ナショナル・ライト・トゥ・ワーク法案

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  • 国別労働トピック:2017年3月

2017年2月1日、連邦下院議会にナショナル・ライト・トゥ・ワーク法案が提出された。この法案は、労働組合に入らない権利を労働者に認めるという名目で、労働組合費を企業側が代行して徴収する、いわゆるチェックオフを禁止するものである。

労働組合費のチェックオフ禁止

ナショナル・ライト・トゥ・ワーク法案は、アイオワ州スティーブ・キング連邦下院議員とサウス・カロライナ州ジョー・ウィルソン連邦下院議員によって提出された。

この法案は、労働組合と企業の団体交渉の手続きを規定する法律である全国労働関係法(NLRA)の改正により、組合保障条項(union security clauses)とチェックオフの禁止をめざしたものである。

組合保障条項とは、労働組合に加入した従業員が労働組合の方針や規約に従わない場合、労働組合が企業に対して、その従業員の解雇を認めさせる項目を労働協約のなかに織り込むことである。この条項は、労働組合員を縛ることが目的ではなく、企業側が個々の従業員に企業側につくように働きかけることで労働組合の団結力を弱体化させることを防ぐものである。

チェックオフとは、使用者が従業員に賃金を支払う際に天引きすることで労働組合に代行して労働組合費を徴収する仕組みのことをいう。組合保障条項が禁止されれば労働組合の団結力が弱まる。チェックオフが禁止されれば労働組合は労働組合費を集めることが難しくなって財政基盤が弱体化するだけでなく、労働組合の交渉の成果である労働条件や社会保障の引き上げといった恩恵を「ただのり(フリーライド)」で手にする労働者の存在を許すことになる。つまり、ライト・トゥ・ワークという名称は「労働者の権利」という意味がありながら、その実態は、労働組合の弱体化をめざしたものである。

企業競争力を優先する政策

ライト・トゥ・ワーク法はすでに各州で法制化が続いており、全米50州のうちで過半数を超える28州がいわゆるライト・トゥ・ワーク州となっている。ライト・トゥ・ワーク州とそうでない州とでは労働組合の組織率に大きな差がみられるようになっており、平均で1.6%ほど低い。

トランプ大統領は、ビジネスの分野で各州が公正な競争を行うためにライト・トゥ・ワーク法の拡大を大統領選挙の公約の一つに掲げていた。その大きな理由は、労働組合が組織される企業では、労働組合が従業員の柔軟な働き方を阻害し、一人ひとりの従業員が自らの職務の範囲に閉じこもるため、労働組合が組織されていない企業と比べて、従業員による企業経営に対するコミットメントやチームワークを通じた協働といった点で大きく遅れをとるという考え方によるものである。そこから、ライト・トゥ・ワーク州になることで州内への企業誘致が促進されるといった政策も登場している。ナショナル・ライト・トゥ・ワーク法案もその延長線上にある。

キング連邦下院議員は、2015年にも同様の法案を議会に提出している。その時は128人の賛同者を得て、教育・労働市場委員会(the Education and the Workforce Committee)で審議されたが、そのまま廃案となっていた。

1950年代半ばには35%を超えていた組織率を2016年10.7%に低下させ、民間企業に限っては6.4%ほどの組織率にとどまる労働組合は今回の法案に強く反対している。しかし、労働組合の支持をうける民主党が政権を運営していた2015年と異なり、共和党が上院、下院議会で多数派を占めるとともに、ライト・トゥ・ワーク法の成立を公約に掲げたトランプ大統領の誕生は、労働組合にとって大きな危機をもたらしている。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

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