低賃金層における賃金低迷の要因

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2018年8月

シンクタンク Resolution Foundation が5月に公表した報告書によれば、近年の最低賃金の引き上げにより、国内の低賃金層の比率は減少したものの、こうした層の賃金水準は持続的に低迷している状況にある。報告書はその要因として、より賃金の高い仕事への移行のしにくさや、少数の企業による寡占、また特に女性労働者において賃金水準が向上しにくい傾向などを挙げている。

低賃金層は減少しているが

報告書(注1)によれば、被用者全体に占める相対的低賃金層(賃金の中央値の6割未満の賃金水準)の数は、被用者の18%に当たる490万人に減少、2003年以来の低い水準にある(注2)。これには、25歳以上層向けの新たな最低賃金制度として、昨年導入された「全国生活賃金」が影響していると報告書はみている。全国生活賃金は、25歳以上の労働者について、従来の全国最低賃金額(21歳以上に適用、2016年4月時点で時間当たり6.50ポンド)より高い最低賃金額(7.20ポンド)を設定したもの(注3)。制度導入時点の2016年4月には、低賃金層がおよそ30万人減少したとされる。

低賃金層の比率が高い業種は、宿泊・飲食サービス業(58%)、卸売・小売業(33%)、農業(31%)など。また、パートタイム労働者では4割弱(36%)が低賃金層に属すると推計されている(フルタイム労働者では11%)。

報告書は、今後も最低賃金の引き上げにより、低賃金層の減少は継続するとみているものの、2020年にも依然として400万人以上が低賃金職種に従事していると予測、最低賃金の引き上げのみでは政策的対応として不十分との見方を示している。

低賃金に滞留する理由

低賃金層の賃金水準の低迷を招いている要因として、報告書は3点を挙げている。

一つは、低賃金職種における昇進のしにくさだ。例えば、代表的な低賃金職種である小売業の販売補助職では、「売り場から最上階へ」(from shop floor to top floor)という表現でしばしば成功のストーリーが語られるものの、実際により高い職種に移行している層はごくわずかであるという(注4)

また、少数の企業が支配的な業種や地域では、賃金水準が低迷する傾向にあり、低賃金層は特にその影響を強く受ける傾向にあるとしている。例えば、国内企業のごく一部にすぎない従業員規模5000人以上の企業が、低賃金労働者の28%を雇用している。あるいは、全国でも低賃金労働者の比率が高い(全国平均の18%に対して24%)ノッティンガムでは、わずか5社が、低賃金層の5人に1人を雇用している。

加えて、低賃金労働者の比率が高い女性労働者(就業者に占める低賃金労働者の比率は、女性で22%、男性では14%)では、より顕著に低賃金への滞留の傾向がみられるという。転職する場合にも、他の低賃金の仕事に移る場合が多く、また男性の低賃金層に比べて、少数の大企業に雇用されている比率が高い。

報告書は、しばしばみられる低賃金労働者への依存は不可避であるとの論調に対して、2点を挙げて転換の可能性を論じている。一つは、他の先進国における低賃金労働者の比率はイギリスよりずっと小さいが、失業者がその分多いわけではなく、また低賃金業種における生産性はイギリスより低い状況にある点だ。加えて、全国生活賃金の導入により極端に賃金水準の低い層のみが減少し、中間的な賃金水準の労働者との間の格差が減少していることを挙げている。

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