政府が中小企業における週52時間労働制の定着に向けた補完対策を発表
2020年1月から労働時間の上限を週52時間以内に制限する法律が従業員50~299人の中小企業にも適用された。政府は2019年12月11日、「50~299人週52時間制現場定着のための補完対策」を発表し、啓発期間付与(1年)、人材採用支援の強化及び外国人労働者の支援、特別延長労働認可事由の拡大、業種別支援策の推進等を内容とする中小企業向け補完対策を実施する方針を示した。
勤労基準法改正に基づく週52時間制の導入
韓国では2018年2月、労働時間の上限を週68時間から週52時間に短縮する改正勤労基準法が成立し、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働かせることができる延長労働の上限を週28時間から週12時間に削減した。施行期日は、従業員規模に応じて段階的に、300人以上の企業と公共機関は2018年7月1日、50人以上300人未満の企業は2020年1月1日、5人以上50人未満の企業は2021年7月1日となっている。30人未満の企業については、2021年7月1日から2022年12月31日までの間、労使合意に基づき、週12時間の延長労働に加えて、さらに週8時間の特別延長労働が許容される。
また、延長労働の上限規制(週12時間)を超えて労働をさせることができる特例業種の範囲を改正前の26業種から5業種(陸上運送業、水上運送業、航空運送業、その他運送関連サービス業、保健業)に削減するとともに、特例存続5業種には11時間の休息時間保障(勤務間インターバル制度)を導入した。
中小企業における労働時間の実態と週52時間制の準備状況
従業員50~299人の27,000事業所を対象に政府が実施した労働時間実態調査の結果によると、2019年10月時点で週52時間を超える勤務者がいる事業所の割合は15.6%であった。業種別には、製造業(30.5%)、運輸・倉庫業(20.0%)、情報通信業(18.6%)、宿泊・飲食店(17.6%)の割合が高い。従業員規模別では、100~199人(20.5%)、200~299人(18.5%)、50~99人(13.0%)の順となっている。
週52時間を超える勤務者がいる4,239事業所における常用労働者に占める週52時間超勤務者の割合は19.9%であり、その平均労働時間数は58.6時間であった。
週52時間超勤務の発生頻度については、不規則に発生(35.3%)、特定職種で年中常時発生(34.7%)、全職種で年中常時発生(26.9%)、特定時期にのみ発生(25.9%)の順に回答が多かった。発生理由については、不規則な業務量のため適時採用が困難(58.1%)、専門性等により代替人材の採用が不適切(43.9%)、費用負担のため新規採用が困難(30.1%)、求人難(28.1%)、慣行的残業(19.2%)の順に回答が多かった。
週52時間制の実施に備えた準備状況に関しては、法律施行時に問題はない(現在も週52時間を遵守)(57.7%)、準備中(33.4%)、準備ができていない(8.9%)の順に回答が多かった。週52時間超勤務者がいる事業所の回答は、準備中(76.2%)、準備ができていない(23.8%)の順であった。準備ができていない事業所(8.9%)における準備不足の理由については、追加採用の人件費負担(34.5%)、求職者がいない(17.5%)、注文の予測が困難(12.4%)、労働組合との協議(フレキシブル・ワーク制導入等)が困難(9.4%)の順に回答が多かった。
50~299人企業に1年間の啓発期間を付与
政府は、2020年1月から週52時間制が従業員50~299人の中小企業に適用されるのに備え、雇用労働部の地方官署等を通じて支援を行ってきた。しかし、中小企業は元請・下請構造により業務量を自律的に統制することが難しく、人事・労務管理体制の不備により、準備に困難を抱えている企業が多いのが実情である。
このため、政府は2019年12月11日、8つの関係省庁合同で、現場から数多く提起された問題点を解消することに重点を置いた「週52時間制現場定着のための補完対策」を発表した。
補完対策では、まず、従業員50~299人の中小企業に対し、2020年1月から1年間の啓発期間を付与し、期間中は長時間労働監督の対象から除外することとした。
労働者の陳情等により法律違反が摘発された場合は、十分な是正期間(最大6カ月)を付与し、期間内に企業が自主的に改善した場合は、処罰なしに事件を終結させる。告訴・告発事件の場合も、法律違反の事実とともに、事業主の法律遵守努力の程度、故意性等を調査し、これらを参考に事件を処理するよう検察と協議するとしている。
週52時間制を2018年7月から従業員300人以上の企業に適用した際も、政府は、準備期間の不足を理由に、法適用を猶予する9カ月の啓発期間(第1次:2018年12月31日まで、第2次:2019年3月31日まで)を与えた。
現場支援及びコンサルティングの提供
政府は、啓発期間中に中小企業が週52時間労働制の準備が完了できるよう現場支援及びコンサルティングを行う方針である。
全国48の雇用労働部の地方労働官署に「労働時間短縮現場支援団」(労働監督官、労務士等で構成)を設置し、企業をマンツーマンで密着支援する。勤務体系の設計(交代制への改編、フレキシブル・ワーク制の導入)、関連専門家の相談支援、職場革新コンサルティング(労働時間短縮、人的資源開発・管理等に関する詳細なコンサルティング)などのサービスを提供する。
労働時間短縮のため、新規採用が必要な企業に対しては、雇用センターを通じて求人と求職のマッチングを最優先で支援する。特に大規模の追加採用が必要な企業を重点支援事業所に選定し、採用支援担当者を指定して採用代行等の支援を行う。
また、週52時間労働制導入に伴う新規採用人件費、既存在職者の賃金保全費用、間接労務費等の費用負担を軽減するための対策を講じる。仕事づくり支援事業を拡大し、労働時間短縮で労働者数が増加した事業主を対象に、新規採用人件費(月80万ウォン、最長2年)及び既存労働者の賃金保全費用(最高月40万ウォン、最長2年)を支援する。労働時間短縮定着支援事業を新設し、積極的に労働時間を短縮した企業を選定して、奨励金(1人当たり20万ウォン×6カ月)を支給する。若年者追加雇用奨励金、中高年雇用支援事業等の予算規模を拡大し、労働時間を短縮した企業が新規採用を行う場合にも活用できるようにする。
新規採用を行ったにもかかわらず、求人難が深刻な中小企業(5~299人の製造業事業所)に対しては、雇用許可制に基づき「非専門就業(E-9査証)」の在留資格で働く外国人労働者の事業所別雇用許可人数を一時的に拡大(20%の上限拡大)する。また、内国人を新規採用した人数分だけ、雇用許可制の総雇用許可割当数の限度内で外国人労働者の新規雇用許可人数を追加する。当該企業の申請に基づき、雇用労働部地方官署の「労働時間短縮現場支援団」が労働時間短縮計画、内国人求人努力計画等の書類を確認する。
特別延長労働の認可事由を拡大
勤労基準法施行規則の改正により可能な範囲で、特別延長労働の認可事由を拡大する。特別延長労働は、勤労基準法に基づき、特別な事情がある場合、雇用労働部長官の認可と労働者の同意を得て、使用者が労働者に特別延長労働をさせることを許容する制度である。同法施行規則に基づき、認可事由は災害及びこれに準ずる事故の発生時のみに限定されているが、これ以外に、①人命の保護及び安全の確保のために必要な場合、②施設・設備の突然の障害・故障等、突発的な状況の発生によりそれを収拾するために緊急な対処が必要な場合、③通常でない業務量の大幅な増加が発生し、短期間にそれを処理しなければ事業に重大な支障や損害がもたらされる場合、④「素材・部品専門企業等の育成に関する特別措置法」第2条第1号及び第1号の2による素材・部品と素材・部品生産設備の研究開発及びその他の研究開発を行う場合であって、雇用労働部長官が国家競争力の強化及び国民経済の発展のために必要と認める場合――等の事由にも拡大する(表1)。
表1:特別延長労働認可事由の拡大
画像クリックで拡大表示
出所:雇用労働部発表資料「50~299人週52時間制定着のための補完対策」を基に作成。
各省庁が業種別特性を勘案した支援策を推進
各省庁でも、所管業種の特性を勘案し、業種別の構造的・慣行的問題の改善、労働時間短縮企業の優遇、業種別週52時間制ガイドの整備等の様々な対策を推進する計画である(表2)。
製造業では、労働時間を短縮した中小企業に対する政策資金及び技術保証を優遇支援し、スマート工場等の施設や設備の構築を支援する。建設業では、週52時間制適用による人件費増加が建設工事の単価に適時反映されるよう、「標準市場単価」算定体系を改編し、現在、訓令で運用している「工期算定基準」を法制化する。ソフトウェア関連では、政府省庁及び公共機関のソフトウェア開発事業の早期発注を推進し、課題変更時の契約金額の調整や遅滞賠償金限度の設定等の内容を含むソフトウェア標準契約書を改善・普及させる予定である。路線バス事業では、安定した路線バス運行のため、約3,000人のバス運転人材養成、就職フェアの開催等、新規人材確保を支援し、僻地路線運行損失金等の費用支援を推進する計画である。これ以外にも、社会福祉・農食品・文化芸術・コンテンツ・観光・スポーツ等、業種別支援を強化する。
表2:業種別特性を勘案した支援策の推進
画像クリックで拡大表示
出所:雇用労働部発表資料「50~299人週52時間制定着のための補完対策」を基に作成。
弾力的労働時間制の単位期間の延長に関する法改正
李載甲(イ・ジェガプ)雇用労働部長官は、週52時間制はワーク・ライフ・バランス向上、生産性向上、少子化問題等の社会的難題を解決するための核心的政策課題であり、政府は確固たる意志を持って週52時間制の現場定着に全力を傾けると表明した。
また、根本的な問題解決には、政府の認可制度でなく労使が自律的に運用する弾力的労働時間制等の法改正を通じた制度改善が不可欠であり、政府は法案の迅速な処理に最善を尽くすと強調した。
弾力的労働時間制は、使用者が労働者に対し、一定の単位期間内(就業規則に基づく2週間以内(週48時間以内)または労使協定に基づく3カ月以内(週52時間・1日12時間以内)に労働時間を調整することを前提に、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて勤務させることができる制度である。企業側は3カ月間では労働時間の調整が難しいとして、単位期間の延長を強く主張している。政府は、単位期間を最長3カ月から6カ月に延長する勤労基準法改正案を2019年の定期国会に提出したが、12月までの会期中には成立しなかった。
政府は週52時間制の啓発期間内に国会で弾力的労働時間制の単位期間延長に関する法案が成立した場合、今回の補完対策を全面的に再検討・調整するとしている。また、同法案が啓発期間内に成立しない場合は、経済状況、企業規模別の労働時間短縮の推移等を考慮して追加的な対策を検討する方針である。
参考
- 政府報道資料「50~299人週52時間制定着のための補完対策」(2019年12月11日)
参考レート
- 100韓国ウォン(KRW)=9.12円(2020年2月25日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2020年 > 2月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > 韓国の記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 労働法・働くルール、労働条件・就業環境
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > 韓国
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > 韓国
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > 韓国