小規模事業所における雇用の実態
―処遇格差解消のための課題と示唆点
統計庁の2014年の「全国事業所調査」によれば、従業員数5人未満の事業所数は310万であった。この数は2006年の270万から40万増加している。同期間における従業員数5人から299人の事業所は18万の増加、300人以上の事業所は999の増加であった。従業員数5人未満の事業所の顕著な増加が確認できる。従業員数5人未満の事業所の従事者数もこの間、480万1000人から558万7000人に増加した。近年、従業員数5人未満の事業所が雇用を押し上げているという見方ができる。
しかしながら、このような零細事業所は生存率が低いこと、従業員の勤続年数が短いこと、また、勤労基準法(日本の労働基準法に相当)上の一部適用除外があること等、零細事業所の雇用は相当な脆弱性を帯びており、その緩和策が必要であると韓国雇用情報院(KEIS)は指摘する。以下、KEISの報告概要を紹介する。
卸小売業、宿泊飲食店業で小規模事業所が大幅増加
KEISは、近年大幅に増加している従業員数5人未満の事業所における雇用が、全般的に脆弱性を伴っていることを指摘する。まず、増加の中心となっている産業が卸小売業と宿泊飲食店業であることを挙げ、この2産業における「企業の低い生存率」「労働者の短い勤続期間」という特徴に触れている。全産業をとおした企業の5年生存率の平均が27.3%であるのに対し、卸小売業では24.3%、宿泊飲食店業では17.3%である。また、平均勤続年数も、全産業をとおした平均が5.16年であるが、卸小売業では4.29年、宿泊飲食店業では1.68年である。企業の生存率と労働者の勤続年数は密接な関連にあると考えられるが、従業員数が5人未満の零細事業所がこの2産業に多いことが雇用の脆弱性につながっているとKEISは説明する。
小規模事業所の構造的問題
「企業の低い生存率」と「労働者の短い勤続期間」は当然のことながら、賃金等労働条件にも大きく影響する。従業員数が5人未満の事業所と5人以上の事業所では、就職時点で、定額給与の差が存在する。大企業と中小企業といった企業の規模による賃金格差はこれまで継続して提起されてきた韓国の労働市場における大きな問題のひとつとなっている。2007年対比で2015年の月当たり給与の増加率を企業規模別に見ると、表1のとおりである。
従業員規模 | 2007年平均月額給与 (単位:ウォン) |
2015年平均月額給与 (単位:ウォン) |
増加率 (単位:%) |
---|---|---|---|
300人以上 | 3,632,000 | 4,938,000 | 36.0 |
30~299人 | 2,441,000 | 3,031,000 | 24.2 |
5~29人 | 1,988,000 | 2,473,000 | 24.4 |
5人未満 | 1,402,000 | 1,738,000 | 24.0 |
- 出所:韓国雇用情報院(KEIS)の資料を基に作成。
これに加え、事業所規模が小さい程、勤続期間に対する報酬が低くなるという韓国の一般的な賃金構造がある。これにより、従業員数5人未満の事業所の労働者とそれ以上の規模の事業所の労働者との間の賃金格差は、通算すると広がっていく。こうした構造的な問題が、企業の低い生存率と併せて、長期勤続に対する期待感を弱めていくという問題点をKEISは指摘している。
勤労基準法上の適用除外がもたらす格差拡大
また、KEISは、従業員数が5人未満の事業所における労働者の脆弱性は、セーフティネットの適用に深く関わった制度上の問題であると説明している。すなわち、5人未満の事業所には労働時間や賃金を規定する勤労基準法が適用されないという事実を指摘する(注1)。例えば、「週当たりの労働時間は40時間を超過できない」という規定(同法第50条)があるが、これらをはじめとした労働時間に関する規定や延長、夜間及び休日労働の場合による使用者の賃金加算支給義務の規定(同法第56条)等は、5人未満の事業所は適用対象外である(表2のとおり)。これこそが、従業員数が5人未満の事業所の労働者の低賃金と長時間労働時をもたらし(注2)、従業員数が5人以上の規模の事業所との労働条件格差を拡大させていくと指摘する。KEISは、従業員数が5人以上の規模の事業所は勤労基準法の死角地帯に置かれていると表現している。
除外事項 | 内容 |
---|---|
第23条1項による「解雇理由等の制限」 | 使用者は正当な理由なく解雇が可能。 |
第27条による「解雇理由等の書面通知」 | 使用者には解雇理由等に対する書面通知義務が免除。 |
第28条による「不当解雇等の救済申請」 | 第23条1項の規定除外により、使用者は正当な理由なく解雇されても、労働者は労働委員会に救済を申し込むことができない。 |
第50条~第53条による「労働時間」の規定、制限 | 勤労基準法の制限を超えての労働時間が可能。 |
第56条による「延長、夜間及び休日労働の」加算手当支給 | 第50条~第53条による「労働時間」の規定、制限を超えた労働に対して、使用者は加算手当の支給義務が免除。 |
- 出所:韓国雇用情報院(KEIS)の資料を基に作成。
小規模事業所の脆弱性の解決策が急務
この他、KEISは有給休暇付与率の低さ、社会保険加入率の低さ、非正規職の割合の高さといった側面にもその脆弱性が露呈していると指摘している。
昨今、従業員数が5人未満の零細事業所とその従事者の数は着実に増加してきている。これを考慮すると、その脆弱性を放置することは今後大きな社会問題に発展する可能性がある。この脆弱性は単に低い賃金水準にのみ起因するものではなく、前述したように、勤労基準法の保護を受けられない点に起因する部分が大きい。したがって、勤労基準法の対象を労働者1人以上の全事業所に拡大する方策を検討する時期に来ているとKEISは主張する。景気停滞局面で一層脆弱性を増すことになる零細事業所も含めた中小企業の労働者と大企業の労働者の処遇格差を減らしていくためには、長期的には中小企業の収益回復のための産業政策が重要であると提言している。
注
- 勤労基準法第11条「この法律は常時5人以上の勤労者を使用する全ての事業又は事業場に適用する」。(本文へ)
- 2016年8月の「経済活動人口調査」によれば、事業所規模別週40時間実施率は、5人未満の事業所では26.3%、5~9人では47.6%、10~29人では68.9%、30~99人では82.2%、100~299人では86.5%、300人以上では99.0%である。(本文へ)
参考資料
- 「雇用動向ブリーフ」2017年4月号(韓国雇用情報院)
参考レート
- 100韓国ウォン(KRW)=10.09円(2017年10月26日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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