IT技術の発展や職場の自動化が雇用に与える影響

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2017年1月

インターネットの発展や就労現場での作業の自動化が、雇用機会に影響を与えることが指摘されている。フランス戦略庁(France Stratégie)は、2016年7月、職場の自動化が雇用に与える影響に関する報告書を公表した。雇用労働者の15%に相当する340万人(2013年)の職が自動化できる一方で、40%近くに相当する910万人の職の自動化が難しいという調査結果が示された。民間シンクタンクによる推計では今後20年間に現在ある職業の約42%が自動化されるとの試算も見られるが、職業や職種をどのように区分して定義づけするかによって分析結果は変わってくる。

科学技術の発展が雇用を脅かすのではないかという懸念は、とりわけ、新しいものではない。1930年代初頭に、イギリスの経済学者ケインズは、労働者が機械に置換されることによって起きる失業として、「技術的失業」に言及している(注1)。ただ、現実には、大量失業が起きることはなかった。

人口知能の発達や財・サービスの提供が可能なロボットの出現、自動運転の乗用車の開発などが進む中、改めて自動化や情報通信技術の雇用に与える影響が注目されている。

フランス戦略庁

首相府下の経済諮問・調査機関・フランス戦略庁は、自動化の雇用に与える影響に関する報告書を発表した(注2)。この報告書は、労働省の調査・研究・統計推進局(DARES) が定期的に実施している労働条件実態調査(Enquête Conditions de travail)(注3)に基づいて分析したもので、2013年時点で、雇用労働者の40%近くに相当する910万人の職は自動化することが難しいと指摘している。顧客等の外部の要求に即時に臨機応変に対応する必要性のある職種が該当する。その数は雇用労働者の35%に相当する690万人だった1998年から220万人ほど増加した。それに対して、予め定められた指示に忠実に従う職種が自動化可能であると定義した上で、雇用労働者の約15%に相当する340万人がこの種の職に就いているとする(2013年)。このような職の就業者は、1998年及び2005年と比較して減少傾向にある(注4)

産業別にみた場合、製造業で25%の労働者が自動化が可能な職に就いていると推計している。逆に、顧客との接触が多いサービス業では、自動化の可能な職は13%に過ぎない。フランスでは、雇用労働者のうち製造業で就業する比率が減少し、サービス業で就業する者の比率が増加し続けている(注5)。このため、自動化の可能な職の就業者の数及び比率が減少傾向にある。また、新たな技術の革新や就労形態の出現によって、業務の内容に変化が起こり、自動化が困難になる場合もある。つまり、報告書は自動化の可能な職が減少すると同時に、自動化の難しい職が増加していると分析しているのである。

この報告書は、情報通信産業の発展が、雇用を破壊すると結論付けてはならないと強調する。技術的に機械化や自動化が可能であっても、業務遂行上や組織の運営上の問題、社会的に受け入れられるかどうか、導入に伴う費用を考慮した場合に収益性が見合うかどうかなど他の要素も影響する。情報通信技術の発展は、既存の雇用の破壊をもたらすだけではない。業務内容の変遷及び新たな雇用の創出に繋がる可能性もある。

その上で、この報告書では、企業が製造工程に情報技術を導入することで得られた生産性の向上は、商品価格の引き下げや従業員の賃金の引き上げ、企業の更なる投資をもたらし、需要の拡大や家計の購買力の増加、投資の増加、ひいては雇用拡大に繋がり得ると指摘している。

政府による同種の報告書として、雇用方向性評議会(Conseil d'orientation pour l'emploi)が、「自動化・デジタル化と雇用(Automatisation, numérisation et emploi)」というテーマで、2016年末に公表する予定(注6)

経済分析評議会

経済分析評議会(Conseil d’analyse économique:CAE)は、情報通信技術の発展で、一部の職業(雇用)が消滅するとする報告書を2015年10月に発表した(注7)。経済分析評議会は、首相府の管轄下にあり、経済に関する様々な分析を行い、政府の経済政策の意思決定に必要な情報を提供している(注8)。この報告書は、地下鉄の案内や銀行の一部業務など、型にはまった仕事を自動化される業務として挙げている。その他にも、人工知能の発達などで、機械そのものが学習したり、膨大なデータを処理することで、弁護士や医者のような高度な能力を必要とする業務の雇用も脅かされかねない。一部の業務は、顧客自身が行うようになることで失われる。例えば、インターネット経由の物品購入は、店舗の販売員を減少させることに繋がる。トリップ・アドバイザーやウイキペディアなどのような利用者参加型の情報共有ウェブサイトは、出版社の就労者ライターなどの雇用機会を奪っている。情報通信技術の発達により、例えば民泊など、個人が商品サービス市場に参加することが可能になったことで一部の雇用を脅かすことにつながる(注9)。タクシー運転手などの許認可が必要な職業の従事する労働者は、情報技術の発達で新たに参入してくる業態との競争に対して反対する傾向があると報告書は指摘している(注10)

情報産業の発展が雇用を創出する側面にも触れている。プログラマーなど情報技術者に限られた雇用創出ではなく、情報通信技術の発展によって運転手つき観光自動車(VTC)の運転手やインターネット電子商取引に起因する流通に関係する雇用、旅行関連に従事する個人の増加などが起こるとしている。ただ、型にはまった作業内容は自動化されるため、ロボットやコンピューターで代替することが難しい業務が重要となってくると指摘している。

情報通信技術の発達で労働市場の二極化が進展していることも明らかにしている。マネージメントや創造的な仕事が増加すると同時に、高度な能力は必要としないが、型にはまった作業ではない仕事なども増加している。その結果、賃金水準が中程度の職が減少すると分析する。フランスでは、1990年以降、高賃金労働者と低賃金労働者の比率が高まり、中程度の賃金の労働者の比率が低下している。1990年から2012年までの間に、最も低い賃金の労働者(層)の比率は1.2ポイント、最も高い賃金の労働者(層)の比率が1.4ポイント、それぞれ上昇したのに対して、中央値(付近)の賃金の労働者(層)の比率は0.85ポイント低下した(注11)

非賃金労働者(独立自営業者)の増加も指摘している。市場参入にかかるコストが低下したこと、顧客に直接サービスを提供できるようになったこと、就業時間に柔軟性が生まれ、複数の職の掛け持ちの調整が簡単になったことなどが背景にある。非賃金労働者の比率は、1970年以降、低下が続いていたが、2001年に底を打ち、上昇に転じた。フランスでは、個人事業主制度(注12)の創設も、非賃金労働者の比率の上昇に寄与している(注13)

マッキンゼー・フランス

コンサルティング会社のマッキンゼーの研究機関であるマッキンゼー・グローバル研究所(McKinsey Global Institute)の報告書(2011)(注14)によると、フランスでは過去15年間に、インターネットの発展により50万人の雇用が失われたが、同時に120万人の雇用が創出された(注15)。すなわち、インターネットが、失われた雇用の2.4倍もの雇用を生み出したと指摘する。

また、マッキンゼー・フランスの報告書(2014)(注16)では、フランスの賃金労働者の3.3%に相当する約88万人を情報通信産業を直接雇用していると指摘する(2011年)。間接的な雇用、すなわち情報通信産業に対する財・サービスの供給やインターネット電子商取引に起因する流通などに従事する労働者は、70万人から100万人と推計している。合計すれば、情報通信産業が約150万人から200万人の雇用を生み出していることになる(注17)

ローラン・ベルガー研究所

2013年、オックスフォード大学の研究チームは、自動化できる職種に関する研究の結果を公表し、アメリカでは20年後に47%の職種が自動化できると結論付けた。

経営戦略コンサルティング会社のローラン・ベルガー研究所(Roland Berger Strategy Consultants)は、オックスフォード大学の分析手法をフランス経済に当てはめた研究結果をとりまとめた。それによれば、経済のデジタル化、情報通信産業の発展に従い、向こう20年間で自動化される可能性が高い職種に就いている労働者は、全体の42%に上る(注18)。自動化が可能な職種は、肉体労働だけでなく、人口知能などの発達により、管理部門や知的な業務を行う職種にも及ぶと指摘している。2025年までに情報化により300万の雇用が失われる可能性があるとも推計している(注19)。特に、サービス業の雇用が影響を受け、中間層が大きな打撃を受けると指摘している。

しかしながら、この推計は過大評価だとの指摘もある。ある種の職が自動化できるとしても、初期投資や稼動に必要な費用によっては、収益を上げることができず、実際には機械等が導入されない可能性などの自動化にかかる経済的効率性が考慮されていない。法制度により当該の職種の自動化が認められない可能性が考慮されていないこと、さらには、労働者等の反発により自動化を断念せざるを得ない事態などが勘案されていないといったことがその理由だ(注20)。雇用喪失の推計値について、新たに創出される雇用は考慮していないなどの問題点もある。

OECD

情報技術の発展や自動化による雇用への影響についての分析結果は、職業や職種をどのように定義づけするかによって変わってくる。ローラン・ベルガーの報告書は、多くの職が自動化可能であるという分析結果を示しているが、そこで用いられている職業・職種の区分を、細部化して分析し直してみると、実際は自動化が困難な業務が含まれている可能性があるとの指摘もある。OECDが発表した報告書(注21)がそれである。ここでは、職業により自動化のリスクを推定するのではなく、より細分化された業務(task) により推定することを試みている(注22)。それによると、アメリカやフランスで業務が自動化できる可能性が高い業務は9%にとどまると推計している(注23)。これは、フランス戦略庁の報告書と比較的近い結果となっている。

(調査部海外情報担当)

(特に断わりのない場合のウェブサイト最終閲覧日:2017年1月13日)

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