全国規模のゼネスト
 ―労働法改革に抗議

カテゴリー:労使関係労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2020年3月

モディ政権は、44もの多岐におよぶ労働関連法(Labour Act)を4つの法典(Code)に統合する労働法改革を進めている。労働組合側は経営者優遇だとして、2019年1月と8月にはINTUC(インド全国労働組合会議)やAITUC(全インド労働組合会議)といった10の中央労働組合(注1)が全国規模のストライキを行った。抗議行動は、2020年1月8日に実施され、2億~2億5,000万人(労組側試算)が参加するゼネラルストライキに発展した。主要労組がすべて参加する全国規模のストライキは、モディ政権が2014年に成立して以後、4回目となった。

44の労働関係法を4つの法典に改編

改革は、既存の44の労働関係法を、労使関係法典(Code on Industrial Relations)、賃金法典(Code on Wages)、社会保障法典(Code on Social Security)、労働安全衛生および労働条件法典(Code on Occupational Health Safety and Working Conditions)の4つの法典に再編するものである。

労使関係法典は、労働組合法(1926年)、労使紛争法(1947年)などの重要な条項を統合したものとなるが、複数の組合がある場合、団体交渉の相手方として承認されるためには、労働者の75%以上の支持が必要となるほか、ストライキおよびロックアウトには14日間の事前通知期間が必要となるなど、団体交渉やストライキの要件が厳しくなる。法律の適用対象は従来通り従業員規模100人以上の企業・事業所であるが、政府の判断で増減可能という条項が盛り込まれている。工場閉鎖やレイオフには使用者が政府に事前許可を求める必要があるが、その労働者数も政府判断で適宜変更できるという柔軟性が盛り込まれている。また、これまで不明確だった有期契約の定義が明文化された。今回の改正で企業は3カ月、6カ月または1年の任意の期間、有期雇用できると明記された。有期契約の期間満了は解雇とはみなされない。

この改正に対して労働組合は、労働組合活動の独立性を脅かすものとして反対している。

最低賃金の適用対象拡大

賃金法典は、既存の賃金支払い法(1936年)、最低賃金法(1948年)などを1つに再編したもので、これまで法定最低賃金の適用対象となっていなかった農業労働者やレストラン、食堂の就労者などを含めて拡大する条項が盛り込まれている。これにより、5億人に最賃が適用されると見込まれている。このほか、賃金支払い遅延に政府が対処する条項も盛り込まれている。

この改正に対し、最低賃金の決定の基準となる労働日と労働時間が不明確であること、技能水準に合わせた賃金の引き上げの方法が不明確である上に、最賃額を決定する委員会メンバーに労働組合の代表が含まれていないことなどを労働組合は問題視している。

有期契約労働者を対象とする社会保障の改革

社会保障法典の改正は、これまで適用対象が限定的だった社会保障制度を有期契約労働者やギグワーカーを含めた普遍的な制度にする条項が盛り込まれている。これまで受給資格になかった勤続5年未満の有期契約労働者も給付対象とする。

労働安全衛生および労働条件法典は、13の連邦レベルの労働法を統合して、10人以上の労働者を雇用するすべての企業に適用を拡大する。これにより、4億人が対象となると見込まれている。

ビジネス環境への適合を改正趣旨とする政府、労働者保護の後退に抗議する労組

政府は法改正の趣旨について、時代遅れになっている従来の規定を現在のビジネス環境の実態にあわせるとともに、複雑な労働基準関連の規定を簡素化するものと強調している。結果として、雇用創出が促進されると改革の意義を説明している。しかし組合側は、雇用主の採用・解雇に関する裁量の柔軟性を高めるとともに、労働法による労働者保護を後退させるものだとして撤回を求めている。また、合法的なスト実行を抑制する条項が含まれており、労働組合の団体交渉権を阻害する改革だと非難している。主要10大労組は全国各地でストライキを展開し、製造業、鉱業、エネルギー、交通、銀行、公共サービス、建設などの産業に広がっている。

参考資料

  1. Labour code on mandatory minimum wages notified; 50 crore workers to benefit The code ensures minimum wages along with timely payment of wages to all employees and workers, Economic Times, Aug 23, 2019.
  2. Central Trade Unions begin two-day nationwide strike, Business Standard, January 8, 2019.
  3. Unions upset over draft wage rules, The Hindu, Nov 2, 2019.
  4. Govt introduces Labour Code on Industrial Relations bill in Lok Sabha, Economic Times, Nov 28, 2019.
  5. Unions to protest against industrial relations code, Economic Times, Nov 22, 2019.
  6. The Code on Wages, 2019: Understanding the key changes to wages, remuneration and bonus, Economic Times, Dec 21, 2019.
  7. Bharat Bandh: Banking, transport services may be hit due to strike today, Economic Times, Jan 08, 2020.
  8. Cabinet approves bill to merge 13 labour laws into single code, Economic Times, Jul 11, 2019.
  9. Why labour unions have called for a nationwide strike today: Explained, Business Standard, Jan 8, 2020.
  10. インド政府ウェブサイト(Press Information Bureau Government of India Ministry of Labour & Employment新しいウィンドウ
    など
  11. インド労働・雇用省ウェブサイト(Government of India, Ministry of Labour & Employment, Labour Law Reforms新しいウィンドウ

(ウェブサイト最終閲覧:2020年3月17日)

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