企業従業員年金制度の統一に向けた取り組み
今年7月1日、中央政府は企業従業員基本養老保険(年金)基金にかかる国務院通知を公布し、従業員の年金基金調整制度を開始させた。中国では、年金負担における地域間の格差が拡大している。同制度によって、年金基金の徴収・配分、基金管理、財政補助などを規定し、将来的な年金制度の一元化を目指す。
年金財政の収支に大きな地域間格差
2017年の年金基金の総収入は43310億元で、そのうち、徴収額が33403億元、政府の補助金が8004億元だった。総支出は38052億元、年末の剰余金累計額は43885億元となっている。中国全体では、毎年年金基金の収入が支出を上回り、基金の剰余金は増加を続けている。
しかしその一方で、地域間の格差が拡大している。経済発展の度合い、定年退職者の増加、労働力人口の減少などによって、政府補助を受けなければ年金収支がマイナスとなる地域が次々と現れている。2017年11月発表の「中国社会保険発展年度報告2016」では、2016年の従業員基本年金について、当年度の支出額が収入額を上回ったのは、青海省(△17億元 )、湖北省(△18億元)、内モンゴル(△22億元)、吉林省(△52億元)、河北省(△90億元)、遼寧省(△254億元)、黒竜江省(△320億元)の7つの地域であった。これらの地域では、不足分を政府補填に依存しており、その額も年々増加している(表1)。
他方、毎年の収支が黒字になる地域では多額の剰余金が蓄積されている。剰余金累計額が最も大きい広東省では7258億元にのぼり、次に北京市(3524億元)、江蘇省(3366億元)、浙江省(3225億元)、山東省(2306億元)、四川省(2158億元)、上海市(1848億元)と続く。
年 | 政府補填 | 基金収入 | 基金支出 | 剰余金累計 |
---|---|---|---|---|
2002 | 480.2 | 2551 | 2843 | 1608 |
2003 | 530 | 3044 | 3122 | 2207 |
2004 | 614 | 3585 | 3502 | 2975 |
2005 | 651 | 4312 | 4040 | 4041 |
2006 | 971 | 5215 | 4897 | 5489 |
2007 | 1157 | 6494 | 5965 | 7391 |
2008 | 1437 | 8016 | 7390 | 9931 |
2009 | 1646 | 9534 | 8856 | 12526 |
2010 | 1954 | 11110 | 10527 | 15365 |
2011 | 2272 | 13956 | 12765 | 19497 |
2012 | 2648 | 16467 | 15562 | 23941 |
2013 | 3019 | 18364 | 18470 | 28269 |
2014 | 3548 | 20434 | 21755 | 31800 |
2015 | 4716 | 23016 | 25813 | 35345 |
2016 | 6511 | 36768 | 31854 | 35580 |
2017 | 8004 | 33403 | 38052 | 43885 |
出所:「中国労働統計年鑑2017」、暦年人力資源と社会保障事業発展統計公報
このような地域間格差は、各地の年金扶養率にも表れている。年金扶養率とは、何人の加入者(現役世代)が1人の受給者(高齢者)を支えているかを示す指標である。2016年度の各地の扶養率は、広東省が9.25、福建省が5.5、北京市が5.01に対し、黒竜江省が1.3、吉林省が1.47、内モンゴルが1.58であった。今年6月13日に行われた「中央調整制度」に関する人力資源と社会保障部の記者会見によると、高齢化の加速や就業形態の多様化、地域経済発展の不均衡などを要因として、地域間の年金扶養率の格差が拡大しているという。
中国全土の統一制度へ向けた取り組み
従来、中国各地における従業員基本年金の保険料比率、納付基数(年間の平均月額賃金)、待遇基準、調整方法などは統一されてこなかった(注1)。例えば、従業員基本年金の保険料納付についてみると、納付は、年金基金(企業拠出分、賦課方式)と個人口座(個人拠出分、積立方式)の二本立ての仕組みで、企業と個人はそれぞれが各省の定める比率に沿って納付している。原則的に、企業負担は賃金の20%、個人負担はその8%とされているが、現在(2018年8月時点)、個人負担は全国一律で8%であるのに対し、企業負担については地域によってばらつきがある。ほとんどの地域では19%だが、2018年4月から上海市では20%と全国最高となり、浙江省や広東省では平均14%で全国最低である。経済発展の速い広東省でも企業の年金保険料の負担は経済発展の遅い地域より大きいわけではない。中国政府は、これまでに、企業の負担を軽減する目的で、段階的に社会保障費を引き下げる政策をとっており、2016年から企業の年金負担部分が最大20%に、2018年5月からは最大19%とされた(注2)。
さらに、統一に向けた一歩として、2018年7月1日から年金基金の中央調整制度が開始した。新たな調整制度は、各地域からの基金の徴収・配分、管理および財政補助などを規定するもので、年金を十分に支給するための「中央調整基金」の設立を定めた。中央調整基金は、各省の年金基金から、年金加入者数や従業員平均賃金等を元に算出された上納金を徴収し、その総額を、各省の定年退職人数等に基づき各地に配分する(表2)。これにより、年金加入者数が少なく、年金受給者の多い地域が恩恵を受けることが推察される。
なお、現在実施している国の年金補助政策は継続される。中央政府から配分される中央財政補助金と中央年金調整基金を受給したあとで残された、各省(地域)の年金保険基金不足部分は、これまでと同様に地方政府によって負担される。
内容 | 方法 |
---|---|
徴収 | 各省(地域)上納金額=(各省従業員平均賃金×90%)×各省従業員年金加入者数×上納比率(現行3%、今後引き上げ) ※各省従業員平均賃金は都市部非私営企業と私営企業従業員の加重平均金額である。 |
配分 | 各省の配分額=各省定年退職人数×全国一人あたり配分額 全国一人あたり配分額=中央への上納基金金額/全国定年退職人数 |
管理 | 中央レベル社会保障基金財政専用口座(注3) ※財政予算の均衡を図るために使用してはいけない |
財政補助 | 現行の国家財政による年金補填政策と補填方式には変更なし |
出所:従業員基本養老保険(年金)基金の中央調整制度の設立に関する国務院通知(国発「2018」18号)
注
- これまでも、市や県など、省の下位レベルでの保険料率等に差異がある地域や、年金情報の管理も各市や県が行う地域があるなどしたため、省内での統一が図られてきた。しかし、省レベルの取り組みだけでは諸問題の解決が難しく、全国レベルでの調整を行う必要性が出てきた。(本文へ)
- 2016年中国人力資源社会保障部と財政部は、企業の負担を軽減するために、「段階的な社会保障費率の減少に関する通知」を打ち出して、同年5月1日から2年間の暫定装置を設定した。そのうち、企業従業員年金保険料率の企業負担部分について、20%を超えた地方は20%に下げる旨が規定された。さらに、2018年5月1日から保険料率の引き下げが延長し、年金の企業負担分の保険料率が19%を超えた地方は19%に、料率が19%で9カ月分以上の給付額に相当する基本養老保険基金の累計余剰額がある地方は料率のままで2019年4月30日に延長することが定められた。(本文へ)
- 全国社会保障基金財政専用口座とは、財政部門が国有商業銀行に開設し、社会保障資金の預金と管理とにもっぱら用いられる口座を指す。この口座には利息が発生する。財政部は社会保障基金に対して特別に規定を設けており、社会保障基金は財政専用口座にしか預け入れできず、みだりに動かすことはできないとして、資金の安全性を保証している。(本文へ)
参考文献
- 中華人民共和国中央人民政府、中華人民共和国人力資源社会保障部、各種新聞(第一財経、21世紀経済報道、北京商報網)のウェブサイト
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=16.35円(2018年12月11日現在 みずほ銀行ウェブサイト
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