職業教育から「技術教育」へ
―政府、改革案を公表
政府は7月、義務教育後の教育訓練に関する改革方針をまとめた文書を公表した。従来の職業教育より質の高い「技術教育」の提供を通じて、職業訓練を高等教育への進学と同等の選択肢として提示することを目指す内容で、より技能需要や職業にリンクした訓練の実施に向けて、新たな制度枠組みの導入が提案されている。
方針文書(注1)は、高度な技能を有する人材への急迫した需要の拡大や、生産性向上の必要性などを課題として掲げ、これに対して従来の職業教育(vocational education)は、進学しない若者向けの選択肢として提供されてきたために、低レベルの内容に留まっているとの問題を指摘。諸外国にならって、高度な技能を目標として設定し、これに到達するための段階的な訓練を実施すべきであるとして、制度改革の必要性を主張している。
改革案は、専門家グループへの諮問に対する答申(注2)をもとにまとめられた。柱となるのは、義務教育終了以降の進路として、高等教育進学と職業教育の二つのルートを選択肢として提示することだ。特に、進学に比して評価の低い職業教育の質の向上をはかり、「技術教育」(technical education)として提供することが企図されている。技術教育ルートには、労働市場の現状や将来的な技能ニーズの予測に基づく15分野が設けられ、雇用主の主導により、技能要件が基準として設定される。各分野には、カレッジでの2年間の座学ベースのコースとアプレンティスシップ(コースの20%が座学)を並置、相互に移行を可能にする。また修了後は、高等教育相当の技術教育や、学位レベルのアプレンティスシップに進むことができ、また高等普通教育への進学(または、普通教育から高等技術教育への進学)を橋渡しするコースの提供も検討されている。なお、16歳時点で技術教育ルートに進む準備ができていない学生に対しては、個別のニーズに合わせた1年間の支援プログラムが提供される。
本格稼動までの過渡的な措置として、比較的少数の分野について基準の作成を先行させ、2019年に技術訓練を試行的に開始することが予定されている。2020~22年の期間で残りの分野での導入が進められる。
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これに伴い、職業資格にも簡素化が図られる見込みだ。同種の資格がプロバイダごとに異なるものとして提供されてきた従来の制度とは異なり、職業ごとまたは職種グループごとに単一の資格が設定される(達成度によるレベルを設ける)。職業資格の開発を担う組織は、競争的手続きに基づいて選定され、排他的に権利を得ることになるとみられる。職業資格の承認については、アプレンティスシップ制度の運営機関として2017年4月に活動を開始するInstitute of Apprenticeshipが担う(注3)。
このほか、短期的なスキル需要が生じている特定の分野(住宅建設、原子力、高速鉄道、IT、その他STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)職種)については、専門の訓練機関やアプレンティスシップの促進など、追加的な措置が想定されている。
注
- "Post-16 Skills Plan"(本文へ)
- "Report of the Independent Panel on Technical Education"(本文へ)
- 技術教育全般への所管領域の拡大に合わせて、組織名もInstitute of Apprenticeships and Technical Educationに改称される。なお、2017年4月には、アプレンティスシップ負担金制度の導入も予定されている。給与支払い総額が300万ポンドを上回る雇用主に対して、0.5%相当額の拠出を義務付け、制度実施の財源に充てるものだが、政府の試算では98%の雇用主が拠出を免除される見込み。(本文へ)
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=132.03円(2016年9月28日現在 みずほ銀行ウェブサイト
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