実態に合わせた失業率を所期経済目標に採用

カテゴリー:雇用・失業問題

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2018年8月

2018年3月5日に全国人民大会が開催され、中国政府は2018年の主要所期経済目標を、「実質GDP成長率6.5%前後、都市部新規就業者数1100万人以上、都市部調査失業率5.5%以下、都市部登録失業率4.5%以下」と発表した。今回、従来の都市部登録失業率に加え、初めて「都市部調査失業率」が主要所期経済目標として採用された。

都市部登録失業率と実態の乖離

中国の都市部労働力に対する失業登録制度は、1970年代末に始まった。当時は「待業登録」と呼ばれ、すべての都市戸籍を持つ失業者は政府労働部門に登録しなければならなかった。これが、1994年から「失業登録」へ改名され、以来「都市部登録失業率」(注1)は重要な統計指標として使用されてきた。

ところが、ここ十数年、「都市部登録失業率」は景気によらず一貫して4.0%~4.3%と低い数字を維持しており、失業の実態を反映しなくなってきた。その要因として、主に以下の問題が指摘されている。

まず、1990年代半ばから、国有企業を中心とする大規模な人員整理によって大量のレイオフ人員(「下崗」(シャーガン)と呼ばれる)が生まれた。彼らは職場の持ち場から外されてはいるものの、企業との「雇用関係」は消滅しておらず、レイオフ人員として生活費などを受け取っている。このため、失業登録の対象とならない(注2)。こうしたレイオフ人員は、1998年から2000年の間、2550万人を超えていたが、都市部登録失業率は3.1%を維持していた。

次に、農村から都市へ出稼ぎにきている労働者(「農民工」)の存在がある。2017年末時点で、中国の就業者数7億7640万人のうち、出稼ぎ労働者(農民工)は2億8652万人を数える。しかし、農民工は都市に戸籍をもたず、都市部登録失業率に含まれないため、就業人口の4割近くを占める出稼ぎ労働者の失業状況は反映されない。それ故、2008年のリーマンショックの影響を受けて、大量の出稼ぎ労働者が失業を余儀なくされた年でさえ、都市部登録失業率は4.2%にとどまった。

他にも、就職できない新卒者への失業登録の制限や、統計対象となる年齢の制限も挙げられる。就職ができずにいる新卒者は、卒業後6カ月が経過するまで、失業登録を行うことができない。また、都市部登録失業率の年齢制限は、男性16~59歳、女性16~49歳と定められている。

以上のように主要な問題は、「失業登録」の対象となる失業者が極めて限定されていることにあるが、その一方で、「失業登録」の対象である失業者にとっても、登録のインセンティブが高くないことが指摘される。失業者が失業登録を行う目的は、失業保険を受給し、新たな職をみつけることである。しかし、「中国社会保険法」(2011)は、失業保険金を受給する要件として、①保険料の納付期間が失業前から一年以上あること、②自己都合でない離職であること、③失業登録を行い、就職希望があること、という三つの事項を定めている。このため、要件の①ないし②に当てはまらない失業者にとって、失業登録を行うメリットはほとんどない。また、(失業登録によって利用できる)公的職業紹介所の利用者は少なく、ほとんどの求職者は民間企業の人材紹介会社やインターネット上の募集などで求職活動を行っている。

以上の要因が重なり、「登録失業率」では、都市部における労働者の実際の失業状況を把握することが難しい。

世帯訪問に基づく調査失業率の運用開始

そこで、より実態に近い失業率を示すため、2005年から「調査失業率」が試験的に導入された。まず、2004年9月、国務院弁公庁「労働力調査制度への設立に関する通知」が発表され、都市部と農村部の就業と失業調査制度が設立された。通知において、毎回の標本抽出で40万世帯を選び、そのうち16歳以上人口(130万人)の就業状況について世帯訪問で調査を行うとされた。その調査内容は、調査対象の年齢、性別、住所、教育程度、就業状況、職業と業種、作業時間、失業原因、失業時間、収入および社会保障加入状況である。

国家統計局の発表によると、近年の調査は次の通り実施された。2009年以降は、31大都市を対象に毎月調査を行い、農民工に関しては6カ月以上都市に定住している者を失業統計の対象とする方針も定められた。2013年4月から対象地域は65大都市に拡大された(注3)。2015年7月調査では、これがすべての地級市(注4)に拡大され、毎月約12万世帯(これまでは4万世帯)を対象に調査が行われた。2016年からは正式に全国調査となった。

李克強首相は2013年9月、「フィナンシャル・タイムズ」に2013年上半期の都市部調査率(5%)を初めて発表し、以来、調査失業率は不定期に公表されてきた。統計局の発表によると、2013~2016年の31大都市調査失業率は、基本的に5%以下の水準を維持しており、2017年9月は4.83%、2017年12月は4.9%であった

2018年4月17日、国家統計局は、正式の失業統計としては初めて都市部調査失業率を発表した。今年1~3月の全国調査失業率は5.0%、5.0%、5.1%、全国の主要31都市の調査失業率は4.9%、4.8%、4.9%であった。

参考文献

  • 新華社、人民日報、労働報、北京青年報

関連情報