庇護申請による移民は減少、就労や家族に起因する移民は増加
―OECD国際移民アウトルック2019

カテゴリ−:雇用・失業問題外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2020年3月

経済協力開発機構(OECD)は2019年9月、『国際移民アウトルック2019 (International Migration Outlook 2019) 』を発表した。当該報告書はOECD諸国における移民の動きや政策、労働市場に与える影響について分析する年次刊行物である。2019年版では特に、OECD諸国における一時的な移住者による労働貢献の大きさや、家族の存在が移民の長期的な社会統合に与える影響について取り上げられている。

永住移民受入れの動向

OECD諸国全体の新規永住移民受入れ総数は、庇護申請の減少により2017年に522万人へといったん減少を見せたが、2018年は家族移民や労働移民の増加により約530万人へと微増(2%増)した(図1)。

図1:OECD諸国の移住者受入れ総数の推移
図1:画像

出所:国際際移民アウトルック2019掲載データより筆者作成。

注:2018年は各国の統計における増加率をもとに算出した推定値(最終更新:2019/10)。

永住移民の受入れの状況は国ごとに異なる。アメリカでは主に家族移民(家族の呼寄せ、帯同、婚姻等)の減少により、2017年の受入れ数が2016年より約5%減少した。一方、ドイツでは庇護申請の受理数が少なかったため、受入れ数は約18%減少した(図2)。

2017年の移民受入れの状況を要因別に見ると、4割が家族移民であり、永住移民の流入の最大要因となっている(図3)。

図2:国別永住移民受入れ数の推移
図2:画像

出所:国際移民アウトルック2019掲載データより筆者作成。

図3:永住移民受入れ数の要因ごとの割合
図3:画像

一時的移住者の労働市場に与える影響

短期労働移民(更新不可または制限付きで更新が認められる居住許可で暮らす就労目的の一時的移住者)は、2017年に大幅に増加し490万人を超えた。しかし、通常はこの数値に含まれない留学生や短期労働移民の帯同家族等も、受入れ国の労働市場に影響を与える可能性があるため、本書ではそれらの者を含めた広義の一時的移住者(自営業者除く)を対象に労働市場への影響の大きさをについて分析している。

OECDの推定によると、一時的移住者が全ての労働移民(永住者を含む)に占める割合は、ルクセンブルグ(53.4%)、韓国(45.7%)、日本(24.3%)、スイス(22.1%)で高い比率を示している(表1)。受入れ国の労働市場への貢献度に関しては、分析を行ったOECD加盟20カ国のうち6カ国(ルクセンブルグ、スイス、ニュージーランド、韓国、イスラエル、ベルギー)において、一時的移住者は受入れ国の居住者雇用人口を2%以上増加させた。受入れ国の労働市場における一時的移住者の重要性が高まっており、これまで永住者に主眼が置かれてきた移民労働に関する議論や政策に、新たな視点が必要になることが示唆される。

表1:労働移民全体に占める一時的移住者の割合及び受入国労働市場への貢献度*
  一時的移住者割合 労働市場への貢献度   一時的移住者割合 労働市場への貢献度
ルクセンブルク 53.4 65.5 イスラエル 8.7 2.1
韓国 45.7 2.4 アメリカ 7.3 1.3
チリ 35.2 1.9 アイルランド 6.9 1.5
日本 24.3 0.7 ドイツ 6.6 1.1
メキシコ 23.7 0.1 カナダ 5.8 1.3
スイス 22.1 9.2 オーストラリア 5.2 1.6
チェコ共和国 14.6 1.5 ギリシャ 5.0 0.4
ニュージーランド 12.7 3.6 スウェーデン 4.3 0.8
エストニア 11.5 1.1 フランス 3.5 0.5
ベルギー 11.0 2.1 スペイン 2.2 0.4

出所:OECD” International Migration Outlook 2019”掲載データより筆者作成。

*一時的移住者の参入による受入国の居住雇用人口の増加割合を表す。

家族の再会と社会統合

受入れ国における移民の社会統合状況の分析には、雇用状況、労働時間、賃金水準、受入れ国の言語の習熟度といった尺度が用いられる。既婚移民の場合、配偶者の呼寄せが遅れるほど収入が低くなる一方、雇用可能性は高くなる傾向にあるが、言語の習熟度については影響が見られなかった。また配偶者、両親とともに生活し、特に子供がいる場合は、雇用可能性が高く、労働時間が長いことも示された。

OECDは分析結果より、家族の存在が移民の社会統合に正負両方の影響を与えることを示した。さらに、移民のグループや受入れ国によって、移民の家族が社会統合に与える影響が大幅に異なる可能性があり、それを念頭に置いて慎重に調査を実施すべきであると述べている。

参考

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