2020年までの最低賃金1万ウォン達成は実現困難に

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最低賃金委員会は7月14日、2019年に適用される最低賃金を2018年の時給7,530ウォンから820ウォン(10.9%)引き上げ、8,350ウォンとすることを決議した。雇用労働部長官は8月3日、最低賃金委員会の決定どおり2019年の最低賃金を定めることを告示した。これにより、文大統領の大統領選挙の公約である2020年までの時給1万ウォンの達成は、事実上、実現困難な見通しとなった。

使用者委員は業種別最低賃金の導入を要求

韓国の最低賃金法では、雇用労働部長官の要請に基づき最低賃金委員会が最低賃金案を審議・議決し、労使団体による異議申し立て期間を経て、雇用労働部長官が毎年8月5日までに最低賃金を定めることとされている。

公労使各9人、合計27人の委員で構成される最低賃金委員会は、2019年1月から適用される最低賃金について審議するため、4月13日から7月14日までの間に15回の全体会議を開催した。

7月4日の第10回会議において、使用者委員から、業種別、企業規模別の最低賃金未満率の格差が深刻化していることを考慮し、現在のような全国一律の最低賃金ではなく、業種ごとの状況を勘案して、業種別に最低賃金額を設定するよう提案があった。しかし、7月10日の第12回会議において、委員23人が出席(労働者委員4人が欠席)して採決が行われ、14人が反対してこの提案は否決された。

最低賃金の水準に関しては、7月5日の第11回会議において、労働者委員が時給10,790ウォンへの引き上げ(前年比43.3%増)を主張した。2019年1月からの最低賃金の算入範囲拡大(定期賞与及び福利厚生費の一部を最低賃金に算入(注1))に伴う賃金減少を考慮し、2018年の最低賃金7,530ウォンを7.7%引き上げた8,110ウォンを基準に、さらに33%(7,530ウォンから1万ウォンを達成するために必要な引き上げ率)の引き上げ(8,110ウォン×133%=10,790ウォン)を要求したものである。

使用者委員は、2018年の最低賃金の大幅引き上げ(16.4%)により甚大な影響を受けた、零細企業が加盟する小商工人連合会等の要求を背景に、前年同額の時給7,530ウォンに据え置く案を強く主張した。この水準は、業種別最低賃金の適用が担保されない状況において、最も劣悪な条件の業種を基準に提示されたものである。

2019年の最低賃金は10.9%引き上げで決着

その後、委員会での労使の議論は平行線をたどり、7月14日の第15回会議において、委員14人が出席(使用者委員9人及び労働者委員4人が欠席)するなか、公益委員案の時給8,350ウォンと労働者委員の修正案の時給8,680ウォン(前年比15.3%増)の採決が行われ、8人対6人で公益委員案が最終的に議決された。

韓国経営者総協会、中小企業中央会及び小商工人連合会は、最低賃金委員会が議決した最低賃金案に対する異議申立書を雇用労働部長官に提出した。雇用労働部長官は、検討の結果、最低賃金委員会の審議・議決の過程に瑕疵はなかったとして、8月3日に最低賃金委員会の決定どおり、2019年の最低賃金を定めることを告示した。

2019年の最低賃金となる時給8,350ウォンは、2018年の時給7,530ウォンを820ウォン(10.9%)引き上げるものである。月換算(月209時間、有給週休を含む)では、前年より171,380ウォン増加し、1,745,150ウォンとなる。

最低賃金引き上げの影響を受ける労働者数は、雇用形態別労働実態調査基準で209万人(影響率18.3%)、経済活動人口付加調査基準で501万人(影響率25.0%)と推定される。

図表1:韓国の最低賃金(時給)の推移
図表1:画像

労使の評価と政府の対応方針

使用者側は、企業規模にかかわらず、一律2桁(10%以上)の引き上げに強く反発した。中小企業中央会は、「今回の引き上げは零細企業の支払い能力を考慮していない。代案なき最低賃金の追加引き上げは弱者層の雇用をさらに奪い、格差を拡大させる」と懸念を表明した。小商工人連合会は、「最低賃金委員会は使用者側が欠席するなかで一方的に決定された」として、決定に従わない考えを表明した。全国コンビニエンスストア加盟店協会は、「従業員5人未満の事業者には、業種別かつ地域別に差別化して最低賃金を適用すべきである。現行の最低賃金制度は、零細事業者と労働者の信頼関係を壊し、所得の二極化を生む原因となっている」と主張した。

労働組合側は、韓国労働組合総連盟(韓国労総)が「文大統領が公約した最低賃金1万ウォンを2020年までに達成するための最小限の要求である15.3%の引き上げ率を主張したが、力不足だった」としている。全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、国会で5月28日に成立した最低賃金の算入範囲を拡大する最低賃金法の改正に猛反発して最低賃金委員会の審議を途中からボイコットした。7月13日には、大統領府前で「最低賃金削減法廃止と最低賃金改悪阻止」のための決起集会を開催し、7月14日の最低賃金を決定する最低賃金委員会の採決には民主労総系の労働者委員が欠席した。

2019年の最低賃金の引き上げが10.9%に止まったことにより、文大統領の大統領選挙の公約である2020年までの時給1万ウォンへの引き上げを達成するためには、2020年に最低賃金を19.8%引き上げる必要があり、事実上、実現困難な見通しとなった。

文大統領は7月16日、「公約を守れず、お詫びする。政府は可能な限り早期に最低賃金で1万ウォンを実現できるよう、最善を尽くす」と表明した。また、「最低賃金の引き上げ速度を維持するために何より重要なのは最低賃金引き上げの影響を韓国経済が吸収していくこと」として、「零細業者の経営が打撃を受け、雇用が減少しないよう雇用安定資金などの補完対策づくりに最善を尽くす」と述べた。

参考資料

  • 最低賃金委員会2018年7月14日付発表資料ほか

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