウォンを補正予算で508億ウォンに増額(365億ウォン増)する。

支援対象となる労働者の勤続期間要件は、従前の6カ月から1カ月に短縮される。また、従前は2週間以上労働時間を短縮しなければ支援対象とならなかったが、2週間未満でも支援対象にする。賃金減少補填金は、中小・中堅企業のほか、大企業も支援対象となっている。

表2:ワークライフバランス労働奨励金の支援水準の強化
  現在 補正予算
賃金減少補填金 24~40万ウォン 40~60万ウォン
間接労務費 20万ウォン 40万ウォン
代替人材採用支援 30~60万ウォン 30~80万ウォン

出所:雇用労働部報道資料(2020年3月18日付)

(4)就業弱者の雇用支援の強化

⑤「就職成功パッケージ」の支援人数拡大及び求職促進手当の一時的再導入

就職成功パッケージ」は、低所得層やその他の社会的弱者を対象に、最長1年間、段階的・統合的に就労支援を行う事業である。

消費者心理の冷え込みや景気低迷により就業条件の悪化が懸念される低所得層、若年層向けに「就職成功パッケージ」の支援を拡大する。対象人数を低所得層は5万人から7万人(2万増)、若年層は5万人から8万人(3万人増)に、それぞれ拡大する。このため、当初予算の 2,317億ウォンを補正予算で2,825億ウォンに増額(508億ウォン増)する。

低所得層に対しては、「就職成功パッケージ」の3段階に進んだ際に求職促進手当(月50万ウォン、最長3カ月)を支給する。同手当は低所得層の求職期間中の生活費を支援し、就職活動の安定化を図る目的で2019年に導入(月30万ウォン、最長3カ月)された後、2020年下半期に実施予定の「国民就業支援制度」(韓国型失業扶助制度)に統合するため廃止された。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用情勢の悪化を受け、求職促進手当を一時的に再導入することとした。対象者は、「就職成功パッケージ」に参加している69歳以下の中位所得の60%以下の低所得層である。満65歳以上の場合、基礎年金を受給している点を勘案し、月20万ウォン(最長3カ月)を支援する。手当は、「就職成功パッケージ」の3段階に移行後、相互義務契約の締結、求職活動計画の策定、月2回の求職活動実施を経て支給される。

⑥若年層追加雇用奨励金の安定を支援

成長可能性の高い分野の中小企業が若者3人を正規雇用として採用した場合、1名分の賃金(上限2,000万ウォン)を支援する若年層追加雇用奨励金の対象者を2019年の20万人から2020年は29万人に拡大する。この目標人数を滞りなく支援するため、当初予算の1兆1,431億ウォンを補正予算で1兆5,782億ウォンに増額(4,351億ウォン増)する。

2.無給休職労働者、特殊形態労働従事者等に対する雇用・生活安定支援

雇用労働部は17の広域自治体(特別市、特別自治市、広域市、道、特別自治道)とともに、零細事業所の無給休職労働者(約11.8万人)、特殊形態労働従事者・フリーランス等(約14.2万人)の雇用・生活安定を支援するため「新型コロナウイルス地域雇用対応等特別支援事業」を実施する。3月17日に成立した追加補正予算で確保された2,000億ウォンに地方自治体等の予算346億ウォンを加えた総額2,346ウォン(無給休職者934億ウォン、特殊形態労働従事者・フリーランス1,073億ウォン、その他340ウォン)が投入される(表3)。

表3:新型コロナウイルス地域雇用対応等特別支援事業
事業名 実施広域自治体 予算
(億ウォン)
対象人数
(万人)
無給休職労働者雇用安定支援 17 934 11.8
特殊形態労働従事者・フリーランス生活安定支援 17 1,073 14.2
特殊形態労働従事者・日雇い労働者等の短期雇用 9 337 0.6
職業訓練生支援 4 2.7 0.1
事業所防疫支援 1 0.3
合計 2,346 26.7

出所:雇用労働部報道資料(2020年4月2日付)

支援内容として、第一に、広域自治体は無給休職労働者に対し、月最大50万ウォンの雇用安定支援金を2カ月間支給する。対象は、新型コロナウイルスにより操業が全面的又は部分的に中断された一定規模(自治体ごとに5人・10人又は100人)未満の事業所において、国が感染症危機警報レベルの「深刻」段階を発令して以降、5日以上無給休職した労働者である。零細小規模事業所が優先支援され、自治体の中には所得基準(例:中位所得の100%)を設定して低所得者を優先するところもある。事業主が無給休職労働者支援申請書及び無給休職確認書(休職日数、労働時間等)を管轄自治体に提出する。自治体は要件審査を行った後、労働者に支援金を直接支給する。

第二に、広域自治体は、新型コロナウイルスの感染拡大で対面サービスが困難となり、そのせいで仕事がなくなったり、所得が減った職種に従事している特殊形態労働従事者・フリーランスに対し、月最大50万ウォンの生活安定支援金を2カ月間支給する。国が感染症危機警報レベルの「深刻」段階を発令して以降、5日以上仕事がなくなったり、25%以上所得が減少した場合に支給する。申請希望者は、本人が特殊形態労働従事者・フリーランスであることを立証できる労働契約書、委嘱書類、所得金額証明書等の資料と労務未提供(または所得減少)事実を確認する書類等とともに、申請書を自治体(または(事業実施機関)に提出する。自治体は要件審査を行った後、特殊形態労働従事者・フリーランスに支援金を直接支給する。

第三に、9つの広域自治体は、特殊形態労働従事者・フリーランス、日雇労働者等の不安定雇用労働者に対し、短期の仕事(事業所の防疫支援人材等、地域の事情による短期の緊急な仕事)を提供し、参加者に1人当たり月180万ウォン(最低賃金基準、週40時間)の人件費を支給する。また、4つの広域自治体は、新型コロナウイルスの影響により職業訓練が中断され、訓練手当を受け取ることができない訓練生に対し、それに準じた金額(月12万ウォン、2カ月)を支給する。

参考

  • 雇用労働部発表資料「2020年雇用労働部所管追加補正予算の主な内容」(2020年3月18日付)
  • 雇用労働部発表資料「新型コロナウイルスで困難に直面している生活困難者生計支援追加対策の整備」(2020年3月30日付)
  • 雇用労働部発表資料「4月から無給休職労働者、特殊形態労働従事者等に対する雇用・生活安定支援事業実施」(2020年4月1日付)

参考レート

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