高齢化社会に対する企業の認識と対応
―韓国労働研究院(KLI)調査結果より

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2016年12月

社会の急速な高齢化に伴い、労働力の高齢化も進んでいる。2015年の統計(統計庁、経済活動人口調査2015)では、50歳以上の就業者数は965万5000人で、全就業者数の37.2%を占め、20代、30代の就業者数を初めて上回った(注1)。こうした中、2016年より、「定年延長法」が施行され(注2)、大企業と公共部門については定年を60歳以上とすることが義務付けられた(以下「定年60歳義務化」と表記する)。

急速に進展する労働力の高齢化と定年60歳義務化という状況において、韓国企業はどのように対応しているのか。韓国労働研究院(KLI)は、定年60歳が義務化される直前の2015年6月から7月にかけて企業調査を実施し、分析している。その概要を紹介する。

定年年齢と実際の退職年齢

本調査は、製造業、金融・保険業、公共部門の3つの産業における従業員数100人以上の企業272社に対して実施された。調査時点(定年60歳義務化前)で、定年制はほとんどの企業に存在(93.4%)しているが、定年年齢と実際の退職年齢が一致するか否かという質問に対しては(注3)、一致すると回答した割合が大半を占めた(88.2%)。しかしながら、銀行、保険、造船等の業種では30%程度が一致しないという回答であった。例えば、銀行においては、事務職の定年年齢の平均は58.3歳であるが、実際の平均退職年齢は55.5歳であり、造船業の事務職でも、定年年齢の平均57.6歳に対し、実際の平均退職年齢は50.6歳ということが調査結果から明らかとなった(表1)。

表1:業種別定年年齢と実際の退職年齢 (単位:歳)
  事務職定年年齢 生産職定年年齢 事務職実際退職年齢 生産職実際退職年齢
自動車 57.8 58.1    
造船 57.6 57.7 50.6 55.8
機械 58.2 58.8 57.3 58.3
鉄鋼 57.5 57.7 59.0 60.5
電子 57.2 57.2 54.0 54.0
石油化学 58.3 58.4 50.0 58.0
繊維 56.8 56.8 57.8 61.5
食品 57.7 57.7 56.7 59.4
銀行 58.3   55.5  
保険 56.9   53.5  
証券 55.8      
公企業 58.9 59.3    
準政府機関 59.4 59.5    
その他公共機関 60.0 60.0 59.0  
全体 58.1 58.0 55.7 58.7
  • ) 調査時は定年60歳義務化前
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)

定年年齢と実際の退職年齢のギャップは、特に従業員500人以上の大企業で大きく現れる。500人以上の大企業の平均定年年齢は事務職58.5歳、生産職58.6歳で、これに対し、実際の平均退職年齢はそれぞれ51.8歳、54.3歳であった。一方、従業員数が100人から299人の企業では、定年年齢と実際の退職年齢との間のギャップは存在しない、もしくは実際の退職年齢の方が高いという場合もあった。これは、中小企業の場合、熟練生産職の人材不足により、定年後の再雇用などで継続雇用が図られているとKLIは分析している。

定年60歳義務化に向けた対策として、最も多かった回答は「賃金ピーク制(注4)の導入を通じた人件費の負担軽減(53.3%)」であった。次が「高齢者の生産性向上の対策の整備(10.3%)」、その後に「特に準備していない(9.6%)」が続く。企業は主として賃金ピーク制の導入を通じて人件費の軽減を図ることが重要であると考えていると言える。

高齢者に対する評価

企業の高齢者に対する評価としては、「熟練度が高く専門性がある」「リーダーシップと対人関係能力に優れている」「勤務態度がまじめで献身的である」と、主として肯定的に評価していることも本調査は明らかにしている。否定的な面としては「保守的で権威的である」「変化への適応能力に劣る」といった評価が見られた。なお、「健康面や体力面の問題で職務に忠実でない」という評価については、賛意は示されなかった。

企業は高齢者に対し、生産性の観点からどのような評価をしているのかを見ると、入社時点では、賃金は生産性よりも高く、35歳から45歳の時点では、生産性が賃金を上回り、55歳位から再び、生産性に比べて賃金が高くなる、という評価をしている企業が多く、このことから、高齢者雇用に関して、企業は「人件費の負担が重くなる」という懸念強く持っていることがうかがえる(表2)。

表2:高齢者雇用に対する企業の懸念 (単位:点)
  製造業 金融・保険業 公共部門 全体
製品やサービスの品質に問題が生じる 2.51 2.58 2.41 2.49
人件費の負担が重くなる 3.64 3.89 3.52 3.63
生産性が低下する 2.99 3.16 2.92 2.99
青年層の採用が難しくなる 3.33 3.42 3.06 3.26
組織の活力が低下する 3.07 3.32 3.20 3.12
高齢者に適した職務がない 2.93 3.21 2.83 2.93
技能、技術の伝承が心配 2.95 2.74 2.68 2.86
高齢者活用のための設備や作業環境の整備が進まない 3.00 3.00 2.62 2.90
年齢、世代間のトラブルが大きくなる 2.86 2.95 2.90 2.88
昇進、配置管理が難しい 3.35 3.53 3.46 3.39
  • 注) 1点:全くそうではない、2点:そうではない、3点:普通、4点:概ねそうである、5点:全くそのとおりである
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)のデータを基に作成。

賃金ピーク制の導入状況

定年60歳義務化の対策として、多くの企業が挙げた「賃金ピーク制」であるが、実際の導入状況を見ると、「導入済み(20.8%)」「導入計画中(41.9%)」「未導入/導入計画はない(37.5%)」であった。公共部門では「導入済み」または「導入計画中」が多いが、製造業等では半数以上の企業が「未導入/導入計画はない」と回答している。

賃金ピーク制の導入とともに、定年延長や雇用延長が図られる場合、賃金がピークに達する平均年齢は56.7歳であった。また、ピーク時点の賃金に比べ、退職時の賃金は平均で73.1%の水準に低下することがわかった。とりわけ銀行の場合、賃金ピーク制による大幅な削減が見られ、ピーク時に比べ、退職時は50.0%の水準となっていた。

また、賃金ピーク制の導入は、「賃金と生産性の評価」と関連性が見られることも本調査は明らかにした。すなわち、55歳で賃金が生産性よりも高くなると評価している企業では、賃金ピーク制を「導入済み」または「導入計画中」と回答した割合が高いが、反対に、55歳で賃金よりも生産性が高いと評価している企業では、賃金ピーク制を「未導入/導入計画はない」と回答する割合が高い(表3)。

この他、賃金ピーク制の導入と賃金の主な決定要因との関連性を分析すると、生産職については、特別な関連性は見られなかったが、事務職については、職務や能力が賃金の主な決定要因になっている場合、年功や成果が主な決定要因になっている場合と比べ、賃金ピーク制を導入していない割合が比較的高かった(表4)。

表3:賃金ピーク制の導入と「賃金と生産性の評価」の関連性
  55歳頃の賃金と生産性の評価
賃金<生産性 賃金=生産性 賃金>生産性
賃金ピーク制を導入済/導入計画中 12件
(38.7%)
68件
(63.6%)
90件
(67.7%)
170件
(62.7%)
賃金ピーク制を未導入/導入計画なし 19件
(61.3%)
39件
(36.4%)
43件
(32.3%)
101件
(37.3%)
31件
(100%)
107件
(100%)
133件
(100%)
271件
(100%)
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)のデータを基に作成。
表4:賃金ピーク制の導入と賃金決定要因の関連性(事務職について)
  最も重視する賃金の決定要因
年功(勤続年数) 職務/役割 能力 成果
賃金ピーク制を導入済/導入計画中 79件
(65.3%)
31件
(56.4%)
21件
(48.8%)
39件
(73.6%)

170件
(62.5%)

賃金ピーク制を未導入/導入計画なし 42件
(34.7%)
24件
(43.6%)
22件
(51.2%)
14件
(26.4%)
102件
(37.5%)
121件
(100%)
55件
(100%)
43件
(100%)
53件
(100%)
272件
(100%)
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)のデータを基に作成。

高齢者雇用の活性化の提言

急速な高齢化に対応するため、企業が最も重要だと考える対策は何かという問いに対する企業側の回答の上位二つは「賃金ピーク制または成果給強化を通じた定年延長(45.2%)」「退職後の契約職、臨時職等による再雇用や雇用形態の多様化(25.4%)」であった。この上位二つの回答を合わせると70.6%に達する。この二つに続く回答は表5のとおりであるが、ここから言えることは、企業は基本的に人件費の負担軽減に高齢者対策の主眼を置いているということである。すなわち、企業は高齢者を人的資源として積極的に活用する対策を講じようと考えている、という見方をするのは相当困難であるという点をKLIは強調する。

本調査では、高齢者の人事管理制度についても調べている。企業が実際に設けている制度は「再雇用制度」「希望/早期退職制度」「退職準備、生涯設計教育」「体力的負担の少ない職務への配置転換」「系列/関連会社への転職」等が多く、全般的に見ると、高齢者を積極的かつ多様に活用しようという人事管理上の制度を持つ企業は非常に少ないことを調査結果は示した。更に、高齢者に関する人事関連案件がどの程度労使協議や交渉で扱われているかについても、「定年延長や保障」という直接的事案でさえ、「扱われている」と回答した割合は57.0%に留まり、その他「高齢者の職務開発、配置転換」「健康管理」「労働時間の短縮」等の事案については、労働組合がある企業でも交渉事案としている割合は20%前後という結果であった。

本調査によって明らかになった結果から、KLIは韓国企業の高齢化のための準備や対応は、労使共に非常に不足している状況であると結論づけている。すなわち、韓国企業の対応は、高齢人材への積極的アプローチではなく、「人件費削減」という観点に立ったものに過ぎないと指摘する。それに対し、例えば日本の企業は、高齢人材に対する認識はより積極的であり、高齢人材を企業の資源及び動力として活用しようというアプローチを取り、人事管理の複線化、職業能力開発、作業方法や環境の改善、健康管理ということに至るまで、様々な改革を通して高齢者の雇用安定と能力・生産性の向上に向けた努力を続けている点を示しながら、社会が急激に高齢化へと突き進む中、韓国企業はこれまでのような消極的な姿勢から抜け出していく必要があるとKLIは提言する。

表5:高齢化に対応するため、企業が最も重要だと考える対策
  回答件数 割合%
賃金ピーク制または成果給強化を通じた定年延長 123 45.2
退職後の契約職、臨時職等による再雇用や雇用形態の多様化 69 25.4
高齢者の教育訓練を強化し、革新を通じた生産性の向上 22 8.1
作業環境の改善、工程の改善、職務調整等、製造業の環境改善を通じた高齢者活用の拡大 15 5.5
高齢者の特性に合わせた職務開発を通じての高齢者活用の拡大 15 5.5
企業の高齢者の継続雇用のためのインセンティブ強化 14 5.1
高齢者の技術及び能力開発へ誘導するためのインセンティブ強化 7 2.6
外国人労働者の活用拡大 2 0.7
事業所の海外移転等を通じた事業の積極的な構造改革 1 0.4
高齢者の需給円滑化のための制度の導入と改善 3 1.1
その他 1 0.4
合計 272 100
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)

参考資料

  • 「月刊労働レビュー」 2016年8月号 韓国労働研究院(KLI)
  • 「統計庁報道資料」2015年12月(統計庁)

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